第五十一話 惑うゼス(ゼス視点)
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さて、追い詰めたはずのゼスではありますが……?
それでは、どうぞ!
「……ふっ、はっはっはっはっ」
「っ、何がおかしいっ」
建国法典などという古めかしいものまで持ち出して追い詰めたはずの敵は、なぜか、愉快そうに笑う。
「あぁ、いえ、申し訳ない。別に、殿下を笑ったわけではないのです。ただ、予想以上に殿下が手強いようなので、どうにも、ね」
普通、敵が手強ければ真剣な面持ちになるとか、苦い表情になるとかだろうと思わなくもないが、そういえば、戦闘狂のような考え方ならば笑うのも有り得るのではないかと考え、ゾクリとする。
「さて、殿下。それでは続きと参りましょうか」
「続き? ならば、全面的に降伏することだな。そうすれば、直接の関わりがない者に限り、極刑は免れるようにしてやる」
追い詰めているのは俺の方だ。それなのに、ヘイルのその挑戦的な瞳を見ると、俺の方が追い詰められているような気分になる。
「おや、それはそれは、随分とお優しいですな。ですが、今の状態で我々側に死者が出るとは思えませんなぁ」
「……まだ、言い逃れができる、とでも?」
証拠はこちらに揃っている上、この屋敷は、秘密裏に包囲されつつある。例え、どうにかヘイルが逃げ出せたとしても、その後に待つのは悲惨な運命のみ。どこにも抜け道は存在しないはずなのに、ヘイルの余裕は崩れない。
「まさかっ。すでに、言い逃れができる段階は超えていることくらい、理解しておりますよ」
それならば、なぜ、そんなにも余裕があるのか、どんな手札を隠し持っているのか、分からないなりに、周囲を警戒するものの、それが何か、全く掴めない。
「そうですなぁ。では、一つヒントを。大切なものは、ちゃんと安全に配慮することですよ?」
「っ!? 貴様っ!!」
『大切なもの』と言われて思い浮かぶのは、当然、ネリアさんの顔。そして、そのネリアさんに危機が迫っているかもしれないという現実に、俺は思わず声を荒げる。
「ようやく、崩れましたね」
「っ……」
ネリアさんの側には、アルスもアルマも、それに、護衛として選抜したハルクとミエラ。それらの面々が揃っている上に、そもそも、場所が王城とあって、警備は万全のはずだ。だから、ヘイルの言葉はハッタリである可能性も存在する。ただ……。
(今、この場で確認する術がない……)
王命のために、そして、ネリアさんの危険を避けるためにと俺から切り離したことが、今、仇となっていた。
「さて、それでは殿下、選択肢を差し上げましょう。このまま私を捕らえて半身を失うか、半身のために私を見逃すか……どうなさいます?」
そう問いかけるということは、ヘイルは、何らかの方法で外部と連絡を取ることができ、ネリアさんはヘイルの手中にあるということを指し示している。つまりは……。
(ここまで来て……っ)
諦めるしかない。こんな男を捕らえることよりも、俺は、ネリアさんが大切なのだから。例え、ここで取り逃がしたことによって、ヘイルが後々大きく牙を剥くであろうことを予測していても、俺が取れる手段は、それしかなかった。
ネリアちゃんにいったい何が!?
と、まぁ、もうすぐそれを書くことにはなるんですけどね?
それでは、また!




