第三十二話 現状を知るアルス(アルス視点)
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さて、今回は初のアルス視点です。
それでは、どうぞ!
姫様の返事がなかったため、眠っているのかと思って叔母上とともに入室した私が見たのは、ナイフを真剣に、思い詰めたような表情で見つめる姫様だった。しかも、『よしっ、切ろう!』などという宣言までされて、不味いと思った私は、とにかくナイフを取り上げていた。
「アルスさん?」
「姫様っ、何をなさるおつもりだったんですかっ!?」
動転した私は、本来聞くべきではないことを聞いてしまう。これで、『死のうと思った』などという反応が返ってくれば、私達は、姫様の行動を監視して、制限しなければならなくなるというのに……。
「え? えっと……髪を、切ろうと思ったんですけど……」
「……髪?」
「アルス、よく見なさい。姫君は正直ですよ」
叔母上の言葉の意味は、姫様は嘘を吐いていないということだ。それを直球に言ってしまえば、姫様が気にしてしまう、というところにまで頭が回った結果なのだろう。
「……姫様、なぜ、果物ナイフで髪を切ろうと……?」
確かに、姫様の髪を切りそろえる必要性はあった。あまり手入れされていない髪は、枝毛も多く、そもそも丁寧に切り揃えられた形跡がない。
「? いつも、そうしていましたけど……」
そして知らされるのは、姫様自身が、自分で、髪を切っていたという事実。しかも、髪を切るのに適したわけでもない果物ナイフで切っていたという事実に、私も、そして、背後の叔母上も絶句する。
「っ、申し訳ありません。姫君。目が見えていない間の散髪は恐ろしいかと思って何もいたしませんでしたが、できるだけ早く、散髪師を呼びます」
「散髪師……?」
「はい、髪を切るための技術を磨いた専門職の者のことを、散髪師と言います」
「え? いや、あの、そんなにしてもらうわけには「いいえっ! 髪は女の命ですっ! 雑に扱うなどあり得ませんっ!!」あ、はい……」
姫様には、心身ともに落ち着いてもらってから、他の人間と少しずつ接触させてみようという方針でしたが、さすがにこの状況では仕方ない。今日中、もしくは、明日までには、姫様の髪は綺麗に整うはずだ。
ビクッと叔母上の剣幕に縮こまる姫様を見ながら、私は、それ以外に何か不自由があるのではないかと考える。ひとまず、髪以外を整えてはいるものの、まだ、様々な面で不足があるかもしれない。そして、姫様は自分からそれを告げることはないので、私達が気づかなければならないのだ。
(叔母上とも、確認をしなければ……)
そう考えながら、私は、本来の要件を思い出して、今、告げなければならないという事実に、舌打ちしたくなった。
ネリアちゃんは、自分の常識と周りの常識の違いが分かりませんので、アルス達が気にかけなきゃなんですよねぇ。
それでは、また!




