第十八話 旅するネリア(ネリア視点)
ブックマークや評価をありがとうございます。
昨日は、色々と忙しくて、こちらの作品にまで手が回りませんでしたが、今日はどうにか更新!
それでは、どうぞ!
旅、というものがどんなものなのか、私は知らなかった。何せ、今までの私は、落ちこぼれとして虐げられて、狭い世界でしか生きてこなかったのだ。そもそも、『旅』なんて言葉自体、ゼス様に説明されることで初めて知った言葉であり、あの国に、同じ言葉があったのかさえ怪しいのだ。
「ツラくはないか? 一応、できる限りは上等な馬車を使ってはいるが、あまり目立つこともできないから、せいぜいが商人が乗る程度の馬車でしかない。体が痛いとか、気分が悪いとかであれば、遠慮なく言ってくれ」
「大丈夫ですよ。今のところ、特に不自由は感じません」
馬車に乗るのは、これが初めてではない。王城へ連れていかれる際に何度も乗った。ただし……。
「むしろ、こんな快適な馬車は初めてです」
きっと、文化の発展はこちらの世界の方が進んでいるのだろう。激しく揺れる癖に、座席にベルトで固定されるなんてこともなく、十分程度の距離ですら全身が痛くなるなんてこともなく、ゼス様の体温を隣に感じながらの馬車での移動。正直、馬車の状態だけでなく、ゼス様の存在も快適な理由の一部かもしれない。……いや。
「ゼ、ゼス様?」
「何だ?」
「い、いえ、何でも……」
ある意味では、快適ではないのかもしれない。目が見えないながらも近くに感じるゼス様は、ことあるごとに私の頭を撫でてくれたり、髪を掬ってきたりする。その度に、私の心臓は不思議なくらいに飛び跳ねて、落ち着かなくなってしまう。今も、優しく頭を撫でられて、とても落ち着かない。
(うぅ……これは、何なの……?)
何となく、顔にも熱が籠もっている気がして、恥ずかしいような何ともいえない気分に陥る。もしかしたら、病気なのかもしれないとアルスさんにコッソリ相談したものの、アルスさんは嬉しそうに、なぜかゼス様へ祝福の言葉を送っていたので、何も分からない。
「殿下、半身を得て嬉しいのは分かりますが、姫君が限界のようです」
「む? そ、そうか……すまない。ネリア」
「……ぁ、だ、大丈夫、です……」
ふと聞こえた私とゼス様以外の声に、私は、どうにか正気に戻る。ただ、恥ずかしいという気持ちは一気に表面化したようで、まともに声も出せない。
「やはり、乳母という存在は強いものですねぇ」
「当たり前です。ラグス様も少しは強く出た方がよろしいのでは?」
「いえ、私は、余程でなければ殿下の味方でいたいと思いますので」
「……なるほど、では、私は姫君の味方をさせていただきますよ」
ちなみに、声をかけてきたのは、ゼス様の乳母であった女性らしく、どういう経緯か、私の世話係として任命されたらしい。名前は、アルマさんだ。
(……女性と話ができるのはありがたいけど、私の周りには居なかったタイプの人、かな……?)
まだ、ゼス様相手でさえ、どう接して良いのか手探り状態なのに、アルスさんもアルマさんも私の周りに居た人達とは違い過ぎていて、どうすれば良いのか分からないことの方が多くて困る。けれど、その困惑は、嫌なものではない。
(早く、目が見えるようになりたいなぁ)
とても、とても優しい人達を前に、私は、早く、この目が治れば良いのにと願う。彼らの姿を、しっかりと見たいし、目が見えないことで手を煩わせたくもない。だから……。
(早く、王都に着かないかな?)
王都の医者は、とても有能だから、私の目もきっと治ると、ゼス様は教えてくれた。だから……私は、まだ見ぬ王都を心待ちにし続けた。
さぁ、第二章に入って参りました。
第一章はネリアが追い出されて助けられるまでがメインでしたが、次は、王都へ向けての旅と、王都での出来事がメインになりそうです。
それでは、また!