第十七話 書簡と不穏の予感(ゼス視点)
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今回は、新たな展開へ続く内容ですねっ。
それでは、どうぞ!
俺が受け取ったのは、父上からの書簡だった。一応、俺の無事を父上に知らせないわけにはいかなかったため、その旨を認めた書簡をネリアと出会った翌日には出しておいたのだが、その返信は、あまり好ましいものではなかった。
(ネリアを連れて行くのは危険だ。だが、連れていかないとなると、それはそれで危ない……)
父上からの書簡は、俺が死んだと思った弟達が王位争いを本格的に開始したとの知らせ。弟のうちの二人は、それぞれに半身を得ている。ただ、その半身達は野心が強く、本来は温厚な弟達へ王位を求めるようにけしかけていた。
(俺が居た頃は、俺の存在が牽制になっていたが、死んだと思われてそんな状態になった、ということだな……)
俺の兄弟は、俺が長男で他に三人の弟と二人の妹が居る。そして、問題なのは次男と三男だ。この二人のどちらかが、まだ6歳の弟に毒を盛ったというのが、父上からの書簡の内容だった。
(戻れば、否応なしにネリアは王位争いに巻き込まれる。かといって、ネリアを置いて戻るのは、それはそれで俺に半身が居るということを示す結果になるから、ネリアの居場所を突き止めて人質にしようという動きが活発になるはずだ)
と、なれば、戻ることなく、このままネリアとともにひっそりと過ごすという手もあるが……。
(それは不可能、だな)
第一王子、ゼスの名と姿は、ウォルフ国においてあまりにも有名だ。そして、俺が半身を求めていることも、その期限が、ネリアと出会った翌日だったことも、とても有名なのだ。宿屋では口止めをしているものの、ネリアを救出した直後は、特にそういったことに気を配ってはいなかった。とにかく、ネリアを助けることしか考えていなかった。だから、遅かれ早かれ、噂は広まる。
(逃げて追手に怯える日々を送るのは、きっと厳しいだろうな……)
ネリアの目が見えないこともハンデであり、それが精神的なものだということも鑑みれば、ネリアに負担をかけることはしたくない。
「早急に戻るしかない、か……」
こうなれば、早急に王位争いに決着をつけるしかない。
ネリアの体調を考えれば、もう少しゆっくりしていたいところではあるが、俺がこの辺りに居ることくらい、弟達は掴んでいるはずだ。弟達が、俺の死を確信するために、誰かを送り込むとすれば、そろそろ、ここに到着していても不思議ではない。
栄養も休息もまだまだ足りないネリア。今だって、少し部屋の中を歩き回っただけで疲れて眠りに就いたネリアに、王都までの移動は酷ではある。
「アルス。馬車の手配は?」
「もちろん、滞りなく」
ネリアを救出した後、この展開を予想していなかったわけではないため、アルスに指示は出しておいた。と、なれば、ネリアの様子を見て、王都へ向かうべきなのだろう。
「……明日、ネリアに話して、王都へ向かう」
「畏まりました」
この旅が、どんなに危険であろうとも、俺はネリアを守り抜いてみせる。その決意を胸に、届けられた書簡を暖炉の火にくべた。
さて、王都、どんなところでしょうねぇ?
それでは、また!