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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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雨降って……

「相談……」


 そしてこちらは初耳だったか、セシウス王子は思ってもみなかった話を聞いた、みたいな顔をしてマリアンナを見てる。


「もう! 黙っていてって言ったのに! 王の妻になる娘が悩むとか! 駄目だって言ってるのに!」


 べしべしと割と遠慮なく、マリアンナはシスト王子の肩を平手で叩く。

 うん、気安い関係なのは良く分かった。


「――お前は、黙って飲み込むのだと思っていた」

「飲み込むわよ、決まったら。貴方だってそうでしょう?」


 自分の結婚が自由にならないことを、二人は教育されてここまで生きてきている。感情がどう心に訴えようと、国に従うつもりが二人ともにきっとあった。


「そうだな。そうするつもりだった。だが――ああ、確かに私は愚かだ」


 自嘲する笑みを唇に浮かべてから、セシウス王子は父王へと向き直る。


「父上。私は、マリアンナと別れたくはありません。そのための努力を、私は才能を言い訳にして諦めかけていた。今の私が王座に相応しくないのは、才覚以前の問題ですね」


 国のために身を引き、相応しい者に譲ろうとする姿勢は王子としては正しいのかも。だからこそ、王には足りない。


「どうか私に、いましばらく時間をください。必ずや民に私が望まれるようにします」

「……そうか」


 息子の決意に、クローバー王は力の抜けた笑みを浮かべた。


「私も、踊らされ過ぎていたようだ。才能とは、あり過ぎてもなさ過ぎても厄介なものだ。なあ、シスト」

「まったくですね」


 てらいなく同意するシスト王子。

 客観的な事実だから何も言わないけどさ……!


 こちらは堂々とし過ぎな息子の言い様に、クローバー王も苦笑する。


「では、妾への用件は茶葉の話ということで、相違ないな」

「ええ、その。わざわざご足労いただき、申し訳ない」


 わたしの目の前で婚約解消しますよって話をして、まあ、言外にセシウス王子との婚約どうですかって打診だったんだと思うけど。


 結婚はさ、好きな人同士がするものだと思いますよ? 本来は。


 政治的にも問題なくて、かつ好きになれたとか、もう奇跡だからね! せっかくの奇跡を手放すことないと思う。


 人の心を大切にしてくれるセシウス王子は、きっと良い王になってくれるから。


「構わん。他の女を心に残した男を紹介されずに何よりだ。――だがまあ、少しはマシな顔になったぞ、セシウス王子」


 何様ですかな言動にも、セシウス王子は苦笑しただけ。

 あ、気づいちゃった。クローバー王とちょっと笑い方が似てる。親子だなあ。


「叶わず貴女の元に行かねばならないのなら、自分で足掻ききって、しっかり未練を断ち切らなければ失礼でしたね。……おかげで、足掻けました。ありがとうございます」


 う、うん。踏ん切りをつける一助になれたならよかった……よ?


 素のわたしだったら多分、というか絶対言ってないやつだから、微っ妙ーに複雑ではあるけども。

 少なくとも、役に立った? とかってミラには知られたくない。


「存分に感謝して、崇めるがいい。では、妾は戻らせてもらうぞ。何分忙しい身だからな」


 嘘です。何も忙しくないです。城下の食べ歩きを予定しているぐらいには。


「そうそう。ゆえに、そろそろハート王国に帰ろうと思う。妾を見送るに相応しい宴を期待する」

「承知いたしました。精一杯、努めさせていただきます」


 請け負ったのはセシウス王子。その隣にはマリアンナがそっと寄り添う。

 とりあえずは一件落着、かな?




 パーティーの日を五日後に控え、わたしは部屋の姿見の前でくるりと一回転。うーん、身が軽い。


「妾の威厳は服装程度では誤魔化せんが、まあ、目の曇った愚民共には充分であろう」

「はいはい、大丈夫。良く似合ってるわよ。わたしが選んだんだから当たり前だけど」


 ありがとうございます。

 ニーナに太鼓判を押されて、わたしは姿見の前から離れた。


 カチコチと時計が時を刻む音が部屋の中に響く。そして時間ぴったりに扉がノックされた。


「やあ、エリノア。迎えに来たよ」

「時間通りだ。まあまあだな」


 早くても遅くても毒しか吐かない気がするんだけど、どこなら満足なんですかね、本当に。


「じゃあ、行こうか」

「帰りも時間厳守よ、エリノア。あと、人気のない所にはいかないこと!」

「ああ、うるさい。妾に物申すなど百年早いわ。死刑に処するぞ」


 人気のない所に行く予定も必要も、もちろんありませんよ。目的が城下町食べ歩きだからね。

 ただ、フェデリの方は違う印象を持ったみたい。首の後ろに手を当てて、微妙な顔をしてる。


「信用がないな」

「当たり前でしょう。信用を築くことしてないもの」


 そしてバッサリと容赦なし。


 ニーナから見たら仕方ないんだろうなあ、とは思うけども。わたしがフェデリの心情を『こうじゃないかな?』って思うのは、ゲームの彼がそうだったからだし。


 現実的には、自分の擁護とかは言葉にしない人だからね。


「時間が惜しい。さっさと行くぞ」


 これ以上話していてもおそらく険悪になっていくばかりなので、強引に言い切ると同時に歩き出す。動いてしまえばこっちのものさ。


 フェデリがニーナに手を上げて挨拶をしてから、わたしの後を追って来る。


「さて、どこに行こうか。希望はあるかい?」

「焼き菓子は外せんな。しかし何より、まずは一杯の茶だ」


 今、ティータイムの時間ですから。


「了解。まずはどこかで腰を落ち着けて一杯頂こうか」


 城の門を抜けて、城下町へ。この間行った広場は景観もいいし、露店も多くて賑わってたけど、緋猿が遠慮なく壊してしまっている。再開できる状況じゃないでしょう。


 フェデリが足を向けたのも、やっぱり別ルート。うん、もうどこに行くか分からない。


 とはいえ、フェデリがわたしを怪しい場所に連れて行くわけもない。賑やかな大通りは、むしろこっちがメインストリートかな? という感じさえする。


 もともとのメインに続く場所が壊れちゃってるせいだと思うけど。


「少し趣味の悪い話ではあるんだけど」

「うん?」


 わたしの前を歩きながら、不意にフェデリがそんな言葉から話を切り出してきた。


「セシウス王子たちの話が聞こえてきてね」


 嘘だ。


 聞こえて来てっていうか、意図的に聞かなきゃ聞けない部屋での話だもん。そして聞こうとしても難しい部屋。


 まあだからこそ先に『趣味が悪い』って前置きしたんだろうけど。


「彼は、勇敢な人だな」


 ――うん。


 立場とか、国のこととか、自分の気持ちとか。きっと沢山考えたと思う。

 その結果、彼は一度自分の恋を諦める選択をしようとした。


 よく分かる。きっとわたしもそうするから。


 でもセシウス王子は、諦めないことを最後には選んだ。

 それぐらい、辛かったんだろうな。心に嘘をついて諦めるのも。諦めてしまう弱い自分も。


「周囲に流されて己の意思さえ見失う愚図であるが、まあ、妾に面倒ごとが降りかかるのは避けられたわけだ。愚鈍な者同士、息が合うのではないか?」


 ふ、二人とも気遣い屋さんだからねっ。


「愚図、ね。まあ確かに、後がなくなるぎりぎりではあったな」


 わたしまでクローバー王に呼び出されるところまで行きましたからね。間違いなくぎりぎり。

 そういう意味では、わたしは恵まれてるなあ。迷えるってことは、余裕があるってことでもあると思うんだ。


「時間は大切だなと、凄く思ったよ。嘘を付いて本心を諦めるのは本当に辛そうだ。自分が味わうのは勘弁してもらいたい」


 うん、同感。


 つまり、あれだよね。今とりあえず近くにいられて、ジョーカーとしてのフェデリとも協力関係を続けられることにはなったけど。


 わたしもちゃんと考えなきゃいけないんだろうな。

 というか、この話をしてるってことは、フェデリもって考えていいんだろうか……。


「エリノア」

「な、何だ」

「まあそういうわけで、俺も少し急ごうかなと思った」

「そうか」


 もし、わたしが女王じゃなかったら。

 たとえいつフェデリがジョーカーじゃなくなって、もしかしたら全然別の人格になったとしても。構わないって言えたかもしれない。


 ううん。むしろ今のフェデリが好きだからこそ、積極的に彼との時間を大切にするべきだろう。あとで後悔しないためにも。


 でも、わたしは女王だ。

 国王となる伴侶の席に、そんなあやふやな人を迎えるわけにはいかない。


「鋭意励め。妾のためにな」

「ん? 君のためにもなるって言ってくれるのか?」

「貴様の戯言に付き合うのに飽きただけだ」


 これはちょっとそのまんまの意味。冗談で神経すり減らされるこっちの身にもなってほしい。主に羞恥で。

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