表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
54/57

シンデレラ感を感じます

「見事に、鏡の国の魔物だらけですね……」


 頭痛がしそうな表情で、ジャックは額に手を当てる。その気持ち、よく分かります。


「しかし、まあ。俺を差し置いているのが帽子屋だけなのは朗報です」


 本気で安堵しているっぽい。わたしのこれまでの行動からして無理もないか。申し訳ない。

 あ、そうだ。


「その帽子屋だが。あれはジョーカーだ」

「……なるほど」


 そうと知っていれば、フェデリへの認識も変わるはず。いざというとき、どこまでを任せられるのか。

 流れの帽子屋とジョーカーではその幅がまったく変わるだろう。連携するための情報共有はしておかないと。


「ある意味、全員鏡の国の関係者ですね。まったくの部外者は俺が初だと言っていいでしょう」

「まあ、そうだな」


 始めはハートの国を混乱させるため、毒舌の呪いに掛けられただけだと思ってたから。言わなくても何とかなるかな、と。何とかしたかったし。


 しかしどうやら全体像はもっと大事なようなので、これ以上は話す必要が出てきてしまった。じゃないと意味の分からない行動で、振り回し続けることになってしまうから。


「承知しました。今は他に、企んでいることはありませんか?」

「ない」


 上手くいけば相当量の負の感情が発生するはずだが、それで足りるかどうかは精霊たちだけにしか分からない。

 今は祈って結果待ちだ。


 ……サバは読まないでくれって願ってる。


「次に動くときは、俺にも教えていただけますね?」

「そのつもりだ」


 だからこそ話したのだし。


 肝心な部分は全部伏せて、不穏と不審しかないわたしの行動を、それでもジャックは信じて残る決断をしてくれた。


 ならば今度こそ、わたしもその忠義に報いなければならない。


「これより先、貴様に嘘はつかない。この妾の信を裏切れば、死刑だ」

「貴女が今の貴女である限り、俺の裏切りはないと信じていただいて構いません。何があろうとも、必ず」


 ジャックに見限られたときは、わたしが変わったときか。


 ……物語だとさ、道を踏み外した王様がかつての忠臣に斬られて、死の縁で後悔と改心を――って感動シーンがあったりするけど……。


 き、斬られる王様にならないようにしよう、うん!


「さて、妾の話は以上だ。クローバー王国でやるべきことも済んだ。様子を見て暇を王に告げるゆえ、それまではしばし待機せよ」

「承知いたしました」


 畑陥没の保障について、そこそこ話が終わった頃合いで切り出そうと思ってる。

 せいぜいあと一日二日、ってところでしょうね。


 目的があって来たのだから当然なんだけど、ずっと気の休まるときがなかったから、最後ぐらい少しのんびりしたいなあという気持ちもある。


 だって、せっかく食の大国クローバーに来てるんですよ!?


 正直、食べた料理の味とかあんまり覚えてない。勿体なさすぎる。

 せめて今日からは堪能してやるんだからね!




「やあ、エリノア。少しいいかな」


 そう言ってフェデリが訪れたのは、翌日の午後三時。ティータイムの時間。

 この時間帯だけは、ハート王国の人間ならどんなに忙しい人でも休憩中。かく言うわたしもニーナの給仕でお茶の最中である。


 ちなみに、初白幸ではない。あれは残りはお土産だから。


「どうした。経過報告か?」


 ミラはまだ戻って来てないから、上手くいっているのかどうかわたしは知らない。フェデリの方に先に報告が行ったんだろうか?


 うーん。現状だと考えにくいけども。同じぐらいに共有してくれそう。


「いや、帽子が出来上がったから届けに。ついでに、約束を守ってもらおうと思って」


 あ、会うための言い訳にしていた帽子制作、完成したんですね。

 約束って言うと、あれか。


「まともに身に付けられるものに仕上がっているのだろうな」


 奇抜なのじゃなくて、普通のやつをお願いしたんだよね。で、普通の帽子だったら身に付ける約束だった。


 使われない帽子を作るのにモチベーションが上がらないのは分かるし、材料も掛けた時間も勿体ない。なので、提案その物に否はなかった。


 後はフェデリのセンスにかかっているが……。


「ということで、どうぞ、お納めください」


 大仰な仕草で献上された箱をニーナが受け取り、わたしの元に持ってくる。

 ニーナの手からわたしの手に渡り、リボンを解き、箱の蓋を外す。


「……」


 眼前に現れたそれに対し、わたしは何を言うべきかを迷う。おそらくニーナは後ろで渋面を作っていることだろう。


 いや、おかしいわけじゃないんだ。


 パールホワイトの生地に青のリボンが飾られたつばありの帽子は、いたって一般的。素朴で可愛いと思う。

 そう、問題はそこ。


 素朴なのだ。とても!


 わたしはあまりファッションセンスに自信がある方じゃないけど、分かる。

 これ、今わたしが着てるランクのドレスに合わないよね……?


 ちらりとニーナを伺ってみると、予想通りの顔をしていた。

 この帽子を被るなら、豪商クラスの平民の恰好をするのが一番しっくりくると思う。


 ミスマッチな服装をさせようって嫌がらせじゃなければこれは……。


「ハート王国でやるよりも、クローバー王国の方が顔を知られている率は低いし、のびのびできるだろう?」


 遠回しにお忍びのお誘いですね!?


「エリノア、よく考えてくれ。王宮の料理であれば、君はこの先も味わう機会に恵まれるだろう。しかし城下町の食を味わえる機会は、今を逃したらきっと来ないぞ」


 どうしてわたしが食べ物に執着してるの前提かな!


 興味がないとは……ないとは言えない。うぅ。認めようじゃないか。町のグルメも回りたいなー、でも無理だなー、って思ってました!


「貴方ねえ……」


 約束だからしょうがないよねな方向にわたしの心は傾いてるけど、どうやらニーナは反対派。


 分かります。ニーナが正しい。対した理由もなく、お忍びするような立場じゃないですね。何より周りが大変。


「陛下の無聊を慰めたいのは、何も恋人の特権じゃないだろう?」


 人を気遣うのに理由も立場も関係ない。まったくもってその通り。

 ただ、そうされる当人であるわたしは、どう受け取ればいいんでしょうか。


 言葉の通り受け取るべき? それとも少し親しい友人として? ……それとも。


「ええ、そうね。貴方が万人に同じ気遣いをするのなら、立場を考えて釘を刺しつつ、笑って送り出すところなんだけど」


 曖昧さを許さないとばかりに、ニーナはその真意を問いただす。


「残念ながら、今のところ俺がこうして誘うのはエリノアだけかな」


 問いには答えてるけど、ニーナが言わせたい部分ははぐらかした言い方。

 たとえわたしが特別だとして、どういう特別なのかはどうとでも言えるやつ。


「貴方ね……!」

「よい、ニーナ」

「エリノア!」


 なあなあにするなと、ニーナに目で叱られてしまった。


 わたしには女王という立場があるから、醜聞が望ましくないのは分かってる。

 でも、大丈夫だから。いや、立場的には全然大丈夫じゃないけど、流されてはっきりさせないのを許してるわけじゃないから。


 今のフェデリは、はっきりさせられないのだ。多分。


 ……それでも受けちゃうってことは、私も答えが出てるのかな。よく、分からないけど。

 お互い誤魔化したままだから、どうしても現実感が薄れてしまうのかも。


「約束だからな」

「女王に贈る品として不適切って、突っ返してもいいレベルよ、これは」


 できなくはない。でもわたしがそうする気がないって、ニーナも分かってる。ので、彼女は深々とため息をついた。


「……分かったわ」

「と、いうことだ。喜べ? 身に余る光栄だろう」

「ありがたく、女王陛下」


 おどけた調子で一礼。わたしの口調が口調だけに、ハマることハマること。


「妾の時間を使ってやるのだ。一分一秒、無駄にすることは許されぬと思え」

「それなら、そうね。明日の十時から午後三時までの間。一分一秒、遅れることは許さないわ。いいわね、二人とも」


 イ、イエッサー。


 ……しかし。厳密な時間制限か。

 不思議の国のアリスというか、そこはかとなくシンデレラ感があるのは気のせいかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ