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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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対話には互いの誠意が必要です

 ん? そういえば。


「魔族は貴様らを『精霊』と称していたな?」

「古き呼称だな」


 確認したわたしに、ミラは否定しなかった。

 精霊と魔物って、ずいぶんこう、存在に開きがある気がするけど。いいんだ?


「まァ、元々俺ら『負』を喰らう側は人間から疎まれてたしなァ。呼び方がどうだろうと、さして変わらねえよ。白の連中は一緒くたにされんのを嫌がるだろうがな」

「白?」

「我らとは逆に、『正』の感情を食糧にする者たちもいたのだよ。事情があって存在の形を変えてしまったがな。――覚えているかね? ヴァーリズと名乗ったオウム。あれがそうだ」


 あ、そうだったんだ。


 道理で事情を知ってて、ミラに協力しようとしてて、でも嫌そうだったわけだ。必要とする感情が正反対だから、仲が悪そうだったのも納得。


「さて。世界の事情説明はこんなところだ。――女王よ」

「何だ」

「今はこうして防衛に専念するしかない訳だが、いずれはもう少し気楽に生きていきたいと思っている。そのためには、其方たちには力をつけてもらわねばならん」

「見たところ、魔族とやらには知能がありそうだったが。交渉は不可能か?」


 魔獣は言葉が通じないし、こっちを見るなり襲いかかってくるから共生の道はない、と思っていた。

 魔族となら、会話だけなら成立しそうだったけど……。


「あれが、其方たちの言い分を聞くように見えたかね?」


 やっぱり、そうか。

 残念だけど、見えなかった。向こうはこちらを見下していて、何とも思っていない。


「交渉するにしても、力が必要か」

「そういうことだ。しかし、敵が力をつけるのをぼんやり眺めているような間抜けはそう多くない。奴らは其方たちを殺しに来るぞ」

「結界があれば、ひとまずは問題ないのだろう?」


 何しろ、四印の国々には存在すら伝わっていないぐらいである。徹底して弾かれている。


「大方はな。だが奴らは魔力から生まれたもの。その扱いの上手さは我輩たちと同等。よって、楔があるとそれを辿られてしまうのだよ」

「楔とは何だ」


 ここまで至って真面目に話してきたのに、不意にミラが目を細め、笑う。


「記憶だ」


 記憶……。


 ああ、そういえば。魔族が出現した直後、ミラがわたしに言ってた、かも?


「其方がただの人であれば、ここでの記憶を消して、それで終わりだ。しかし其方は未来視の力を持つ」

「記憶を消したあと、俺たちがまた人間に干渉する必要が出てきたら、あんたはやっぱり妨害するだろう?」


 する……でしょうね。ここでの話を忘れたら。


「本物であるがゆえに、厄介だ。お前には魔族のことを覚えていてもらわねばならん」


 鏡の国の魔物――改め、黒の精霊たちに代わる代わる説明されて……。ひとまずはほっとする。


「邪魔だから死ね、という話ではなさそうだな」

「あんたが魔族の件を知って、それでも俺たちの邪魔をするってならそれしかなかったが、納得してくれたみてェだからな」


 したくなかったけど、するしかない。だってわたし自身が直に味わって、思い知ってしまった。


「代わりに、ミラを側に置いてもらう。お前の記憶と外の魔力が繋がるのを断つためだ」


 わたしたちには感じ取れないんだろうその接触が、精霊たちには視えて、妨害できるってことね。

 それはいい。必要なら受け入れよう。しかし。


「その役目は、ミラでなくとも構わんだろう」


 ちらり、とわたしはフェデリへと目線を向けてから、問う。


 フェデリは途中から、魔族の存在を知って行動していた感がある。多分、その間に魔族の楔にされなかったのは、エルトシャンがいたからではないだろうか。


 つまりあれぐらいの間隔の接触でよくて、精霊ならある程度誰でもできるのでは?

 だったらわたし、レフュラスがいいなあ。話が通じそうだから。


「俺はこれから結界のきちんとした構築に取りかかるから、他のことにまでは手が回らん。金貨のエルトシャンにはそれを手伝ってもらうことになる。『断つ』目的としても、剣のミラが一番適任だ」


 レフュラスが口にした属性? っぽいものの詳細はよく分からなかったけど……。

 選べないってことだけは伝わってきましたよ。


「と、いうことだ。改めて、これから世話になる」

「調子に乗って妙な真似をすれば、即死刑だ。心しておけ」


 ……したらまずいことは分かっちゃったけどさ。


「女王のついでだ。ジョーカー、其方もこのまま記録を保持していて構わん。今の其方なら、己が負った役目も、するべき務めも明確に理解しているだろう」

「納得はしていないが、仕方ないだろうな」


 この流れだと、ジョーカーの役目も魔族絡みか。


 でも、一つだけはっきりした。


 ジョーカーは人の敵ではない。それにとても……ほっとしている。

 魔族のことを知ったわたしなら、その役目を聞くことが許されるだろうか?


「あとは……シスト。それからマリアンナ、だったか。お前たちはどうする」


 レフュラスに訊ねられ、シスト王子とマリアンナは顔を見合わせた。

 精霊側が決めるんじゃなくて意思を訊ねてるのは、やはりシスト王子の洞察力を買っての事な気がする。


「私たちの記憶は封じてくれて結構。これ以上レフュラスたちに力を割かせるのは、我ら人間にとって望ましくありませんから」

「シストはともかく……。わたくしが覚えていても、使っている力以上のリターンを返せる気がいたしませんわ」


 精霊たちが力を消耗する、イコール、力の補充のために人間に負の感情を抱かせるための行動に出る、ってことだものね。なるべく遠くしたい。


「ええ、わざわざ力を使わせることもないでしょう。私も、覚えていようがいまいが、やる事は変わらないでしょうから」


 覚えていなくても、どうするべきか分かるわけですね。

 ……もう本当、放っといてもいいんじゃないかな、この人だけは!


「事実だから恐ろしい男だよ、お前は。本当に」

「そうですか?」


 レフュラスのため息に、シスト王子は自覚薄そうに応じてる。


「では、そろそろ戻るとしよう」

「そうするか。この詰まらん景色にも飽きてきたところだ」


 精霊たちの目的も分かった以上、クローバーの国編も解決――……してないっ。

 帰る気満々だったセリフを覆し、わたしは慌ててレフュラスの方に向き直る。


「待て。確認し忘れた。貴様らはまだクローバーで騒ぎを起こすつもりか?」

「あ……」


 わたし以上に他人事じゃない質問に、マリアンナも不安げにレフュラスを見た。


「一程度の力は補充できたが、先程の戦いで消耗もした。もうしばらくクローバーには贄になってもらう必要があるだろう」

「っ……」


 真実を知った以上、マリアンナは止める言葉を発せないようだった。シスト王子は元々協力している側だし、わたしも……今は同じだ。情けないけど、呑むしかできない。


「ああ、それなら多分、問題ないよ。そのためにも一度向こうに戻ろう。特にエリノア。急いで君の力を借りたい」


 え……っ。


「わ、妾の力、だと?」

「そう。ミラたちにも協力してもらうけど、一番は君の力だ」

「よかろう。しかし身の程も弁えず妾に要求するのだ。相応の対価は覚悟せよ」


 必要分の負の感情を捻出しないといけないのは変わらないはずだけど……。フェデリに考えがあるなら乗ろう。


 辛いことや悲しいことは、ない方がいいに決まってる。どうしても避けられないにしたって、少なければ少ないだけいい。


「話は済んだか? では、戻るとしよう」


 壁に触れたミラの手を中心に、両開きの扉が出現する。そうして道を繋げ終えると、ミラは猫の姿になった。

 やっぱり、四印の世界では動物の姿で行動するのか。


「我輩としても、今は少々不本意なのだが」


 わたしの視線を受けて、意味を正しく理解したっぽいミラは緩く首を横に振る。


「魔族は己と似た形状――ようは人だが。その脳にある記憶しか楔にしない。奴らの探知を断つにも力を使うのでな。女王やジョーカーの記憶を封じぬ以上、我輩自身にまで魔力を割くのは避けたい」

「そういうものか……」


 納得した。エルトシャンが言ってた『獣の姿が便利』は生活じゃなくて、魔族に対してのものだったわけね。


「女王、腕を貸せ」

「腕?」


 貸すって何。

 意味が分からず首を傾げると、ミラはいきなりわたしに向かってジャンプしてきた。


 わ、わっ。


 つい、反射で受け止めてしまって、ミラは満足そうに腕の中に納まった。

 腕を貸せって、こういうこと?


 正直言って、ミラ自身に対しては色々複雑な気持ちではあるが……。この先、協力関係となる以上は、振り払うのはまずい気がしなくもない……。


 ……というか。くっ。本人には可愛げなんかないのに、猫の姿はそれでも可愛い。なんて罪作りなフォルムなんだ。さり気に毛がサラサラふわふわだし。手入れを怠っていないとみた。撫でたくなっちゃうでしょうが憎たらしい。

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