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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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中にはHPに依存しないタイプもありますね

「だが、存外よかったのかもしれん。向こうは俺たちを然程気にしていない。――エリノア、最大火力であれを焼け」

「そ、それは構わんが、妾の炎はそこらの者どもとは格が違うぞ。こんな狭い空間で放てば、この部屋のどこに逃げようが炭と化す」


 自分の魔法で焼け死にたくはない。それしかなくて、するべきだったら考えるけど……。それしかないんだろうか……。


「心配ない。皆の身は俺が守る」


 あ、そ、そういうこと。


「あの! わたくしたちも加えてください。我らが風は、エリノア陛下の炎をより猛々しく燃え盛らせることができるでしょう」


 まだ抜けた腰が立たないらしく、座り込んだままながらもマリアンナは挙手をしてそう言った。勇敢だ……!


「よし、手早く済ますぞ」

「最大火力でいいのだな?」


 念のために、もう一度確認。

 そのわたしを流し見ると、レフュラスはふんと鼻で笑った。頼もしさより先に、腹立たしさが来るやつ。


 いいでしょう。慌てさせるぐらいに頑張ってくれる!


 一撃に魔力を全て込めるつもりで、集中する。事実、不意を打てるこの一撃以上に有効打となる瞬間は存在しない。


 ――もっと、強く。濃く。密に。


 そのわたしの後ろで、猫姿のエルトシャンも魔法を構築している気配がする。ドレスを便利に隠れ蓑にされてるけど、文句はない。


「放つぞ。皆、よいか」

「いつでも」

「大丈夫ですわ!」


 中途半端に切れたシスト王子の台詞を引き継いで、マリアンナが請け負う。それにエルトシャンもうなずいて。


「こっちもいける。いいぞ」

「よし。――灰塵と化せ、焦熱焔(アグニ・ゲヘナ)!」


 扇の先。照準を定めたミラと魔族のど真ん中に、青い球体が出現する。納まりきらない魔力が線状に球体の周囲を旋回し、己もまた炎の一部となるべく時を待ち。

 ぐつぐつと内部で高まった熱は、爆発とともに燃え上がる。


 閃光が目を焼き、瞬間、四方の壁が衝撃波で砕け散った。


 爆発の衝撃だけでそれだけの威力がある魔法だが――わたしたちは、無事だ。透明な障壁のようなもので、完璧に隔てられたいる。


「イイィィイアアァァァァッ!!」

「っ!!」


 不快な金切り音じみた悲鳴の出所は、魔族から。


 青い炎はクローバーの二人の風によって竜巻の様になっており、その中央に囚われた魔族は、切り刻まれながら焼かれるという、中々凄惨な状態に陥っていた。


 ミラは……よく見えない。大丈夫だろうか。


「まったく。驚いたではないか」


 言う割に、すでにその声にも驚きの見えないミラが、いたって無事に戻って来た。


 ……ということは、わたしの全力の炎は、至近距離であってさえレフュラスの盾を貫けなかったということ。これはまずい。対策を考える必要がある。


「女王、物騒な目をしているぞ」

「元々だ。……効いてはいるようだが、あれは死ぬのか?」

「死ななければ止めをさせばよかろう」


 ですね。


 ただ今の一撃は本当にほぼ全力だったので、体内魔力の残りが大分怪しい。できれば、これで終わってほしいんだけど……。


 もがく人影は、やがて風に踊らされるだけの力ない様子となり、それでも尚燃え尽きない炎がしばらく魔族を焼き続ける。


 それから込められた魔力をようやく使い果たした炎が、竜巻と一緒に空気に溶け込むように消えていく。


 後に残ったのは、自身をもてあそぶ力から解放され、自然の理のままに倒れ込んだ魔族の姿。

 明滅していた銀色の線も光を灯さなくなり、本体そのものもピクリとも動かない。


 やった……の?

 でもなんだろう。その姿に違和感がある。


「や、やりましたわね!」


 そう信じて、というよりはそう思いたい感のあるマリアンナの言葉に応じたのは、意外にもシスト王子だった。


「ええ。無事に倒せて何よりです」


 そ、そうなの? まあ、シスト王子が言うならそうか……?


 わたし同様違和感を抱いている様子だった鏡の国の魔物たちも、やや戸惑いつつ視線を外して、シスト王子を見る。彼と一緒に動いて、その能力の高さを知っているだろう三人だからこその反応だ。


 つまりこの一瞬、わたしたちの意識のほとんどが、魔族ではなくシスト王子に移った。

 寸分の狂いなくそのタイミングを掴み、魔族が体を跳ね起こす。


「ふざけル、な、死ネ、脆弱種!」


 叫んだ魔族の体が、膨れ上がる。その源はおそらく魔力。


 ――自爆する気か!?


 わたしが慌てて扇を向け、ミラが剣を飛ばし。しかしそのどれもが余裕の笑みを浮かべる魔族に届く前に。

 ふしゅ、と風船から空気が抜けるがごとくに、魔族が萎んだ。


「エ」


 自分自身でも、何が起こったかわからない。そんな声を発して。

 魔族は綺麗に、真ん中から左右に分かたれた。


 その後ろには、魔力で作ったらしい氷の剣を、付いてはいない血を払う仕草をしてから消したフェデリと、片手を上げてこちらに挨拶をしてくるアレフがいる。ここに道を繋げるのに連れてきたらしいレビの姿も。


「君の体質は魔族にも有効か。実に頼もしいな、アレフ」

「役に立ってるからいいけど。それって俺の力ってわけじゃないから、褒められても微妙な気持ちになるな……」


 どうやらさっきエルトシャンが言ってたフェデリの用って、これか。アレフと合流すること。


「助かったよ、シスト王子。君が『まさか』の発言をしてくれたおかげで、皆の注意が魔族から逸れた」


 そしてそれを好機とした魔族がわたしたちへ最後の攻勢に出たのを、ノーマークなフェデリたちが死角から不意打ちしたわけですね。


「上手く運んだなら、何よりです」


 どこまで行っても手のひらの上ですか。そうですか。


 見れば魔族の体は、光の粒子になってほろほろと崩れていくところだった。

 さっき覚えた違和感の正体、これだ。焼け死んだにしては、魔族の体があまりに綺麗に原形を保っていたから。


 それはそれとして。


「フェデリ、貴様、知っていたな?」


 フェデリは魔族を見る前から、アレフを呼びに行く――戦うための準備をした。エルトシャンを寝返らせたのではなく、協力関係にあるだけなのも確定したと言っていいだろう。


 だがそれを単純に裏切りとするには、魔族の存在が気にかかる。


「知っていた、というか記録の蓋の一部が外れた、というか……」


 否定はしないけど、肯定の歯切れも悪い。


「どうだ? 女王の未来視――状況だけを見る力は、本物であっただろう?」

「みてェだな」

「事情を理解させねば、この先も延々邪魔をされ続けるか」


 なぜかミラが意気揚々と話し、エルトシャンとレフュラスが諦めた息をつく。


「女王。世界の果ての先には、あれと同じものが大勢いる。そしてあれが下級種に過ぎぬ相手であることを前提にして考えよ」

「……」


 ミラの言葉を、笑い飛ばすことはできない。

 魔族が出てきた穴から見えた風景が、あまりに広大で、生々しかったから。


「我々鏡の国の住人は、其方たち人間の感情を食べる。ゆえに、其方たちに滅ばれては困るのだ」

「共生が成り立つということだな。そのため、俺たちは世界を切り離し、奴らの侵入を防いでいる。だがそれには相応の力を消耗し続ける。結界を維持するため、時折纏まったエネルギーを得る必要があり、干渉を行っている」


 数十年ごとに国に騒乱を起こす目的が、それってことか。


「貴様が言っていた少数の犠牲と大多数の救いか、全滅かという話がそれか」


 先程の魔族のことを考えてみる。


 わたしはこれでも、ハートの国でかなり強い方に入る魔力の持ち主だ。なんていったって、悪役女王だし。


 でもあの魔族を一人でどれぐらいの数倒せるか――と言ったら、一体たりとも無理。今だって、八人がかりでやっとだった。

 しかも、あの個体は弱い方だという。


 魔族の侵入を防ぐために鏡の魔物の力を借りる以外に手がないのなら、これから先、彼らが騒乱を起こすのを受け入れる必要がある。


 ……そうするしか、ない。勝てないから。今のわたしたちでは。

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