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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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真意を求めて

 町中に出現した魔獣の被害を最小に抑えた功績は、事に当たった警備隊と、彼らを配したセシウス王子のものとなった。

 こちらの流れも理想通り。


 戻ったときニーナにもの凄く心配されたけど、ジャックに庇われたわたしはもちろん、ジャックも癒士の人に治してもらってたので、怪我を負ったのはバレなかった。


 これもね、悪いことしたなって。反省しました。やっぱり誠実にありたい人への嘘はよくない。心に刻んでおこう。


 ゲームシナリオでは、この後王宮内で鏡の中の魔物が探され始める。そしてアリスが攻略している王子の侍従が、疑いをかけられるのだ。実際、鏡の国の魔物に操られることになる。


 アリスはいないけど、レフュラスがシスト王子陣営にいるのは分かってる。なので、セシウス王子の侍従がその対象になるはず。何だったら、もう操られているかも。


 そこからさらにレフュラスの存在を辿るわけだけど――その前に。


「よし、ニーナ。レビを呼べ」

「今度は何をするの?」

「エルトシャンを呼んで、この先の展望を聞く」

「あ、そうか。そうよね」


 エルトシャンはこの前、場当たり的な指示が来るだけで全容は知らないとはぐらかしていたが、広場襲撃は終わったのだから、今は次の指示が来ているはずである。

 レフュラスに気付かれていなければ、だけど。


 広場での襲撃が予定通りに起こり、そして人に被害を出さないようにというこちらの要求をエルトシャンが守ったことで、ニーナも話に耳を傾ける価値は認めている。


 ニーナが控えの間にいる侍女にレビを呼びに行かせてすぐ、使いに出した人と一緒に戻って来た。


「さて、レビ。エルトシャンを呼べ」

「……ん」


 こくりとうなずき、レビはわたしたちの目には見えない魔法を、おそらく発動させて――首を傾げる。


「……留守」


 なんてこった。


 そりゃあエルトシャンも生き物だし、個人の都合もあるだろう。いつでもスタンバイしてろっていうのは無茶だとは思うけど、タイミング悪いなあ。


「繋がってる道、視える。こちらの……近く。座標が、多分……フェデリの部屋」

「フェデリの元へ行ったと?」

「道はそうなってる」


 ……どうして?


 エルトシャンを誘ったのはフェデリだけど、今あえて二人で会う目的って何だろう。

 意外に気が合っただけ、とか。そういう平和な話ならいいんだけど……。


「そういえば、帽子屋さんとはあまり一緒に行動してないわよね」

「妾に物申したのは貴様だろう」


 帽子を言い訳にちょいちょい会ってるけど、それ以上は難しい。


 でもわたしより自由に使用人の人たちと話ができるフェデリは、その立場を使って情報を集める、という協力をしてくれている。その距離感を求めたのは、むしろこちらだ。


「そうだけど……」

「何の用で会っていたのかなど、直接聞けば済む話だろう?」


 ほんの少しの胸騒ぎを追いやって、わたしは二人がそれ以上の疑念を口にしないようそう言った。けど、言ったわたし自身がそう思えていない。


 フェデリの行動に、おかしなところなんかなかったはず、だから……。

 誤魔化そうとするけど、本音の部分が警鐘を鳴らす。――本当に? って。


「直接、推奨しない。気付いた、気付かれる。隠されて面倒」


 言うなり、レビは繋げて視ていたらしい空間魔法を解除したっぽい。


「エリノア。あなた、嘘をついているでしょう? 思い当たる節のある顔をしているわ」

「……」


 瞳を合わせてわたしに問いかけてきたニーナに、即答が……できなかった。

 ニーナは正しい。わたしは自分自身にも嘘をついた。


 胸騒ぎ、ほんの少しなんかじゃない。結構な大きさで存在している。

 引っかかっているのは、彼が発した一言。


 フェデリはわたしに、クローバー王国で起こる騒乱を、本気で止めようとしているかどうかの確認をしてきた。ミラを引き合いに出して誤魔化したけど、今更過ぎるでしょう?


 それは多分、わたしの意思確認をする必要があると、彼が判断した上での言葉。おそらくフェデリは、クローバー王国に混乱をもたらす意味を見出した。そしてわたしも同調する可能性を考えた、ということ。


 ……気のせいだと思いたかったけど。怪しい素振りを見つけたら、わたしは彼を疑うことを決めてきてる。


 当然だけど、わたしはクローバー王国に混乱をもたらそうなんて思えてない。魔物にご飯を提供するために苦しまなきゃならないなんて、冗談でしょ。


 フェデリ自身の意思は、きっとわたしと同じ。そこは疑ってない。

 でも、『ジョーカー』としては、違う。そして彼はジョーカーである役目の方を優先するつもりなのだ。きっと。


『ジョーカー』って、一体何……?


「ニーナ、セシウス王子に連絡を。今後の話をしに行く」

「分かったわ」


 ニーナを送り出し、晴れない気持ちでため息を吐く。


 もしエルトシャンと接触したフェデリが、エルトシャンを寝返らせたのではなく、ジョーカーの役目を果たすため、接触しても怪しまれない状況を作っただけだとしたら。共有するべき情報を考えないといけない。


 ただし今のはただの考察。何一つ証拠はない。だから完全に外に置くのは……それも違うかなと思う。


 それにほら、エルトシャンは広場の襲撃において、こちらの要求をきちんと呑んだ。

 ……それとも、布石? 信用させるための……。


「女王、落ち込んでる。……でも、挫けてない?」

「当然だ。妾の意に添わぬ愚者は、踏み潰せばよいだけのこと。取るに足らん些事で、妾が煩うはずもない」


 レビが気遣うようにかけてきた言葉には、冷笑と共にそんな台詞を返す。


 内心が落ち込んでいようが迷っていようが、喋っているときだけは自信満々。

 この堂々としたさまだけは、身に付けたいなと思う今日この頃。――内容はもちろん変えてですけどね!




 セシウス王子との面会は、前回に引き続き思ったより早く叶った。


 町の件でわたしの見立てが的中したため、相談相手として昇格したのかもしれない。

 訪れる立場の人間がぞろぞろ連れ立っていくのはどうかと思ったので、同行者はラビ一人。セシウス王子の侍従が鏡の魔法にかかっていないかを判断するために、偃月の片割れは外せない。


 セシウス王子の部屋に向かう途中で、ばったりシスト王子と――こちらは初対面の女性と出くわす。


「あ……」


 どことなく冴えない表情だった彼女は、わたしの姿を見てはっきり表情を曇らせた。ど、どういうこと。


「これは、ご機嫌麗しく。エリノア陛下」

「ふん。まあ、悪くはないな」


 先日の件で大勢にバレてしまったので、ニーナの通訳で猫を被ろう作戦は諦めた。余計不自然だし。


「貴様に連れがいるとは珍しいな」

「ああ、これは失礼しました。マリー、この方はハート王国の女王、エリノア陛下だ」

「お初にお目にかかります、エリノア陛下。マリアンナ・ルルックと申します」


 美しい淑女の礼を行った彼女の振る舞いは、高位貴族のそれ。シスト王子の隣を歩ける身分ということなので、想定内と言える。


「マリーは、兄上の婚約者なのです」


 ――何と!


 シスト王子が補完した情報で、なぜマリアンナがわたしを見て悲しそうになったか合点がいった。


 内々にだろうけど、マリアンナはすでに婚約者がセシウス王子からシスト王子に変わる可能性を聞かされているのだろう。そしてセシウス王子がハート王国に婿入りするかもってことも。


 ……少しだけ、胸がざわつく。


 国家の権力者の家に生まれたら、それだけで負う役目がある。それは否定しない。前世が庶民で、血税を支払う側だったからこそ、切実に思ってる。


 ……でも、その家に生まれるのは本人の意思じゃないからさ。振り回されるのは可哀相だとも、思う。


 そりゃあね、明日の食べ物と家の心配と比べたら、贅沢な悩みだよ。親子ほど年の離れた特殊性癖持ちの男性の愛妾になれとか、そういうのでさえないから。セシウス王子かシスト王子かの選択ですから。初恋が破れたとしても、同情しない声の方が大きいと予想できる。


 ただ、辛いことは、辛い。見て分かるけど、多分、マリアンナもセシウス王子のこと想ってるもの。


「シスト王子。貴様はどう考えているのだ? マリアンナ嬢の婚約者について」


 当事者の一人であるシスト王子は、どう思ってるんだろう。


「順当であると思っていますよ。そして順当な相手と想い合える仲になれたのも、天の采配ではないでしょうか」

「――えっ?」


 いつものアルカイックスマイルでそう言ったシスト王子に、マリアンナは驚いた声を上げて、勢いよく彼の方を振り向く。


 ど、どういうこと?


 そりゃあ、シスト王子が王位を狙う野心家だという線は違和感しかなかったけど。でも実際、鏡の国の魔物はシスト王子を王にする前提で騒乱を画策している。


 エルトシャンがシスト王子に兵を配置させようとしていたのだから、それは間違いないはず。

 協力してるけど、王位につこうとしてるわけじゃない? ああもう、だったら目的は一体何。

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