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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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ジョーカーがアリスです?

「ところで、フェデリはどうした。ここにいないということは、まだ戻ってきていないのか?」


 エルトシャンを捕まえられたにせよられなかったにせよ、一回合流はすると思うんだよね。わたしが追っていったのもの知ってるんだし。

 なのにいないってことは……。


「はい」


 短くジャックがうなずいて肯定する。そういうことですよね。


「そちらも鏡の国か?」

「違う。空間の歪み、一つだけ」

「エリノア様を保護するのが最優先でしたから、帽子屋の方には手を回していません。探しに行きますか?」

「場所が分からん。放っておけ。そのうち戻ってくるだろう」


 こちらの世界にいるのなら、何かあれば――平たく言うと荒事に発展するようなことになれば、騒ぎになって分かるだろう。


 そうなってないってことは、多分、話し合いが成立してる。撒かれたなら、それはそれで戻って来てるだろうから。


「それで? 妾が向こうに行っている間、こちらはどうだった」

「何とか、収拾はつきました。鏡の国の魔物が入り込んでいることを、クローバー王国側がまだ公にしていないので、妙な緊張感が高まった気配はありますが」


 難しいところなんだよね。


 鏡の国の魔物のことを明らかにすれば、王子二人の対立に関しては、少し落ち着くかもしれない。でも今度はあらゆるところで疑心暗鬼が発生する。


 だから片が付くまで、国は国民に公けにしないことが殆どだ。うちもそうしてた。

 国難が発生したら、国の対応は事態の発表だけでは足りないのだ。解決策がセットで必要。じゃないと民の不安と混乱を招くだけだから。


「鏡の国の魔物の目論見通り、事実となってしまうかもしれませんね」

「このまま後手に回り続ければ、そうなるだろうな」

「しかし幸い、陛下への感情はそれほど悪くなさそうでしたよ」

「ほ、ほう?」


 それはありがたい。しかして、何故に?


「他国の貴人である陛下だからこそ、つまらない言いがかりをつけて論争を止められたのだ、と」


 うぅ。つまらない言いがかりっていうのは揺らがないのね。否定できない。


「同じクローバーの人間が仲裁に入っても、巻き込まれてより騒ぎが大きくなっただろう、と。まあ、横柄で横暴だという評価は拭えませんでしたが」

「国民を害そうとしたと、風評被害も甚だしい誤解が蔓延せずに、何よりだな」

「……風評被害、ですか」

「何だ?」

「いえ、何も」


 諦めたため息をつかれた。

 あながち間違てないって言いたいんですよね。面倒を呼び込むその拗らせ方をすぐに正せと。


 大丈夫。わたしも同意見だから!


「まあ、よい。事態は分かった。ニーナ、茶を淹れろ」

「怖れながら、女王陛下。ティータイムの時刻はとうに過ぎておりますわ」


 分かってるけど!

 色々あって疲れたし、癒しが欲しいんだもの。だ、ダメ?


「たまには臣下を労ってやろうという妾の厚情を踏みにじると? よかろう、死刑だ」

「……」


 ニーナはしばし、厳しい表情を崩さなかった。しかしややあって息をつく。


「分かったわ。皆もどたばたして疲れているだろうし。初白幸でいいのよね」

「そうだ」

「!」


 ニーナが上げた品名とわたしの肯定に、ジャックとレビが揃ってニーナを振り向いた。それはもう、勢いよく。


「エ、エリノア様。俺たちも同席してよろしいのですか」

「構わん。貴様らの労いも兼ねてといっただろう」

「陛下、最高」


 おお。珍しくレビの目が輝いている。提案した甲斐があったというものだ。

 今はいないラビとフェデリにも、機会を見計らって声をかけてみることにしよう。




 イベントが盛り沢山な一日だったけれど、終わりは穏やかだった。


 そのおかげか、カーテン越しの優しい朝日を浴びての目覚めは、実に穏やか。身支度を整えて朝食を済ませ、さて帽子を口実にフェデリを呼ぼうとしたところで、向こうから来た。珍客と共に。


「おはよう、エリノア。ご機嫌麗しく」

「それはいいが、貴様、その肩の物体はどうした」


 フェデリの肩の上に乗っているのは、黒猫。まさかフェデリがここで無関係な猫を連れてくるとは思えないので……。


「少し彼と話しをしてね。結果、君にも聞いてもらおうと思って連れてきた」

「自己紹介はまだだったよな? 俺はエルトシャン・フラウス。鏡の国の住人……ってやつだ。あんたら風に言うと」

「我ら風に、とはどういう意味だ?」

「あー……。気にすんな。鏡の国とか、そんなもんなかった時代の癖だ、今のは。こう見えて結構長生きなんでね」


 それは相当な年だな……。


 なにせ、鏡の国は四印の国々が建国された当初から存在が確認されているのだ。史書に残っている歴史だけを数えても、もうそろそろ八百年ぐらい経つ。


「まあ、よい。それで、話とは何だ?」

「正直に言って、生きんのに少し飽きてきてる」

「……」


 い、生きるのに飽きる、かあ。


 四ケタ単位で生きてると、そういうことを考えたりもするのかな? 日々やりたいこと、やるべきことに追われてる感じで、意識したことない……。


「そろそろ終わってもいいが、苦しみたくはねえ。人間に追いかけ回されんのも、同族に吊し上げられんのも御免だ」

「ってことで、誘ってみた。穏やかな余生の保護を条件に、こちらにつかないか? って」


 ゲームのエルトシャンにも、人の世に騒乱を起こす繰り返しに飽きてる的な設定はあった。でも一番のきっかけは、ヒロイン・アリスにほだされたから。……その役割、ジョーカーでいいの?


「そいつの言い分は信用できるのか?」

「信用に足る情報はないかな。でも構わないだろう?」


 それもそうか。近くで見張っていられるだけで、こちらに悪いことはない。


「本人目の前に言うかねェ、それを」

「昨日まで敵だった奴の投降だぞ。疑われて当然だと心得よ」

「間違ってねえけどよ……」


 理解して、納得しても気持ちは別――っていうのは分かるけどね。エルトシャンが本気で離反しようとしているなら、尚更だろう。


 だからといって、こちらも監視の目を緩める選択はないわけで、彼に対して誠実にできることはただ一つ。


「貴様が役に立てば、相応の扱いは保証してやる。己の立場をよくよく理解して、行動には気を付けるのだな」

「……ま、精々気を付けるさ」


 信頼関係の構築にはとことん足を引っ張る呪いだけど、相手を押さえ付けるのには役立つんだよねえ……。敵対している相手にだけ発動するんだったら、わたしも気にしないのに。


「では早速だが。クローバーの国で起こそうとしている騒ぎの全容を吐け」

「さあ。全貌は知らねえんだよなァ。指揮執ってんなァレフュラスだからよ」

「使えんな」


 悪意はやや増されたけど、落胆のため息は本心から出たもの。


「では、今貴様が知っていることを洗いざらい吐け」

「とりあえず、直近の役目は広場で騒ぎを起こすことだ。ミラから聞いた話じゃ、あんたは未来視の力を持ってるそうじゃねえか。だったら全部分かるんじゃねえのか?」

「妾が知っているのと、貴様が口にするべきというのは別問題だ」


 こちらの情報は教えませんよ、もちろん。


「……そういえば、貴様ら鏡の国の魔物と、世界の果てから現れる魔獣は繋がっているのか?」


 ふと思い出したので、現役の鏡の国の魔物に聞いてみる。


「繋がっちゃねえけど、たまに使うな。何しろ俺たちは数が少なくてね。手足が必要になるときもある」


 飼ってるとか、生物的に従うようにできてるとか、そういうわけじゃないのか。ゲームの印象通りでいいってことかな。


「しかし、この流れで魔獣ときたか。……やっぱ未来視ってのは本物なのか」


 うすら寒そうにエルトシャンは呟く。


 もちろん未来視ではないが、それを言ってやる義理はない。警戒されるならその方がいい。

 で、ここでエルトシャンがその反応ってことは、現実の騒ぎにも魔獣が使われる予定なのが確定。


「まあ、よいだろう。どうせ貴様の言など信じるに足らん。では今すぐ鏡の国に戻れ」

「投降は認めねえってことか?」

「阿呆か。本気で離反する気であるならば、誠意を見せよ。貴様が任されているその仕事を、妾たちに都合のよいように行え」


 そのためには、ミラやレフュラスにエルトシャンの裏切りが悟られてはいけない。


「行え? やめろじゃねえのか」

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