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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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そして帰還

「なるほど。それなら、ここで騒乱を仕込むのをやめればどうだね?」

「な、何だと?」


 あっさりと、予想外の提案をしてきたミラに、うろたえてしまう。

 一体どういうつもり?


 さすがに、鵜呑みにするほど純粋じゃない。胡乱げにミラを睨み付ける。


「そちらの方法で誓約を交わしてもよい」


 約束を順守させるための契約魔法は、結構強力。なにせ使用頻度が高いんで、どんどん穴を潰された精密な術式が完成している。


 ……つまりそういう魔法も必要ってことで、寂しいことではあるんだけど。


「ハートの国には前例もある。他国よりは受け入れやすかろう」

「幼少期からいた偃月と一緒にするなよ」


 子どもだった偃月が、本能に従って人間の負の感情を求めたのは、責めきれない部分もある。そして人の社会に混ざって暮らすことを選んだ偃月は、以後、本能を自身で律している。


 それがハーフゆえに可能だったかどうかは分からないけど、これまで自身で選んで人を陥れ続けてきたミラは、状況が違う。


 心を入れ替えようが反省しようが、やってきたことがなくなるわけじゃない。被害者からすれば、『だからどうした』だろう。


 ついでに言うなら、ミラが人の感情を食べるのをやめたとしても、それは彼がわたしの近くにいたいと思っている期間限定。そんな危うい相手を信じようとは思わない。


「交渉決裂か。女王、其方は本当に面白い」

「妾は貴様の娯楽ではない。即刻跪き、謝罪せよ」

「では、少々脅しを加えるとしよう。――女王、其方、ここからどう帰るつもりだ?」


 ……はっ。

 そうだ。入ってきた出入口はすでに消されてるんだった……。


 残念ながら、空間系の魔法は四印の人間が扱える術式ではまだ不可能。わたしもしかして、帰れない?

 レビは空間魔法を使えるけど、『ここ』にわたしがいることを伝えられない。


「レフュラスは其方を殺すつもりはないだろうが、事が済むまで邪魔者を閉じ込めておくぐらいは考えるだろう」


 そういうこと、だね……?

 と、閉じ込められたままは困る! ど、どうすればいい!?


「そこで提案だが、帰してやる代わりに、其方には我輩を飼い続ける義務を与える。……というのは、どうだ?」

「動物扱いするなと言っておいて、飼えとは。己の意見ぐらいは一致させたらどうだ?」

「む? おかしいのか?」


 不思議そうな様子でミラは首を傾げた。本気っぽい。

 ……まあ、魔物だし。人間とは感性が違うってことかな……。


「どうも其方はその呪いに大分慣れてしまったようだし、今更解呪は餌にはなるまい」


 解かせる機会があればもちろん飛びつくけど、何かと引き換えにしても――とまでは、思ってないかも。

 ハート王国では日常化しちゃったし、クローバー王国にも露見しちゃったし。


 他国でバレたらさ、終わりだよねー……。


「だが其方、クローバー王国の騒乱を防ぎたいのだろう?」


 ミラの金の瞳が、楽しげに細められる。


 人の負の感情がご飯でしかない鏡の国の魔物に求めること自体、間違ってるのは重々承知。それでも思う。


 人が苦しむ未来を口にしながら笑えるミラが、わたしは本当に嫌いだ。


「今の其方は、我輩の助けなくしてクローバー王国に帰ることも適わん」


 それしかないのか……。


「言っておくが、そういうところだ」

「?」

「貴様は己が利する行動しか取らない。妾のためだなどと抜かすな、下種が。貴様はただ弱みに付け込んでいるにすぎないし、そんな薄汚い輩を信用などするはずがない」


 たとえば。相手が喜ぶ顔が見たくって。幸せな気持ちになってほしくて。その人のためになら、自分が損を被ることも厭わない。その人が喜ぶだけで、自分にも心の幸福が満ちるから。


 ――そういうのを、恋や愛っていうんじゃないだろうか。


 少なくともわたしはそう。お父様やお母様、ニーナが喜んでくれることだったら、努力できる。頑張れる。彼らの笑顔が見たいから。


 だから、もしそこに自分の利益を考えて差し挟むのなら。……恋ではあるかもしれないけど、愛じゃないと思う。ついでに、優しさでもない。己にも利益があって相手に優しくできるのは、純粋な優しさとは言えない。普通だと思う。


 自分に何も返ってこなくても、ただ相手の幸せのために。それが愛してるってことじゃない?

 もちろん、あげてばかりは苦しいから、返ってこないとやっぱり続かないけど。


「――……」


 わたしが自論と共に拒絶を突き付けると、ミラは目を見開き、固まった。思考に全ソースが持って行かれている様子で、緩慢な瞬きだけが意識を保ってる証拠になってる。


「……なるほど」


 ややあって、ぽつりと呟く。


 ただしその声音は、納得したものではなかった。自身の内側には当てはまる感情が見つけられず、ただそういうものだと受け入れようとしている響き。


「ならば我輩は、其方をここで帰すべきなのだろうな」

「ほ、ほう?」


 ややぼんやりとした口調のまま告げられた内容に、今度はわたしが驚いた。


 戸惑っているうちに、背中から淡い光が溢れ出る。

 光が収まると同時にミラが手を引いたので、体を半分捻って後ろを確認。扉があった。


「行きたまえ、女王」

「……行き先はきちんと、クローバーの国だろうな」

「無論」


 訊ねたわたしに、ミラは即答。


 聞いてはみたものの、正直、わたし自身も疑って口にしたわけじゃなかった。でも聞いておかないと――疑っておかないといけないような気がして。


 だってそうじゃなかったら、わたしは、わたしに対する彼の気持ちだけは……認めなきゃいけない、と思う。


「ならばよい」


 帰れるのにはほっとするけど、見せつけられた気持ちには、どうするべきなのか、迷う。


 扉に手をかけ、開く。目の前の景色は、クローバー王国でわたしが与えられている、貴賓室の寝室。本当にどこでも出入り自由なのね……。


 ぞわっとしつつも怯えは服の下だけに押し隠し、ミラを振り向く。


「貴様は、妾の言を理解したわけではない」

「……ああ。その通りだ」

「だが妾の意思に近付くために、譲歩した。貴様が真剣であることだけは、認めてやらんでもない」


 認めたくないけど、認めたところで何が変わるわけでもないけど。ミラのそれだけは本当なんだろう。


「女王」


 ミラが何か言おうとしたけど、聞く気はない。境界を踏み越え、扉を閉める。


 ……帰って来た。これた。


 よかったあぁー。

 後は騒ぎになってないかどうかだけど……。


 わたしがエルトシャンを追って行った後、どうなったのか。まずはその辺りの確認をしたいところ。

 扉を開いて寝室から出ると同時に。


「エリノア!」

「エリノア様!」


 こちらを振り向いたニーナとジャックが、勢いよく立ち上がって駆け寄って来た。

 この反応……。もしかして、鏡の国に連れ込まれたのがバレてる、かな?


「やかましいぞ。騒ぎ立てるな」

「エリノア様、ご無事で何よりです。もう少しで貴女の言に従った己の首を掻っ切らねばならないところでした」

「鏡の国の魔物を一人で追うなんて無茶、二度としないで!」


 エルトシャンと話さなきゃって思ってたから、ついね……。


「しかし、妾が鏡の国に行っていたこと、なぜ分かった?」

「レビが教えてくれたのよ。空間魔法が使われたって。――ねえ、レビ。エリノアに変な魔法はかかってない?」


 二人の視線を追ってみれば、そこには椅子に座ったまま、じとりとこちらを見上げてくるレビの姿が。


「ない。至って、無事。……探した時間、無に帰した。女王、空気読むべき」


 いやいやいや! わたし側からそれ、分からないから。帰れるチャンスがあったら帰ってきますよ。


「……でも、五体満足。無事。だから、いい」


 やや無茶な文句をつけてきたあと、レビは目線を下に落としつつそう付け加えた。


 心配して探してくれていたのは間違いない。わたしが鏡の国へと連れ込まれた瞬間、近くにいなかったレビがすぐに気付いたってことは、ずっと警戒してアンテナ張ってたってことでもある。


「妾が気がかりで仕方なかったとみえるな」

「女王、いなくなる。ハートの国、混乱。困る」


 後を継ぐ人、決まってないですもんね……。


「……それに、子どもの頃から、知ってる。……心配、おかしくない」

「そうか」


 個人的にも、心配してくれるのか。


「まあ、貴き妾の身を想うのは当然のことだが、妾は寛容である。妾への好意を口にしたこと、褒めてやろう」

「……」


 眉を寄せ、レビは無言で息を吐く。


 諦めた感じのものだったけど、怒ったり傷付いたりって気配はない……から。感謝だってことは伝わったんだと思う。……多分。

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