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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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諍いの表れ

 あと急いでやるべきことといえば、エルトシャンとの接触だ。


 アリスとエルトシャンの出会いは、オープニングの直後。他編の時系列は分からないけど、ハートの国編が始まりなのは間違いない。

 ハートの国編では自分の世界から四印の世界に来るアリスが描かれるけど、他編のアリスはワープ装置で他国を巡ってるから。


 クローバー王国を訪れたアリスが、明るく賑やかな大通りを行くか、暗くて不穏な裏路地を行くかの選択肢が出て、裏路地を行くとエルトシャンと会うのだ。


 ……いや、どう考えても普通はそっち行かないよね。ゲームだからと言えばそれまでだし、わたしももちろん選んでプレイしたことあるけども。


 エルトシャンの容姿は、黒髪に褐色の肌で、十八、九ぐらいの青年。

 ただおそらく、こっちの現実だと黒猫なんだよねえ……。


 さ、探せるかなあ。


 そのあとは王宮で会うこともあるし、町で会うこともある。でも基本的には町が多かった気がする。実行役だから、色々やる事があるんでしょう。


 これだ! っていうイベントとが起こってくれれば、わたしも当たりつけやすいんだけど。


 ……騒動が起こるの待ってるって、相当性格悪そうだな……。


 だ、断じて展開そのものを望んでるわけじゃないし、わたしが起こしてるわけでもないけど、妙に居た堪れない気持ちになって、無意味に座り直してみたりする。

 そうして腰を浮かせた直後。


「――もう一度言ってみろ!」


 わあ!?


 怒鳴り声が響いて、びっくりする。そしてすぐに立ち上がって扉へ向かった。

 ここ、他国の王族が泊まってる貴賓区だよ? そんなところで怒声とか、普通じゃない。


 でも鏡の国の魔物が関わってるなら、アリ。彼らなら、いつもだったら気にも留めないようなことで、軽く沸点を超えさせることができるから。


「シスト殿下が陛下に太子の件を打診した、だと? まさか、するはずもない。する必要がないんだ。少しでも脳がある人間なら、シスト殿下の聡明さこそ王に相応しいと分かる。もちろん、陛下もそうお考えだろう」

「ふざけるのもいい加減にしろ。国はな、人で作られているんだ。正しいだけで気持ちを置き去りにすれば、人心は離れていく。王に相応しいのはセシウス殿下だ!」


 ぎゃー! ゲームそのままの展開が!


 これを仲裁するのって、アリスと一緒にたまたま通りかかる、シスト王子かセシウス王子のはずだけど……。いないっ。影も形もないっ。


 やはりすべてがゲーム通りってわけにはいかないのか。


「この……ッ!」


 おそらく感情を昂らされているせいで、二人同時に相手へ向かって手を伸ばした。掴みかかるつもりだ。


 無理! 待ってたら暴力に発展しそう!


「やめよ見苦しい! 貴様ら、己が今、誰の目の前で醜態を晒しているか、分かっているのか?」


 響いた偉そうな怒声に、互いの胸ぐらを掴んだまま、文官っぽい二人ははっとした表情でこちらを振り向く。


「こ……れは」

「ハートの女王陛下。その……」

「妾の寛ぎを妨げた罪、軽くはないぞ! 貴様ら二人、揃って妾に首を差し出せ! 誰でもよい。シスト王子かセシウス王子を呼んで来い!」


 ……あ。やっちゃった……。


 しん、と辺りに静寂が満ちる。誰もが事態を飲み込めない顔をして。


 そりゃそーだ。そんなことぐらいで、いきなり他国の人に死刑を求める王がいて堪るか。

 ど、ど、どうしよう。他国の人にまで死刑を求めてしまった!


「――陛下!? 何をされているのです!」


 騒ぎになりつつあったのを聞きつけたか、ジャックも到着。

 周囲の人々の表情を見て、ジャックも何が起こったのかを察したか、顔をひきつらせた。


「陛下、まさか……」

「妾に無礼を働いた輩に、相応の賠償を求めただけのこと」

「何ということを……」


 心の底からの嘆きと狼狽。わたしもまったく同じ気持ちです……。


「失礼。通してください」


 わたしとジャックが、揃ってどう収拾付けようかと蒼白になっているうちに、シスト王子も到着。話から少し外れた野次馬に混ざって、フェデリの姿も見付けた。


 わたしと別れた後、シスト王子陣営の様子を見ていたそのまま――って感じかな。彼はそのまま周囲の人から情報収集を始めた。


「何事ですか」


 しかし、思ったより早くシスト王子来てくれたのはよかった。

 わたしと同等の立場で言葉を交わせる人が来ないと、どうにもできない。どうにかして前言を覆さなくては……!


「シ、シスト殿下! どうか助けてください!」

「ハートの女王陛下が、我らに首を差し出せと……」


 自分の命が切迫した状況になって熱が冷めたか、二人は揃ってシスト王子に窮状を訴える。息ぴったりじゃないか、もう!


「それは、穏やかではありませんね」


 言葉とは裏腹に、声も表情も穏やかです、王子。


「エリノア陛下。彼らは何をしたのです?」

「妾の憩いの時間を、下らぬ言い合いで邪魔をしたのだ。万死に値する」

「なるほど。非礼ではありますね」

「で、殿下!」


 一部こちらの言い分を認める発言をしたシスト王子に、文官二人は焦った声を上げる。


「ですが我が国の法に則れば、死刑はいささか行き過ぎです。ハート王国は、ずいぶんと厳格になったのですね」


 厳格なんじゃないんです。横暴なだけなんです。わたしが。


「――確かに、我が主の言い様は少々過激ではありましたが、殿下」


 どう答えるべきか窮しているうちに、ジャックがわたしを庇うように前に出て言葉を発する。


 そちらを振り向くと、いつの間にかこちらに移動してきていたフェデリがわたしに向かって軽く手を振った。そして口の動きだけで伝えてくる。


『大丈夫』と。


「話の内容を聞けば、おそらくクローバー王国としても厳しい対応を取らざるを得ないのではないでしょうか」


 直前までわたしと一緒にあわあわしてたから、ジャックのこれは多分、フェデリからの助言。


 話の内容って、どうするの……?


「諍いの原因を、貴君らの口から殿下に申し上げてくれ」


 ジャックに言われた文官たちは、揃って顔を見合わせ、口を噤む。

 ああ、これは言えるわけない。どちらの王子が王位に相応しいかで言い合いをしていた、なんて。


「なるほど。原因の究明は必要ですね。エリノア陛下を不快にさせた言い争いとは、何だったのですか?」

「そ、それは……」


 自身の国の王族からの命に、彼らは口ごもった。


「盛大な言い争いでしたから、我ら以外にも内容を耳にした者はいるでしょう。――名乗り出ない者は、彼らの言い分どちらかに賛同している可能性がありますね」


 第三者から証言を引き出そうと、ぐるりとジャックの視線が周囲の野次馬を巡る。その視界に入った何人かが息を飲み。


「あ、あのっ。シスト殿下とセシウス殿下のどちらが王位に相応しいかという、話を……していました」


 メイドの一人が挙手をして、後半やや尻すぼみになりつつも答えてくれた。


「下手をすれば、内乱の扇動ですね。我が主は、クローバー王国がそのような災禍に見舞われることを憂いていらっしゃいます」


 憂いている人の言い方かな、あれ……。

 でも勿論、何も言わない。口を開くだけ足引っ張るの確定だし……。


「ち、違――違います! 内乱だなんて、そんな……!」

「殿下。その二人の『首』には、糸が繋がっているかもしれません。我々が預かっても構いませんが、いかがいたしますか」


 鏡の国の魔物に操られているかも、を告げたジャックに、シスト王子は即座に首を横に振る。

 判断の速さは、やっぱりさすが。


 言ってはいるけど、わたしも――多分ジャックも、彼らがまだ鏡の国の魔物の支配下にあるとは思ってない。これだけの騒ぎになったんだもの。とっくに切り離して痕跡消してるよ。


 それでも万が一のことを考え、視察を許可されている他国のわたしたちに預けるのが無難だけれど、シスト王子は実のないそれよりも、わたしたちから民を護るというパフォーマンスを優先した。一瞬で。


 おそらくはこちらが、彼らの身柄をそんなに欲していないと見抜いた上で。


「できれば、私に任せてはいただけないでしょうか」


 シスト王子の返答を受け、ジャックはわたしに目配せをする。

 これ以上クローバー王国側の悪感情を買う必要はない。わたしがうなずくのを受け、ジャックもその意をシスト王子に返す。


「承知いたしました。お任せします」

「感謝します」


 シスト王子預かりとなった文官二人は、明らか様にほっとした顔をした。無理もない。


 け、けれどまあ、諍いは治められたし、物凄く苦しいけどわたしの暴言は内乱の扇動者を摘発したものってことで落ち着いた。事実であれば実際死刑でもおかしくないやつだから。


 過激な暴言女王の悪名は免れないけど、セーフではなかろうか。

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