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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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感情の制御は難しい

「ようこそ、陛下。急な話となってしまい、申し訳ありません」

「こちらこそ。快く迎えていただいたこと、感謝いたします。と、申しております」

「このような時ですから、お話があるというのなら、ぜひ伺わせていただきたい。――どうぞ、こちらに」

「失礼いたします」


 セシウス王子に勧められたソファに腰を降ろすと、王子自身は対面に座った。

 セシウス王子は、父親のクローバー王似かな。中性的な感じさえあるシスト王子と違って、男性的な精悍さの印象が強い。


「ところで、シストではなく私を訪ねていらっしゃるとは。もしや、もう父から話を聞いたのでしょうか?」

「?」


 話……? 特別なものはなにもされていないけど。


 頭上に疑問符がまま出たわけでもないだろうけど、こちらの戸惑った空気で察したのだろう。セシウス王子は少し気まずげな笑みを浮かべた。


「違いましたか。私と貴女の間には、これまで深い交流がなかったので、つい」


 まあ確かに、ちょっと不自然ではある。

 王への謁見後にわたしの相手を務めたのがシスト王子だったのを考えても、接待役は彼だろうから。


 わたしもクローバー王国の意思を無視するのは胃が痛むんだけど、シスト王子は鏡の国の魔物と組んでるから……。

 それともそう見せかけているだけで、実は鏡の国の魔物も欺いているんだろうか?


 ああ、もう。無理無理。天才の考えてることなんて分からない。

 だからわたしはわたしなりに、自分が最善だと思うことをやるだけだ。


 ……ところで、実際わたしは何も聞いていない訳だけど、クローバー王からされたかもってセシウス王子が思った話って、何だろう。


「確かに、個人として密な繋がりがあるとは申せませんが、国として、また国を代表する者として、善き関係を築けてきたと思っております、と申しております」

「誤解を与える発言、失礼しました。無論、私どももそう思っております。そうではなくて――その、私と貴女婚約について、です」


 はッ!?


 いきなりの予想外な言葉に、目を見開いて硬直してしまう。

 聞いてない聞いてない。クローバー王どころか、お父様お母様からも聞いてない!


「ああ、いえ。打診とか、そういう段階ですらありません。そういう可能性はどうか、という話が我が国の内々で出ただけなのです」


 か、可能性。可能性ね。


 そりゃあ、元々わたしはシスト王子と婚約していたわけで、同じクローバー王国の王子なら条件もそう変わらないからなしじゃな……くない! セシウス王子はシスト王子と立場が違うでしょ!?


 ハート王国の王であるわたしは、もちろんクローバー王国に嫁げない。セシウス王子だって立太子されているわけで、順調にいけば次の王は彼だから、他国に婿入りとかするわけが……。


 ……つまり、そういうこと?

 太子を降ろされようとしてる?


「我が国の都合で長く貴女の時間を拘束し、果てに婚約破棄となったこと、申し訳なく思っています」


 王族・貴族の結婚は、家や国の都合で組まれることが多い。子どもの頃から相手がいるのも普通。

 つまり二年前まで相手が決まっていたわたしの周囲の適齢期の男性には、ほぼほぼすでに決まった相手がいるってこと。


 それでも腐っても女王ですから? 探せば見つかりますから。大丈夫だから、多分。

 いやでもまさか。その責任を取ってシスト王子の代わりにセシウス王子を婿入りさせます、と……?


 やーめーてー。


 重い! 重いし気まずい! そんなに切羽詰まってないから!

 そ、それにセシウス王子にだった婚約者がいたはず。その人は……。


 まさか。


「私の婚約者の事であれば、心配はいりません。彼女は政治的に、必ず王の配偶者となることが定められている女性ですから」


 そういえば、ゲームではセシウス王子にも婚約者とかいなかったなあ。歴史モデルゲームあるあるの法則ですね。


 でも――でも、だよ? 現実にはここまでそのつもりで一緒に過ごしてきた相手なわけでしょう? 他国で、会うことすら頻繁ではなかったわたしとシスト王子とは状況が違う。


 本当に、それでいいの?

 思わずセシウス王子を見つめてしまうと、彼は少し、気まずげに笑った。諦めた表情で。


「私は、シストの方が王に相応しいと思っています。私のような凡庸な人間よりも、ずっと国を正しく導いてくれるでしょう」


 すぐ下にあんな兄弟がいたら、自身を失くすのは分かる。分かるけど――。


「不甲斐ないッ!!」

「ちょっ、陛下っ」


 思わず自分で叫んでしまった。


 ニーナが慌てて、セシウス王子は驚いた顔をしてるけど……ええい。喋ってしまった以上、喉の調子云々の言い訳はできない。セシウス王子には事情を話して黙っていてもらおう。


 しかし王が鏡の国の魔物の術中にあるなんて、聞こえのいいものじゃない。理解を得られないそのときは、シスト王子の件と交換である。


 セシウス王子からすれば確定してない話だけど、『かもしれない』だけでも充分ためらわせる材料になる。

 事実だしね。


「妾は他人に未練を残した男になど用はないぞ。そもそも、未練があるのに諦めるとは、どういう了見だ? 貴様の抱く愛情はその程度か? であれば、妾を満足させるには到底足りん。出直して来い!」

「エ、エリノア陛下……」

「更に! 己より弟の方が王に相応しい、と? ふざけるのも大概にしろ。頭の出来に差があることなど、何年も前から明白だろう。それでも貴様が太子であったのは、なぜだ? 貴様を支持する者どもの考えすら分からぬか? ハッ。仁君が聞いて呆れるな!」


 セシウス王子が王太子であるのは、年の順とか、一度決めてしまったからというのもあるだろう。単純に揉めるのが嫌だから彼でいい、という消極的な支持者だって少なくないと思う。


 けれど間違いなく、誠実な彼にこそ継いでほしいという本当の支持者もいる。必ずだ。


 わたしは、王が国で一番賢い必要があるとは思わない。臣下の言葉を理解するだけの力はないと困るけど、そこまでだ。


 もっと大切なのは、人の話を聞ける人であることだと思う。

 人は、自分の考えの正しさを信じている。そうじゃないと生きていけないし。でも当然、間違いはある。より最適解が存在することだってあるだろう。


 王は、己の考え、信念を持ち、けれど己の考えと同等に人の意見を受け入れられる器の持ち主でなければ務まらない。


 言ってて自分に跳ね返ってくるわけだけど、わたしが目指す王はそこ。


 けれどその才格は、本当に稀有なのだ。世の中で賢君と呼ばれるような、支配者に相応しい人物がその地位に昇ることの少なさは歴史書を見れば一目瞭然。


 普通に優秀な人は、結構多くいる。けれど優秀な人ほど己の正しさを信じてしまうから、意見が異なる他者の意見には耳を貸さない人も少なくない。


 セシウス王子は、それができる人なのだ。


 人は置いてけぼりにするけど、常に最適解を出し続けるシスト王子。決して、常に最善という訳ではないかもしれないけれど、周囲の輪と共に穏やかな国を作るセシウス王子。どちらも間違いではないと思う。


 ――だからこそ、セシウス王子には自分を否定しないでほしい。それは、彼を信じた人のことも否定しているということだから。


「ですが、国のことを思えば、やはり才能のある王を戴いた方が民も幸せでしょう」

「さあな」


 ゲームだったから、四印のアリスではどちらのエンディングもハッピーエンドだ。でも、その先は分からない。


 正直言うと、シスト王子が現実に王に就いたら、危ういんじゃないかなって思う。彼は正しいけど、他者の理解を求めないから。


「それは今妾が決めることでも、貴様が決めることでもない。民がその生を終えるとき、寝床の上で判断することだ」


 わたしたちにできるのは、そこで『まんざら悪い人生じゃなかった』と言ってもらえるよう、努力することだけ。


「そしてシスト王子を王に戴くのなら、貴様は臣であり民だ。どうだ? 己は幸せになりそうか?」

「私は……」


 問いかければ、セシウス王子は言い淀んだ。

 シスト王子が治めた国の姿の、イメージが湧かないんだと思う。


「まあ、貴様の国のことなどどうでもよい。勝手にするがいい。……大分話が逸れたな。妾が訪れた本題に戻るとしよう」

「あ、ああ……。そうでしたね」

「鏡の国との道と、魔物を二匹、見つけたぞ」

「!?」

「場所は町の広場の噴水だ。これは貴様らが見つけたものとは違うな?」

「……はい」


 硬い表情でセシウス王子はうなずく。


「妾が考えるに、鏡の国の魔物の狙いの一つは、町で騒ぎを起こすことに相違あるまい」

「町で……ですか?」


 そちらにはピンとこないのか、首を傾げられてしまった。


「あぁ、何と視野の狭いことか。同じ王族の名を冠する者として羞恥に耐えんな。――いいか、少しは己の頭で考えろ。貴様が太子を降ろされようとしているこの状況、自然に生まれた流れだとでも思うのか?」

「――」


 そうなってもおかしくないと考えていたのが分かる、驚いた表情と沈黙。


「……まさか、違うのだと?」

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