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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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冗談という名の本気

 ただ、できれば――


「次善策としてはまあ、よかろう。しかし最善は事を起こさせぬことだ」


 起こってしまったら、どれだけ急いでも早くても、絶対に被害が出るから。


「鏡の国の住人が道を繋げる条件が不明だから絶対とは言わないが、今のところは自由にできると想定するべきだと思う」


 最悪がそれだものね。


「つまり、不可能だ」


 ……ううーん。


 エルトシャンに協力してもらえれば、被害ゼロは不可能じゃない。でも、彼の離反作戦を口にするのは、ニーナの手前難しいかも。


 わたしだって、ゲームを知らなければ鏡の国の魔物を裏切らせることができるなんて、考えもしなかっただろうし。


 そして現状、それを納得させられる材料はない。

 この作戦は、しばらくわたしの内だけに仕舞っておこう。アレフだけはすぐに協力してもらう必要があるけど。


 フェデリと二人で話せれば心強いんだけど……。怪しすぎるし、話から外されればニーナは傷付くだろうし……。うん、機会を待とう。


「よかろう。まずはそちらを警戒するよう促すこととする」

「うん。それぐらいが無難だろう」

「他に町で気付いたことはあるか?」

「……そうだな。ちらほら、王子二人の対立を話している人がいたね。現場から遠い分、こちらはデマが広がるのが早そうだ」


 実際にはそれほどでもないのに、町にそんな話が広まりつつあるなら、やっぱり意図して流されてるわね。


 ん、でも……。街でもうその話が出てるなら、『町に巡回兵を増やして被害を抑えた』シスト王子の功績も、こっちで持って行けるかも。

 よし、セシウス王子に話しておこう。


「エリノア。一つ確認したいんだが。君はクローバー王国で起ころうとしている騒乱を防ごうとしている……で、いいんだよな?」

「妾の命すら忘れたのか? 鶏にも劣るその頭、さっさとどこかで取り替えて来い」

「いや、それならいいんだ」


 ほっとした様子でフェデリはうなずく。

 ど、どういうこと? クローバー王国に来る前から、わたし、そうとしか言ってないよね? 違う目的があるように見えてるの?


「妾の行動に含みがあると言いたいのか?」

「そうではないけど。君は妙にミラに甘かったから。彼が出てきたのならどうかなと、少し思っただけだ」

「飼われたいというから、妾の目的が果たされるまで飼ってやっていただけのこと。敵対するなら排除するだけだ」


 結局、ゲームに勝って呪いを解くって目的、果たせませんでしたけどね!


 ミラを殺したり、すぐに追い返さなかったのは理由があったからで、情が移ったとか、そういうのはない。


 彼はわたしが気に入ったとか言って居座っていたときだって、その裏では平然と人を傷付ける画策をする。そんな相手に情がわくはずがない。


「そういう貴様はどうなのだ。昨日はずいぶん、町でゆっくりしていたようだが? よからぬ企てなどしていないだろうな」

「帰る時間ぐらい、しっかり別々に見えるようにしようと思っただけだよ」


 うん、そうなんだろうなー、って思ってた。


「けど、俺がそこそこ時間を空けて戻ってきたのを知ってるってことは……。ああ、メイドの子とこの前の庭を通ってたのを見ていたわけだ」


 ぐっ。


「偶然にな!」


 これはからかわれる流れ! 先手を取って、深い意味はないと主張しておく。


「なら、俺が君の部屋を見上げなかったのは正解だな」


 部屋の窓越しに地上の相手と視線を交わす――って、確かに凄く噂になりそう。身分に隔てられた禁断の恋とか……。

 悲恋も、いつの時代も一定の人気を誇るテーマだから。


「君はさっき俺が帰る時間を調整した理由に、思っていた通りの答えが返ってきてほっとした顔をしていた。つまり自分の中で答えを出していたということだ。なのにわざわざ口にしたのは、君が俺を見つけたのに、俺が君を視なかったのが面白くなかった?」


 何となく、残念に感じてしまった気持ちがあったのは間違いない、けど。

 べ、別に面白くなかったとか、そこまでじゃない。大体、それってかなり自分勝手だし……。


「貴様の中の妾は、随分貴様に都合よくできているらしい。妾が貴様のために心を揺らすと、なぜ思った? 幸せな輩よ」

「君が口にしてくれたから、願望込みかな。ただ、否定したいけどしきれない、というその顔と、否定してきた言葉を合わせて考えるに……。少し面白くない気持ちは抱いて、でも自分でその理不尽さを反省してなかったことにした――ってところかな」


 こんな所にまで洞察力発揮しなくていいですから!

 まま図星だったので押し黙ると、フェデリは唇を柔らかく笑みの形に変える。


「何とも思われないよりは、理不尽でも面白くないと思ってくれた方が嬉しいかな」

「――っ」


 フェデリのこの笑い方が、一番困る。


 いつもみたいに明らかにからかっていると分かる笑顔は何とも思わないけど、この、どうとればいいのか分からない物言いと一緒に付いてくる優しい笑みには、どうしても慣れない。


 答えに窮していると、空気を断ち切る、手を叩く乾いた音が響いた。


「はい、ストップ」

「ニーナ」

「いい? 帽子屋さん。貴方が自分の信用度をその言動で下落させていくのは一向に構わないけど、我らが主を口説くなら、相応の誠意を見せていただくわよ」

「下落とは、中々酷いな」


 ニーナの制止を受け入れる形で、フェデリは物理的にも一歩身を引いた。余裕のある苦笑の表情が、ちょっと悔しい。

 とか思ってると。


「あら、違うの? 冗談で逃げて本気にしないくせに、相手には意識してもらいたいなんて。都合がよすぎると言われたって文句言えないでしょう」

「――」


 不愉快さを示して追求したニーナに、フェデリは僅かに表情を強張らせた。

 ……否定、しないの?


「それは、失礼。エリノアは素直に反応してくれるから、ついね。挨拶程度のものだと思ってくれればいい」


 そう、だよね?


 フェデリは元々そういうキャラだし、わたしだってそのつもりで聞いてますとも。……分かってても心臓に悪いぐらい色気と演技力のある人なんだけどさ。


 でも、今の一瞬の間って……。


 もし――もしだけど。フェデリが多少なりとわたしに好意を持ってくれてて、恋愛的な意図があるのなら。


 彼は踏み込んでこないだろう。


 なぜならフェデリには、今の自分が自分である確証がない。ジョーカーになったときにすべてを失っていて、突然ジョーカーでなくなるかもしれないから。ジョーカーになったのがかつての自分の意思だったか不可避の運命だったのか、それすら彼には分からないから。


 相手を想えばこそ、最後まで責任を持てるかどうか分からない関係を構築することを、フェデリは良しとしないだろう。それこそ、誠意ゆえに。


 本気にさせてはいけないけれど、気にはしてもらいたい願望からの行いだったら――……。


 ……うん、やめよう!


 自分で考えててなんだけど、ちょっと恥ずかしい妄想力だったな!

 恋愛ゲームのキャラだっていうのに毒され過ぎだって。本人が言っている通り、挨拶程度のものなんだよ、彼にとっては。本人が言ってるんだから、そう受け取っておくべきさ!


 わたしの動揺はともかくとして。


「安心しろ。妾としても、貴様の戯言などいちいち聞いていない。――他に身のある話がないのなら、そろそろ下がれ」

「そうだね。今日はこれで失礼しよう」


 ミラとエルトシャンを見つけたとはいえ、物語はまだ準備段階。今は先手を取られないよう、こちらも情報収集と仕込みに力を入れる時期だろう。


「そうだ、ニーナ。貴様はついでにセシウス王子の予定に妾との面会を入れさせて来い」

「かしこまりました」


 フェデリを見送るため、丁度扉を開けたところだったニーナは、極丁寧にわたしの命を承諾した。


 セシウス王子と会えるの、いつぐらいになるだろう。こちらは視察許可貰っている身だし、それ関連だということで都合をつけてくれたらありがたい。……その分繰り下げられる人には申し訳ないけど。


 数分後――戻ってきたニーナは、少し慌て気味に部屋に入ってきた。


「どうした」

「今なら丁度時間が空いているから、会えるって仰ってるわ。どうする?」


 い、今すぐ?


 自分で頼んでおいてなんだけど、今すぐって思ってなかったから、心の準備が……。

 でももちろん、『行く』一択。


「無論、会う。行くぞ、ニーナ。供をせよ」

「承りました、陛下」


 ニーナがいないと話せないんです。

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