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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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攻略へ向けて

「例え主の意思であろうとも、承服できないのなら俺は異を唱えます。それは貴女の騎士である、俺の役目でもあると考えていますから」


 己の意思を殺した武器にはならないときっちり釘を刺してから、ジャックはうなずく。


「しかし今回の件に関して異はありません。お望みのままに、貴女の目指す道を切り開きましょう」

「当然だ。懸命に働くがいい」

「具体的に、どうするの?」

「まずはセシウス王子が現状をどれだけ正確に把握しているかを確かめる」


 わたし自身も、ゲーム的にどのあたりかを知らないと、行動するにできない。

 外から見ただけの感覚と、あくまでゲームでの話にはなるんだけど、シスト王子とセシウス王子の仲は決して悪くなかった。


 家族という、本来なら一番信頼できる相手。その相手が国を裏切って鏡の国の魔物と通じているとか、考えもしないんじゃないだろうか。


 ……知ったら、傷付くだろうな。


 それでも知って、対応しないと大きな混乱を招く。


「――あとは少し、フェデリと話したいところだな」


 状況があいまいだから大した準備はできないけど、会話の上手い誘導の仕方とかを聞けたらいいなと思う。


 フェデリはジョーカーという長い記憶のおかげで、統計的な人の心理を掌握していて、おおむね有効。人間の行動は意外と枠にはまっているものだ。


「帽子屋を、ですか」

「我らの中で、人を謀るのが一番上手いのはあやつだ。とはいえ、今日これから呼ぶには外聞が悪い」


 帰る時に傾いてきていた陽は、最早沈みかけ。そろそろ解散し時でさえある。


「事態が動いたときはことごとく妾に報告を怠るな。――以上だ。散れ」

「承知いたしました」


 ジャックが応じて一礼すると、追従する形でラビとレビも頭を下げ、そそくさと部屋を出て行った。


「帽子屋さんに連絡しておく?」


 わたしがフェデリを頼ってしまうのを、ニーナはやっぱり歓迎していない様子。でも個人的な疑念を仕事に差し挟んだりもしない。ニーナのそういうところ、信頼してるし尊敬してる。


「いいや。後でよい」


 とはいえ、その問いには首を横に振っておく。

 セシウス王子への取次ぎすら頼めてないからね。急ぐ必要がない。明日、明るくなってからでも充分だと思う。


「それもそうね。――あら?」


 警戒しているからこそ、敏感なのかな。わたしにうなずいたニーナだけど、すぐに不思議そうな声を上げた。


「どうした」


 訊ねつつ、理由を求めてニーナの視線の先を追う。ニーナの目線は窓の外に向かっていて、その先には。


 ……フェデリ?


 買い物かごを持ったメイドさんと、彼女の物だろう荷物を分けて持ちながら並んで歩いている。

 メイドさんの方は町からのお使い帰りって感じ。その人と並んで歩いてるってことは、フェデリも今戻って来た?


「ずいぶん慎重に離れていたのね」

「妾に仕える身でありながら、悠長なことよな。あるいは、目聡く何かを見つけてきたか」


 ミラとエルトシャンのこと、フェデリとも共有しておかないといけないな。明日会うべき用件が増えた。


「そうね。だとしても、明日の話ね」


 うん。余程の緊急案件が発生しない限り、予定は変わらない。


 別に意味があるわけではないけど、わたしの目線はそのままフェデリの姿を追ってしまう。


 わたしの部屋の位置はフェデリなら外側からでも把握してると思うけど、彼の視線が隣のメイドさんから外れることは、結局なかった。


 ……あれ? 目が合わなかったこと、もしかしてわたし、ちょっとがっかりしてる?


 いやいや。そんなわけないし。大体、フェデリの行動は正しい。ただでさえ身分違いの適齢期男性を連れ回している状態なのだ。仕事以外の接触などない方がいい。


「エリノア」

「妾に親しい振る舞いなどという愚行を犯さぬかどうか、見張っていただけだ」

「はいはい。そんな言い訳、噂が立ったら聞いてくれる人いないけどね」


 言いながら、ニーナはさっとカーテンを閉じる。


「ここは他国なのだから、気を付けなさいよ」


 ……気を付けます。




「さて。じゃあどんなデザインにしようか、女王陛下」

「任せる。そのような下らぬことが本題でないことは分かっているだろう」


 今回は帽子を作る――というカモフラージュは本格始動したらしい。

 ただまあ、本当に帽子を新調しようってわけじゃないから、お任せします。


 というか、実はわたし、ファッションに疎いんだよね……。今の生活でも、コーディネイトはニーナを筆頭に侍女の皆さんがやってくれるので、自分で勉強するのをなまけがちというか……。


 なにせ前世のわたしが美容室でするオーダーは、『わたしぐらいの年齢の人が一番多く頼む髪型』である。似合う似合わないは後回し。周囲に埋没できればそれでいい。


 埋没しつつ個性を出して、しかもそれを他者に受け入れてもらえるような、上級者センスなど持ち合わせていないのだ!


「任されてもいいけど、後悔しないな?」

「妾が身に付けるに相応しい品を作るのは、貴様の仕事だ。だというのに妾の眼鏡に適わぬものを出して来てみろ。死刑だ」


 流行とかを作ろうとはしなくていい。一般的な、普通のセンスで作られた帽子にしてください。


「分かった。けど、せっかく作るなら張り合いが欲しいな。完成した物を必ず身に付けてくれるなら、ご要望に応えよう」

「まともであれば、考えてやろう」

「それでいい。楽しみにしてるよ」


 そこは楽しみにしててくれ、じゃないんだ?

 ま、まあ、ここまで言っておけばそう奇抜な物も出てこないでしょう。大丈夫だと思う、うん。


「では、本題だ。昨日でいくつか確認できた事実がある。それらについて、貴様の意見を述べろ」

「了解」

「まず一つ。シスト王子の側に鏡の国の魔物がいる。恥知らずにもペットとしてな。姿はハリネズミ。注意しておけ」


 一番重要なのがこれだと思う。フェデリがうなずくのを見てから、再び口を開く。


「二つ。シスト王子は鏡の国の魔物に操られていない。三つ。ミラがこの件に噛んでいる。四つ。もう一匹、黒猫の姿をした鏡の国の魔物がいる」

「ああ、後の二つは俺も見ていたから知ってる。大丈夫だ」


 こちらから見える所にはいなかったけど、きっちりとそれなりの近さで付いてきていたらしい。


「以上を踏まえて、妾はセシウス王子と接触を図る。奴に弟の愚行を教えてやるよい手はないか?」

「難しいな。魔法を使う場面をどうにかしてみせるぐらいしか方法はないだろう」


 うちは偃月が昔からいたから、鏡の国の魔物も比較的見つけやすかった。でも他国だと……それしかないよね。


 ただし言われているとおり凄く難しい。ばれたら終わりなのは分かっているから、向こうも普通の動物のフリを徹底するから。


「その手段を考えようというならそれでもいいが――。エリノア、君の考えはどうだ?」


 考えというか、シナリオ展開ですよね。


「まずは、奴らの企みを潰すのを第一に考える。そのためにセシウス王子の支持基盤を盤石にする。内乱が起きねば奴らの目的は達成されない。事を起こすために大きく動き、ボロを出す瞬間が必ず来る」


 ……はず!


「ならセシウス王子には、鏡の国の住人が内乱を起こそうとしている部分だけを話して、納得、協力までを取り付けるのがよさそうだな。上手く話せば、シスト王子の周りにも注意を向けてくれるだろう」


 レフュラスがボロを出したチャンスにすぐ気付いてもらうには、その近辺をある程度警戒しておいてもらわないといけない。


「では、それを成すためにどう話すべきか?」

「クローバー王国での、シスト王子への信頼度はとても高い。セシウス王子とシスト王子の仲はどうなんだ?」

「悪くない。王子二人は評判通りの人柄だ。何ならセシウス王子は、己が道を譲ることを考えているかもしれん」


 シスト王子の才覚を妬んだりやっかんだり――って人じゃないんだよね、セシウス王子も。


「だったら、シスト王子本人をすぐ疑えというのはまず無理だな」


 やっぱり、無理ですか。


 何しろそれを言うのがわたしだからね。他国の王と信頼する弟――どちらを信じるかなんて決まっている。


「じゃあ、外堀から埋めていこう。噴水の入り口の件を持って行って、町の襲撃の可能性を伝えてくれ。向こうの計画、こちらが使わせてもらおうじゃないか」


 突然の魔獣の襲撃を素早く鎮圧するのを、セシウス王子にやってもらおうってことね。


 温厚な人柄だけでなく、素早い判断とそれを成し得る手腕を見せるというのは、シスト王子のお株を多少なりと奪うものなので、効果は覿面だろう。

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