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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
35/58

攻略対象、決定!

 うわ待って。まずいまずいっ。別の手で来られたら、わたし分からないから! 防げたかもしれない相手の謀、わざわざ余計に分かり難くした……?


「さすがの慧眼です。心に寄り添うことは、思考に近付くと同じ。昔から人心の機微に長けていた貴女ならば、その才を芽吹かせるのも道理だったのでしょう」


 いやまあ、空気読むのは頑張った! 周りと軋轢生まないよう、同調するのは得意でした、割と! でもそこから飛躍され過ぎじゃないでしょうか。

 が、わたしの口は謙遜など許さない。


「あの程度の単細胞生物の考えなど、思考と呼ぶにも値せん。造作もない」

「頼もしい限りです」


 全然頼もしくないので、期待は適度にお願いします。

 ……いや、ほら。まったく期待されないのも寂しいから……。


「貴様、己の職務を忘れているのか? 妾に頼る? 図々しいにも程がある。そのような怠惰な考え、今すぐ捨てろ。貴様は妾の役に立つために存在しているのだ。無能に存在価値はない。死刑に処するぞ」

「精進します」


 超さらりと流された。最近のジャックには安心感があります。


「見つけた鏡の国への道は封じたと仰っていたのだから、クローバー王国が見つけたものはこことは別よね?」

「そうなるな」


 わたしと一緒にシスト王子から話を聞いていたニーナは、ぞっとした様子で顔を歪める。


 気持ちは分かる。やっぱり鏡の国の魔物は、わたしたちが思っていたよりずっと簡単に道を繋げられるってことが証明されてしまったわけだから。


 でもそれなら、どうしてこれまでやってこなかったんだろう?


「然程の労がかからないのなら、強行する可能性はありますね。この下見は無駄にならないでしょう」


 あ、そーか。知られてたって関係ないんだ。シスト王子の支持を高めるためなんだから。すぐに鎮圧されるのは織り込み済みのはず。


 魔獣が町中で暴れる一報が流れるだけで、多くの人が不安を感じ、恐怖する。その時点で鏡の国の魔物にも益があるのだ。


 被害を抑えることはできそうだけど……これは、止められないかも。

 止めるんだったらもっと大きな妨害――それこそエルトシャンの離反とかを成功させなきゃいけない。


 ううむ。


 ここは現実で、ゲームでは物語を『おいしく』するために脚色されてたり捏造されてたりするから、上手くいくとは限らないけど。ルートに沿ってエルトシャンの離反(攻略)を狙ってみようか……。


 アレフに頼んで。


 ……。


 いや、分かってますよ、乙女ゲー的にそもそもそれって成立しなくない? ってことは。


 でもほら、アリスポジションなのって多分アレフだし、事情を話して攻略狙える女子ってわたしかニーナになっちゃうし。


 わたしは悪役女王だし、断言するけどゲームヒロイン・アリスみたいな魅力はないッ。かといってニーナに鏡の国の魔物との接触とか、危ないことさせたくないし。


 アレフは魔法全無効化というチート持ちなので、多少危険性は緩和される。少なくとも操られて自我を失って――ということはない。肉体的な戦闘能力が高めなのも知ってる。そして本人の度胸も半端ない。


 だ、大丈夫。わたし、愛の形って一つじゃないって思うんだ。友情も愛の括りに入れていい派です!


 恋愛に変化したら? 本人たちが幸せなら祝福します。ただハート王国では同性婚が認められていないので、ダイヤの国への推薦状を……。


「とりあえず、今日は戻りましょう。大体の地理は把握できましたし」


 ここでするべきことはなくなったと判断したか、ジャックが上げた声に思考が中断される。反射的に空を見上げると、なるほど、太陽は西に傾きつつある。


 時間の経過を認識するとともに、それだけの時間を歩き回っていたのだと自覚もして、急に疲れを感じた。


「そうだな。戻るか」


 セシウス王子への取次ぎを頼んで、今日はゆっくり休もう。




「お帰りなさい、陛下。あの、ご報告が……あるんですけど……」


 ゆっくり休めなかった。


 部屋に戻るなり、待ち構えていたラビからそう告げられる。アレフも一緒だ。護衛を兼ねて今日の行動を共にしていたのだと思われる。


 そしてわたしの方はといえば、帰ってくるまでで体は着いたら休むモードに入りきっていたので、疲労感も一入(ひとしお)


 そのぐったり感が出てしまったのだろう。後半、ラビの声は尻すぼみになる。


 もちろんこれはラビのせいでも何でもないので、萎縮するようなことではない……のだけど、無理か。無理だな、うん。


「ほう? 妾の都合を無視して押しかけ、聞かせようという報告だ。相応の中身がなくば死刑だ。心して口にせよ」

「や、やっぱり明日にします!」

「え? 今聞くって言ってるんだから、今すりゃいいじゃん?」


 怯えたラビが首を刎ねられる前にと(刎ねないけどっ)回れ右しようとしたところで、アレフが襟首を掴んで引き留める。


「僕、まだ死にたくないので!」

「死に関わる事なんかなかっただろー?」


 あったんですよ。アレフには聞こえなかったんだと思うけども。


 アレフはアレフで、わたしと周りの会話を把握するのが大変そうだなあ。方々に苦労を掛けています、本当。――ミラのせいだけどね!


「いい加減にしろ。いつまで妾の貴重な時間を奪えば気が済むのだ? さっさとその報告とやらをしろ。死にたくなければな!」

「か、鏡の国の魔物を見つけました!」

「何だと!?」


 何ですと!?


 全然詰まらない報告じゃないよ! 大金星だよ!

 なのに称賛を期待されるんじゃなくて、死刑を心配させるのか。そうか……。


「シスト王子がハリネズミを飼ってるんですけど、そのハリネズミがそうでした。今のところ、鏡の国の精神支配で操られている人は見つかってません」

「シスト王子も、だな?」

「……はい」


 つまり自分の意思で鏡の国の魔物を受け入れ、協力しているということ。一番厄介なパターンだ。

 しかし、ハリネズミとは。ゲームを参考に四十手前のナイスミドルを探してたら、一生辿り着けなかったわ。


「斬りますか」

「いや、待て」


 元凶を断つという意味で、ジャックの提案はなしじゃない。

 だがわたしはその提案を考慮する間もなく、即座に止める言葉を口にしていた。


 ――どうして?


 理由が分からず、自問する。胸の印が妙に熱い。


 皆が不思議そうにわたしを見ているけど、どうして瞬間的に殺害を拒否したのか、わたし自身にも……あぁもう。印が本当に熱いな。気が散る。


 ええと。レフュラスを今殺してしまうのはマズい。だって――。


「そいつはシスト王子のペットに収まっているのだろう。下手に殺せば事情を知らぬ者どもから反感を買う。まずは鏡の国の魔物である証明が必要だ」

「僕とレビで、証言ならできます」

「引き離して、気付かれぬうちに始末をする、という手もあります」


 物騒!


「貴様らは随分、己を過大評価しているらしい。まずジャック。貴様、万が一にも失敗すれば、シスト王子のペットを殺した汚名を妾も被ることになると、承知の上での発言か? ふざけるなよ」


 多くの鏡の国の魔物は、その魔法は厄介だけど本人そのものはあまり強くない。隠れられている時が一番厄介で、見つけてしまえば暴力で何とかなる――のが大体なんだけど、レフュラスは強いのだ。


 だってクローバー編の黒幕ですから。特に防御が固く描かれてた。ジャックの提案を採用するなら、最も面倒な力だと言えるだろう。


 正直、誰にも気付かれず密やかに殺害するのは、ジャックであっても不可能だと思う。


「次にラビ。貴様の言が通じるのは、寛容なる我が国だけだと忘れるな。まして今回、鏡の国の魔物は三体いる。ハリネズミを殺した後にも鏡の国の干渉が続けば、誤解で殺したなどと言いがかりさえ付けられかねん」


 ミラとエルトシャンを捕まえて差し出せればまだいいけど、できなかったら……。考えたくない。


「じゃあ、どうするの?」

「素知らぬ体を装いつつ、セシウス王子にハリネズミの正体を悟らせるしかあるまい」


 同時に、セシウス王子の立場を強化しておきたいところ。


 この権力闘争がシスト王子有利に傾いたあとで鏡の国の魔物の存在が発覚したら、そこでまた議論の――過激な言い方を隠さずに言うなら、争いの火種が生まれてしまう。


 同じ王族としても、鏡の国の魔物と組んで、自分の支持のために民を苦しめることを許容する次期国王など認められない。支配者たる資格なし。隣人としてお付き合いするにも不安しかないわ。


 というか、この時点で事が明らかになればクローバー王国は相当重い賠償を求められるだろう。


「難しいですね」

「成すべきことに、容易いか難しいかなど問題ではない。妾がやると言ったのだから、貴様らはただひたすらにその道筋を敷けばよいのだ。貴様らの意見になど用はない」


 横暴度合いは増してるけど、やらなきゃいけないことはどうしたって避けられないんだからやるしかない――っていうのは、わたしの本心。


 そして……ふふふ。実は秘策があるからね。前世の乙女ゲー攻略の記憶という。


 ヒロイン・アリスが選んだ方が王の座に就くこのクローバの国編。つまり大まかに、セシウス王子のルートをなぞれば上手くいく、かもしれない!


 別に恋愛を絡ませなくても、起こる事態(イベント)に対応だけするのは可能だと思う。

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