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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
34/58

クローバーの国編、攻略対象二人目

 当然と言えば当然だけど、お忍びのための支度を終えるのは、わたしが一番遅かった。

 すでに控えの間で待機していたジャックとレビを連れ、城下へと繰り出す。後からフェデリも付いてきてるはずだけど、確認はしない。


「城門から中央広場までは一直線、ですね。道も広い」

「この道が使えればな」


 もし魔獣が出現したら、町を巡回している一般の兵士だけでは対処しきれないだろう。なにせ軍事特化の我が国でさえ、魔獣を相手にするなら近衛騎士レベルが望ましいのだ。


 だから絶対、城から応援が出される。その間を縫って駆けつける、というのは現実的ではない。


 人が一人二人通り抜けるのに使っていそうな、地元の人しか知らない裏道が知りたい。この際、多少遠回りでも問題ない。それでもそちらを通る方が早いと思うので。


「レビ。貴様は周囲に魔法の気配がないか、よくよく探れ」

「……ん」


 微かに声を発し、こくりとうなずくことでレビは了承を表した。

 広場周辺の地理を確認するために、ひたすら歩く。


 ……。……。


 うーん。レビからも反応なしか。


 クローバーの国編のラスボスはレフュラスだけど、彼には協力者が存在する。プレイヤーの攻略対象でもあるその人物の名は、エルトシャン。鏡の国の魔物である。


 彼はレフュラスの協力者という立場で、シナリオ前半で暗躍する。しかしエルトシャン本人は、クローバーの国に騒乱を起こすことに、それほど積極的ではない。


 ヒロイン・アリスが彼に接触して、何やかんやエルトシャンの好感度を獲得すると、彼ルートに入ってレフュラスの企みを阻止する側に回ってくれる。


 大計を描くレフュラスは王城にいるだろうけど、現場で動くエトルシャンは町に、それも事件を起こす近くにいるんじゃないかなー……とか思ったんだけど。

 そんなに上手くいかないか。


「……エリノア、様」

「何だ」

「同胞が、いる」

「!」


 ぼそりと声を抑えて報告してきたレビに、ニーナは息を飲み、ジャックは辺りに素早く視線を巡らせて近くにいる人たちを把握し、すぐに目の前の噴水を眺める体に戻った。


「どこだ」

「あの噴水の裏。水、鏡。入口……? ……魔法、結構、美しい。熟練」


 そこはどうでもいいかな!


 いやどうでもよくないのか。熟練ってことは、手強いってことかもしれないんだし。


 まずは、姿を確認しよう。お互い面識はないから、わたしたちがハート王国の一行だっていうのが一目でバレるってことはないはず。


 もしできそうなら、この場で確保。

 ニーナがわたしに雑談を振り、相槌を打ちながら噴水を回って――


「!!」


 横目で視線を送ろうとして、失敗した。でもどっちでも同じだったかも。


「む?」


 燦々と陽光の降り注ぐ、お昼寝ベストポジションで寝そべっていたのは、二匹の猫。ぱっと見ほのぼのとする愛くるしい光景だけど、鏡の国の魔物となれば話は別。

 っていうか、ミラだし!


「おお、女王。久しいな」

「あァ? 知り合いかァ?」


 猫らしからぬのっそりとした動きで起き上がったのは、黒単色の毛皮に青い瞳をした、長毛種の猫。ガラが悪い。

 ただこの物言い、エルトシャンのキャラ的に外れてないぞ……。


「ハート王国の女王だ。クローバー王国に来ると聞いているだろう?」

「あー、就任挨拶だっけか。ご苦労さんだねェ」


 退屈そうに耳の後ろを描き、ついでに欠伸を一つ。こちらに興味を持っている様子は皆無だ。

 わたしたちとしては、その方がありがたいんだけど……。


「ちなみに、我輩の正体を知っている」

「はァ!?」

「そして我輩に親しく声をかけたことで、其方の身もバレたな。と言っても……」


 そこで一旦言葉を切り、ミラは楽しげに目を細めてこちらを見上げてくる。


「就任挨拶に訪れた女王が、このような所をうろついているのだ。我輩たちが何をしようとしていたか、その未来視の力で見通したか」

「おいおい……。だからって自白してやる事ァねえだろうがよ」


 呆れた調子で言いつつも、エルトシャンにミラを責める様子は見えない。やっぱりゲームと同じで、騒乱を起こすのにそれほど積極的じゃない?


「さして変わらんからな」

「そーかい。まァ、別にいいけどよ。で、どうすんだ。――邪魔なら殺っちまうか」


 あまりに軽く発された言葉に、ジャックは腰の剣に手をかけ、わたしも扇を手にして魔力を通す。だけど、まだ切っ先は向けないでおく。


 今のエルトシャンの言い方に、殺意は感じなかった。


 もっとも、世の中には殺意を持たずに人を殺せる本業の人もいるので、だから安心ってわけではないけども。


「女王を殺すのは得策ではない。其方も分かっているだろう」

「さてね。……正直少し、飽きちまったんだよなァ。テメーだって似たようなもんだろ?」

「いや? 我輩は今しばらく続けるつもりだ。どうでもよくなったというなら止めはせんが、邪魔になるようなら、我輩は其方を殺さねばならん」


 ――!


 言い方の軽さはエルトシャンと同程度。でも、ミラの言葉には本気が見て取れた。服の下で鳥肌が立つ。


「……物騒だねェ」


 受け流すようなことを言いつつ、エルトシャンはミラへと向き直る。


 待て待て。どういう状況? どうして鏡の魔物の仲間割れに立ち会ってるの?


 鏡の国側から離反するルートもあるエルトシャンだけど、もちろんこんな所でではない。そもそも、ハートの国編の黒幕であるミラは、クローバー編には出てこないし。


「懸命な振りとか、らしくねェな、ミラ。ハートの国で余計なことをして手間ァ増やしたの、どこのどいつよ。本気でかつての約定の通りにするんなら、やらなかったはずだよなァ?」

「それについては謝罪しよう。だからこうして働いているのではないか」


 ハートの国でした、余計なこと……?


 わたしにとっては呪いを掛けられたりとか、余計なことしかされてないと断言できる。だけど鏡の国の魔物にとっても不都合な何かもやっていたってこと?


 事情が分からないから、さっぱり想像つかない。


「ハッ。テメーが『謝罪』か」

「そうだが?」


 さらりと答えたミラの真意を測るように、しばしその姿を見つめたエルトシャンは、やがてひとつ大きく欠伸をして再び日向に寝そべった。


「どういう心変わりか知らねェが、本気だってなァそうみてえだな。――安心しろ。殺されなきゃならねェほど投げてるわけじゃねえ。やる事はやるさ」

「ここにいるのだから、そうだろうな」


 ……収まった、みたい?


 敵が減らなかったのが残念なような、それでも凄惨なことにならなくてよかったような……。複雑な気分だ。


「まあ、そういうことだ。では、また会おう、女王」

「は!?」


 唐突に別れの挨拶を切り出したミラは、言い終えるなり噴水の中に飛び込む。ほとんど同時にエルトシャンも。


 くっ。寛ぐと見せかけての早変わり、さすが猫。


「追うのは……危険でしょうね」

「そうだな」


 ジャックが口惜しそうに危うい提案を口にしてるけど、即座にうなずいて迷いを断ち切っておく。


 道の向こう側の鏡の国は、完全に彼らのテリトリー。その世界がどうなっているかも、未だよく分かっていないのだ。迂闊に踏み込んでいい場所じゃない。


 数少ない証言では、道の先は建物の内部っぽい場所に繋がっていて、『外』を確認できた人はいない。


「道、塞ぐ?」

「いや。妾が結界を張っておく」


 鏡の国の魔物の血を引いているだけあって、偃月は結構な長生きさんだ。彼の顔を直接知っている人は、もう他国にはいないぐらい。


 ハートの国が偃月を受け入れたのは周知だけど、ラビとレビがそうだなんてわざわざ喧伝することはない。


 扇に刻んである魔法を発動させ、噴水の上に結界を張る。

 四印の魔法で鏡の魔法は破れない。逆もしかり。なので、上から壁を作って通行を妨げる。炎の印で作った結界は、無理に通ると焼け死ぬ仕様。


 ちなみにクローバーの印だと、風で切り刻まれて死ぬ。


「お疲れ様です。しかし我らに知られた以上、この道は使わないでしょうね」

「だろうな」


 だからと言って、放置する選択肢はなかったのだけども。


「ここに道があったということは、エリノアと帽子屋さんが言ってた通りのことをやるつもりだった……と考えていいのかしら」


 多分そうだと思う。ゲームシナリオにもあったし。


 ただ、なあ……。道の確認と、何ならこっそりエルトシャンを見つけて接触&説得を――って考えてたのに、バッタリ会っちゃうとか……。おまけにミラもいたし。


 もしかしたら、広場襲撃はやめて別のプランで来るかも?

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