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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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自分の気持ち?

「もしやるなら、町中かな」

「!」


 多分そう、だけど。どうして?

 己の呟きに皆が視線を集めたのに気が付き、フェデリは肩を竦めた。


「セシウス王子最大の強みは、『人格者で民に人気がある』ことだ。それを上塗りするなら、目の前でセシウス王子よりシスト王子の方が有益だ、と見せつけるのが一番だろう」

「っ……」


 合理的にも、決してなくはない可能性。

 そうと分かって現実味を帯びた想像に、ニーナは表情を強張らせた。


「まずはシスト王子とその近辺、特に軍を動かせる人物だ。その辺りの人が魔法にかかっていないかを確かめる。そして鏡の国の住人本人を探す。これらが先決だ」


 軍権を持っている人間を即座に動かせないと成立しない謀だからね。


「わ、分かりました」


 一気に具体的かつ血なまぐさい話になったせいか、ラビは真剣さが増した様子でこくこくと繰り返しうなずいた。

 よし、なら王宮の方はラビに任せるとして。


「ニーナ、ジャックを呼んで来い。レビ、貴様は町に下りる支度をせよ」

「って、エリノア。町に行く気か?」

「当然だ」


 もし止められなくて、ゲーム通りに魔獣が町に現れたら、道が分からないと無駄に右往左往することになるからね。事前の下見は必須でしょう。

 幸い、鏡の国の魔物関連で視察の許可がある。うろついても問題ない。


「ただの可能性の話、なんだが。……そうか」


 フェデリはわたしが未来をざっくり知っているのを知ってるから、それで起こる可能性が多分にあることを理解してくれた。


「俺も一緒に、は、さすがに不自然か。仕方ない。少し離れてついて行こう」

「来るのか?」

「行っちゃいけないような言い様だな?」


 そ、そんなことはないけど。


「俺も君と同じく、クローバーの城にも町にも明るくない。自分の足で歩いておかないとね」


 地図なんて重要機密、他国の人間に渡すわけがないし、見られたとしても正しいかどうかはやっぱり自分の目で見ておかないとまずい。


 何しろ地図改定は大仕事。頻繁に更新されるわけじゃないから、あった道が塞がってて、なかった所に道ができてたっておかしくない。


 道を知るのは護るために必須だけど……襲うためにも必須なんだよね。


 思わず、じい、とフェデリを観察してしまう。

 今のところ、意に沿わないことをしているような様子は見えないけど……。


 フェデリはわたしの視線の意味にしっかり気付いた様子で、疑われたことへの悲しさと、心配されたことへの喜び、その二つが同居した心苦しさが混ざる、困ったような笑みを浮かべた。


 とはいえそれは一瞬で、すぐに意図したものと分かる、色香を滲ませたものへと変化させる。


「俺が、心配?」


 ――上手く言葉を抜きやがるなこの野郎!


 しかし間違ってない。フェデリ自身も心配だし、だけど彼がいつの間にかクローバー王国にとって良くないことをするのでは、という懸念は両方わたしの中にある。


「き、貴様は――」

「ここは」


 わたしの唇の前で指を一本立てて言葉を遮ってくる。

 そこで言葉を呑ませることがフェデリの目的だと気付けても、そのときにはもうやってしまったあとで。


「はい、かいいえ、で答えて欲しいところかな」


 ……フェデリは、自分が発した問いが好意だけで構成されているわけじゃないって、分かってて――それでも答えを訊いてきてる。


 それは多分、彼自身も傷付けてるだろう。だけど事実だから、口にしてる。冗談にする強さで誤魔化しながら。


 わたしは不安を直視しながらも、耐えるフェデリの強さを尊敬する。

 だから――だからその冗談が、こちらをからかう気がガッツリ詰まったものであろうとも、乗ろうじゃないか……!


「妾の言動を縛ろうとは、何とも身の程知らずな輩よ。しかし、たまには俗な戯れに興じるのもよかろう。ゆえに応えてやる。是、とな」

「うん」


 わたしの答えはきっと、フェデリが自分に抱いている不審と期待と、ほぼ一緒の割合なんじゃないかな。


 フェデリが見せたほっとしたような残念なような感情が、わたしの心にある信用と心配と、同じような感じがしたから。


「ありがとう、エリノア」

「ふ、ふん。たかが戯れだ。しかし貴様にとってはその詰まらん人生の中の、数少ない誉れとなろうな。光栄に思え」

「そうするよ」


 苦笑をして、フェデリは席を立つ。


「じゃあ、準備ができたら声をかけてくれ。適当なところで俺も後を追うから」

「よかろう。ではラビ、貴様も仕事にかかれ。分かっているだろうが、妾に不利益を与える下手を打つなよ。邪魔となるような無能は死刑だ」

「は、はぅい……」


 耳を伏せ、瞳を潤ませつつか弱げにラビはうなずく。うぅ。良心が痛むなあ、もう。


「はいはい。男たちは出ていって。支度、始めるわよ」


 庇護欲をそそるラビの愛らしさにも動じることなく、ニーナはさくさくと彼らを部屋から追い出した。強い。


「……ねえ、エリノア」


 フェデリたちを送り出し、きっちり扉を閉めてから、ニーナはわたしを振り返った。その目はすごく真剣で、自然、わたしの体にも力が入る。


「何だ」

「あなた、帽子屋さんのことどう考えてるの?」

「――」


 直球が来た……。


「分かってるだろうけど、あなたは女王なのよ」

「分かっているとも」

「あなたが本気なら、いいのよ。すっごく苦労するでしょうけど、愛人にするのでも――何なら正式に夫君に迎えるのでも、わたしは味方よ。相手が信用できれば協力する。だけど、決めていないのなら親しげな振る舞いを許すべきじゃないわ」


 ニーナの言うことは、ぐぅの音も出ないほどもっともだ。


 わたしはフェデリのあの手の言動が、ただからかうためのものだって知ってる。ゲームでも、初期からそういう冗談言うキャラにされてたし。


 でもその物言いを許していることそのものが、周囲にとっては答えと取られるかもしれない。

 フェデリは、どう考えてるんだろう。ニーナの目の前でやれば警告されることぐらい、彼なら分かってるはず。


 誤解されてもいいと思ってる? それだと、つまり……。


 それに、わたしは? わたしは、どう思ってるんだろう。

 からかわれるのは、嫌。いちいち反応が顔に出るのも、意識してるのバレバレで恥ずかしいし。


 ――そう、意識はしている。男の人だって。


 フェデリのこと、もちろん嫌いじゃない。好きだと言っていい。

 でもそれが異性への恋や愛になる類のものかというと……どうなんだろう。


 …………。そういえばわたし、恋したこと、なくない?

 道理で分からないはずだ! 分かるはずなかった!


「あのね、エリノア。さっきから考えが顔にダダ漏れよ」


 はッ。


「意識してないと、本っ当素直に顔に出るわよね。人前で考えごとするのは禁止した方がいいわ。訓練が先。必須」


 うぅ……。


「で、決めているわけではないってことで、いいのね?」

「妾に有象無象が焦がれるのは当然だからな。取り合ってなどいられるか」

「だったら、線引きをするべきよ」

「分かっている」


 フェデリも分かっているとは思う。実際、聞かれたらマズい相手の前では、そもそも近付いてこないし。


「帽子屋さんは噂を立てる人の前ではやってないわ。どうしてなのか分かるわよね?」

「面倒だからだろう」

「あなたにとって、面倒だからよ? だからあなただけしかいない所では親しげに振る舞うの。考えなしよりはマシだけど、卑怯な男ではあるのよね……」


 ニーナは後半、不満気に唸りつつ呟く。

 わたしの面倒を避けてくれているのに、卑怯とはこれいかに。


「まあいいわ。とにかく、ここでは特に――他国なのだから。気を付けてね?」

「あぁ、しつこい。分かっていると言っておろうが」


 うん。ニーナの言う通り。

 心をしっかり決めとかないと、ふとした時に甘えてしまうかも。それが人目がある所だったらアウトなのだ。


「そうよ。何かがあって頼るんだったらわたしにすること。いいわね」


 頼りがいがあって恰好いいです、姉御。

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