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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
32/58

ゲームシナリオを思い出そう

「それがよろしいかと思います、と申しております」

「ありがとうございます」

「では早速ですが、鏡の国の魔物が関わっていると思しき事象に、心当たりはありませんか? と申しております」

「いえ、今のところは皆目」


 ……本当に?


「先日我が国にいらしたとき、殿下には気がかりがあるように見受けられたのですが、と申しております」

「ああ……。あ、いえ」


 指摘された事柄にすぐ思い至ったような声を出したあと、シスト王子は緩く首を横に振った。


「大したことではありません。お気になさらず」


 思い当たったのに、答えは避けますか。

 しかし相手が「ない」といったことを追及するのは、得策ではない。わたしは首肯し、その言い分を認めておく。


 ――大したことがないわけない。


 起こる事態は、おそらくゲーム通り。で、あるならばシスト王子が見せた気がかりは、内乱の兆し、兄王子との不和。


 もちろん、本来なら他国の人間に話すようなことじゃない。でも鏡の国の魔物が関わっているなら、別。本人の意思ではない可能性が高いからだ。


 鏡の国と道が繋がって、シスト王子が連想しない訳がない。

 ……もしかして、シスト王子側に鏡の国の魔物がいる? だから誤魔化してる?


「他に何か、気になる点はありますか?」


 さっきの問いに答えなかったシスト王子から、他の有力な情報が効けるとは思えない。 わたしは再び、首を横に振った。


「そうですか。それなら、気分の滅入る話はここまでとしましょう。ああもちろん、気になったことがあれば、いつでも声をかけていただいて構いません」

「よろしくお願いいたします、と申しております」


 その後は当たり障りのない話を二、三個交わして、部屋を辞す。

 ニーナと共に与えられた客室に戻ってから、くるりと彼女を振り返る。


「ニーナ、フェデリとラビ、レビを呼べ」

「承知いたしました、陛下」




 フェデリとラビを呼び、扉と窓をきっちり閉める。空気が流れている所だと、風で声を拾われる可能性があるので気を付けないといけない。

 これからちょっと、クローバー王国の人には聞かれたくない話をするので。


「やあ、エリノア。他国に来て早々に帽子の新作をお求めとは、女王はずいぶんな帽子好きらしい――と、噂になるのは時間の問題だな。今年の誕生日プレゼントは覚悟しておいた方がいい」

「帽子好きって解釈なら、いい方じゃないですか? 身分違いの愛人だって噂が立っても仕方ないですよ」


 フェデリはやんわりと、ラビは辛辣に警告をくれる。

 ううむ。その噂を避けるためにニーナやラビやレビも一緒なわけだけど……間隔が短すぎて苦しいか。


 でもなあ。ジャックと会議よりはマシだと思うんですよ。ジャックは騎士――軍部の人間なので、それこそいらない憶測を呼びかねない。ゴシップのがマシ。


「まったく、下々の者の下世話な発想には付き合い切れんな。しかしたかが噂とはいえ、貴様の身には余る栄誉であろう? 伏して感謝を述べるがいい」

「君が構わないのなら、俺は構わないよ。……こういう場合は、女性で、立場のある君の方がまずいだろう」

「妾という至高の存在に惹かれるものが多いのは常識だ。それを一々騒ぎ立てたところで、どれ程のものか。耳に入れる価値もない」


 傷にはなるかもしれないけど、致命にはならないと思う。腐っても女王なので。多少の傷に目を瞑る相手はそれなりにいる、はず。多分。


「少しでも緩和するために、今回は本当に帽子を作ろうか。――それで、本題は?」

「これからの指針だ。シスト王子の近辺を重点的に探れ。妾はもう一方――セシウス王子と接触してみる」


 シスト王子は話しを隠した。なら、兄王子の方はどうだろうか。


「シスト王子に怪しい素振りでも見つかったか?」

「そんなところだ」


 ニーナとラビ、レビがいるから、クローバー王国で起こる内乱云々の話は避けておく。現段階で知っていたらおかしいので。

 でも遠からず、その話は聞こえてくるだろう。


「……そういえば、二人の王子を巡ってきな臭い話があるみたいだね?」

「どこで聞いた。妾は昨日、大人しくしておけと言ったはずだが」

「お針子さんたちと、ちょっとね。ほら、君の訪問理由は就任挨拶だっただろう。そう長く滞在できるわけではないから――ってことで、クローバー王国の服飾について訊きがてら、ね」


 や、やりおる。わたしが滞在期間の延長に気を取られていた隣で、その短さを逆手に取った言い分で自然に入り込むとは……。


「使用人にまで『きな臭い話』とやらが伝わってるの? 相当ね」

「いや、誰かが故意に広めているのだと見るね。王子二人の対立を煽ってるんだ。景品はもちろん王座」

「まさか! だってセシウス王子はもう立太子されているのよ?」


 そう。普通はそう。よっぽどじゃない限り変更されたりしない。

 印の継承が絶対条件なのはクローバー王国も変わらないけど、どういう判断がされてるのか、印は現世の事情を鑑みた継承をすることが多い。


 このままセシウス王子が王位を継げば、そのときに印も移るだろうって皆が思ってるぐらいには。

 ……だけど。


「シスト王子は普通じゃないだろう? 彼を推す声が少なからずあるのは、おそらく事実だ。聞いた人が『あり得る』と思わなければ、煙も立たない」


 セシウス王子は人の心に寄り添ってくれる人格者で、人気は高い。では王としての望まれ具合は――というと、『セシウス王子でもいい』といったところ。つまり、熱烈に望まれているってわけじゃない。


 一方のシスト王子は、彼の方が相応しいと考えて推す人の熱量は、かなり高い。この差は『声』として響いてくる。


 懸命な人の方が大きく声を上げるから、支持者が多いように見えてくるのだ。だから、揺らぐ。

 実際には、セシウス王子でいいって人――つまりシスト王子とのいざこざを望んでいない人も、負けないぐらいにいると思うんだけど。 


「どちらに付いているかは分からなかったが……。シスト王子陣営なんだな?」

「奴は心当たりを隠したからな」


 けどこの仮定でいくなら、シスト王子はすでに鏡の国の魔物に操られているか、彼本人の意思で黙認しているということになる。


 操られているかどうかは、すぐにラビ、レビが答えをくれるだろう。……でももし、シスト王子自身の意思なら。


 厄介さが跳ね上がる。


「難しい顔をしているな。鏡の国の住人の存在を暴けば、一致団結して事に当たれる――とは、考えていなさそうだ」


 そう言ってるフェデリも、楽観してる感じじゃない。


「奴はハートの国で、ヴァーリズを連れ帰っても構わないと言っていた。己の手先にしようとしていたわけではないと言い切れまい」

「それって、自分の国でも騒ぎを起こすつもりってこと? あ、他国の線もあるわね」

「使い道は色々あろうな。そう、たとえば自演にも。魔獣騒ぎを起こして即座に鎮圧してみせれば、単純な愚民どもは簡単に踊らされるのではないか?」


 シスト王子ルートで、確かそんなイベントがあったはず。

 ええっと、いつぐらいの話だったっけ。エリノア生が長いせいで、ゲーム内容がちょっとおぼろげになって来てるぞ……。今度暇を見つけて書き留めておこう。


「それは、君の行動を見て思いついた、とか?」

「さあな」


 どうだろうか。ゲームのイベントに用意されてるエピソードだけど、エリノアの行動を間にシスト王子が見てたかどうかは分からない。ゲームで描かれてない部分は分からないから。


「だとしたら、ふざけてるわ! 死者だって出ているのよ? 人気取りのために他人の命を懸けるなんて、許せない!」


 憤慨するニーナに、心から同意する。

 ゲームでは、被害を抑えたその先見の明が湛えられるイベントだった。でも、自演だったら話はまったく違ってくる。


 魔獣の出現場所は町の広場だったはず。町ではもうシスト王子派とセシウス王子派でのいざこざが増えてきていて、巡回の兵士が増やされるほど。そのおかげで大きな被害は出なかった、みたいなテキストがあった。


「ヴァーリズはいないけど、鏡の国の魔物と組んでるなら世界の果てから呼び出すことだってできそうよね。なんならクローバー王国にも、鱗狼の巣みたいな場所があるかもしれないし」


 どこの国も、あんまり土地開発まで人手回せてないからなあ。最近ちょいちょい、って感じだから、人の手が入ってないところで――っていうのは、充分あり得る。

 鏡の国の魔物の結界があると、きっちり捜査しないと分からないからさ……。


「でも、変な感じ。今までは魔獣と組んで人襲ってきたり、なんてしなかったのに」


 そうなんだよねえ。


 今までにも散々困らされてきたわけだけど、鏡の国の魔物と魔獣被害は、別物という認識だった。ゲームでは……うーん。やっぱり使役してたって印象はなかったかも……? 利用していたシーンはあったけど。


「その辺りも、どいつかを捕らえて吐かせたいところだな。――いや、待て」


 繋がっているかどうかは当人たちに確認しないと分からないけど。


「レビ、貴様は空間を繋げて魔獣を呼び出せるか?」


 同じ力を持ってる相手がいるじゃない。可能かどうかだけなら聞けたんだった。


「場所が、分かれば。……僕は、知らない」

「つまらん弁明はいらん。聞いたことにだけ答えていればよい」


 別に今できたとしても、レビを疑ってるわけじゃないからね!?

 でも、そうか。場所が分かればできるか。

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