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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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やってきました、クローバー王国

 ――ということで、やってきましたクローバー王国。


 同行者はまず、わたしの護衛として近衛騎士二人。生涯の騎士であるジャックと、実は騎士じゃないアレフ。それから通訳兼、お世話をしてくれる侍女ニーナ。そしてニーナと同じ名目で連れてきた侍従のラビとレビ。そして専属だと思われつつある帽子職人のフェデリ。


 ……他国を訪れるときでさえ連れてきたら、そりゃ専属だって思われるよね。


「周囲の認識というものは、侮れないものがある。このままハート王国で正式に雇って専属にしてくれても、俺は構わないけど」

「ふざけるな。貴様程度の腕で妾に仕えようなどとおこがましい。研鑽を積んで出直して来い」


 腕がどうこうっていうか、センスがね。奇抜なものばっかり作るんだもん。本人は面白がってるだけっぽいけど。


「お兄さんの試作品のためのお金、国庫から出てるんですよ? もう少し真面目にやらないと、国民から刺されても文句言えませんから」

「美しくは、ない。……でも、面白い。……悪く、ない?」


 真面目な表情で苦言を呈したラビと、無表情で首を傾げつつ肯定的な見解を述べたレビ。意見が分かれてるように見えるけど、両方偃月の思考として存在しているってことだ。国の話と個人の話だからね、矛盾してない。


「普通の人が普通に好むオシャレは、真っ当な、それ自体を仕事にしている職人が作り出してくれるよ。けれど誰か一人のためのオシャレは軽視されがちだ。何なら差別されかねない。城に滞在している俺が少数派の作品を作っていることには意義があると思わないか?」


 当人であるフェデリはその二人に肩を竦め、飄々と言い切った。

 ううむ。一理ある。グラリと心が納得に傾くと、隣でジャックが嘆息した。


「世に出ない帽子に、お前の言う効果は存在するのか?」

「さあ。誰かの目に留まれば世に出るかも。俺は売り込む気ないけど」


 つまり死蔵ですね。


「それよりアレフ、君はいいのか? この間エリノアの遠征に付き合ってハスヴァロまで行って、またクローバー王国にまで来て。さすがに雇用主にも迷惑だろう」

「おー。だから辞めてきた。代わりの人手をゲットするまでちゃんとやったぜ?」


 さらりと中々なことを言ってくれる。

 ……いや、違うか。これはわたしが日本の価値観に染まり過ぎてるせいだな。


 仕事は自分のためにするものなんだから、何が何でも勤め先に合わせる必要はない。自分の条件と著しく合わなくなったら辞めるべきなのだ。別に勤め先なんて幾らでもあるんだし。……勤めたい人もいくらでもいるけど。要はどっちもどっちなのだから、個人だけが我慢しなければならない理屈はおかしい。


「君の行動力は、本当にすごいな……」

「そうか? フェデリだって似たようなものだろ?」

「俺は……。……そうかもな。同じことをする気がする」


 うん、わたしもフェデリは同じことをできる人だと思う。そしてさくっと就職先もゲットしてくるでしょうね。有能な人だから!


 アレフに仕事を辞めてまで来てほしかったわけじゃないんだけど、色々協力してもらってるから、事の顛末の説明はするべきかな、と。

 そしたらこうなった。


「俺は、俺が後悔しない生き方をするって決めてるからな! 仕事はまた探せばいいし、職種選ばなければ食い繋ぐぐらいできるさ。最終手段でエリノアに頼る」


 アレフを招いたのはこちらの不手際だから、元々そのつもりでいた。

 頑張ってもどうにもならないときは、国に頼るの全然アリだと思います。そのための国だし。税金だし。さらに言うならアレフはすでに働いてて、税金も納めてもらってるし。


「それよりクローバー王国の方が気になる。鏡の国関連なら、俺の力が役立つだろ?」


 それは間違いなく。


「それでは――これからどうしますか?」

「ふむ。そうだな……」


 ジャックの問いにソファの手摺りに体重を預け、足を組み替えつつやる気がなさそうに呟く。


 今わたしたちがいるのは、クローバー城の貴賓室。先日のシスト王子とまま立場を交換したような状況である。


 部屋は各一人ずつに与えられているので、ここ――一番上等、かつ広いわたしの部屋に皆がいるのは、集まってもらったからに他ならない。


 わたしたちがクローバー王国に来たのは、鏡の国の魔物の企みを暴き、防ぐこと。


「まずは、貴様らの見解を述べよ。妾の耳に入れるに相応しい提案だけをするように心がけてな。くだらぬ話で妾を煩わせれば、死刑だ」

「俺たちはクローバー王国を訪れたばかりで、何の情報も持っていない。しかも客人として入国した身だ。明らか様に探るような素振りは避けるべきだろう」


 真っ先に口を開いたのはフェデリ。内容も道理なので、皆納得した様子で聞いている。


「だが、鏡の国の魔物が招く騒乱は大きい。それには準備が必要だということでもある。すでに謀られているなら、確実に予兆がある。噂話レベルでも聞こえるものがあるかもしれない」


 自分たちから積極的に聴きに行くのはNGだから、聞き耳を立てましょうってことね。


「あとは、ラビ。レビ」

「は、はい」

「鏡の国の魔物を見つけること。これができるに越したことはない。疲れるだろうが、よくよく注意して探してみてくれ」

「で、できる限り……」


 否とは言わなかったけど、ラビの肩はがっくり落ちてる。どこにいるとも、そもそもいるかも分からない相手を、慎重に魔力を調べながら探すのだ。気が遠くなる。


「……指示、雑。成果の程も相応、覚悟するべき……」

「期待してるよ」

「成果のための手段を講じない要求、厚かましい」


 フェデリの笑顔も崩れないけど、レビの無表情も揺らがない。ここ、空気が……こ、怖いかも。


「何も手当たり次第、全員を調べる必要はない。ええと……」


 そこで一旦フェデリは言葉を切って、わたしへと視線を流す。わたしの未来視(嘘)が、ここにいる皆に通じるかってことね。


 ――勿論、通じない!


 フェデリは長い『ジョーカー』の歴史の記憶の中から、わたしが転生者であることを早々に見抜いた。だから彼にはわたしがこの世界で起こるかもしれない事件の知識があることを話してある。


 でも、ですよ?


『転生者』というものを知っていたジョーカーの理解は得られたとしても、他の人にはまず転生を信じてもらうところから始まる。証拠なんかないから、これは結構難しい。


 これまでの人生で必要なかったこともあり、誰かに話したこともなかった。わたしが些細な予兆から近い未来に起こることを言い当てるのは、未来視(嘘)の能力があるからなのだ! ――と、ミラを筆頭に思われている。


「そうだな。貴様らには話していなかったか」


 けれど未来視の能力にあんまり期待されると、後々自分の首が締まること請け合いである。なのでできる限り、事実から理屈を捻り出すようにしてる。


 それに、ゲームと同じように動くとは限らない。ここが現実であるってことはもちろん、ゲームではクローバー王国にいないわたしがここにいる、という違いをすでに生んでいるんだから。


「先日、シスト王子が我が国に来ただろう。そのとき妙な素振りをしていてな」

「……してたかしら?」


 わたしとほぼ一緒に行動しているニーナが、首を傾げた。


 うん、してなかった! わたしが『それ』を気にしたのは、ゲームのクローバー編を知ってたからだから!


「奴はハートの国の穏やかさを褒めたのだ。そのときの様子も気になるが、何より、そう感じたということは奴の周囲が不穏であるためだろう」

「言われてみると、そうかも……?」


 やや遠い記憶になるので、はっきりとは思い出せないらしい。自信なさげながら、ニーナは一応、うなずいてくれた。


「わたしにはそこまで強い印象では残ってないけど……。エリノアが言うなら、きっとそうね。あなたは昔から、人の気持ちを間違えなかったから」

「そうですね」


 そ、そうかな?


 ニーナに続いてジャックにまで力強い肯定をされた。考えるように努力はしてるけど、断言できる自信はないですが……。


 け、けどまあ、これそのものはただの理由付けだから。シスト王子が気に病んでるんじゃないかなって思ったのは本当だけど、メインはこの後。


「シスト王子がそう感じているのなら、王宮を――奴に近い辺りから探して行けばよい」


 クローバー王国で起こるのは、おそらく後継者争いに端を発した内乱。必ず王宮の内部にいる。そうじゃないと干渉できないし。


「それなら、なんとか……」


 とりあえずの方向性が定まって、ラビはほっとした顔を見せる。


 クローバーの国編の黒幕は、四十手前位の渋い中年男性。黒髪に紫の目で、名前はレフュラス。


 ただ、この辺はあんまり当てにならない。ミラのときもカラーリング違ってたし、猫だったし。むしろ鏡の国の魔物は黒髪紫眼で揃えた感がある。メーカー的に。


 そのレフュラスだけど、ゲームではアリスが選ばなかった王子の陣営にいる設定で、後半になってから存在が出てくる。だから、現段階でどこにいるかはわたしにも分からない。


「いいか。妾はあくまで、就任の挨拶に来てやっただけだ。それを忘れた振る舞いはするな。妾に害を及ぼすような阿呆には、生きている資格などないのだからな!」

「承知いたしました」


 ここにいるのは大体わたしの悪口に慣れた人たちなので、さらっと返事をしたジャック以外の皆も受け入れてくれている。……ラビとレビ以外は。


 ラビは毛を逆立てて隣のレビの手を握り、されるがままのレビは無表情でわたしを見ている。ただ、彼らも慣れてきたのか、本気の怒りや怯えって感じはしない。嫌がられてはいるけど。


「それなら、今日のところは大人しくしておこうか」

「そうだな。特に俺と――アレフ。お前は駄目だ」

「くっ。異世界の別の国に来たっていうのに、観光はお預けか」


 端から見てても分かるぐらいわくわくした様子だったアレフは、ジャックに名指しで忠告されて、残念そうに呻く。


 近衛ってことになってますから。ジャックやアレフの行動は、わたしの意思とイコールになる。仕方がないと諦めてもらおう。

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