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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第一章
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攻略対象、到着(ただし他編)

「ところで、エリノア。君個人にとしては、シスト王子に思うところがあったりはしないのか?」

「ハッ。この妾が、己と無関係になった小虫一匹に、何を煩うというのだ」


 お互い、元々そんな頻繁に会う立場でもないし、わたしはむしろ白紙になってほっとしている。シスト王子個人にどうこう思えるほど付き合いがあったわけでもなく、隣国の要人以上の感覚はない。

 ――という答えが、口を通るとああなる。


 フェデリは答えたわたしを観察してから、うなずいた。


「それならいいんだ」

「妾がシスト王子に余計な感情でも持っていたら、不都合でもあったのか?」

「……まあ、いいことはないだろう? 結ばれない相手への想いなんて」


 む。


 フェデリの言は正しいんだろうけど、ちょっとうなずきたくない所があるぞ。


 たとえ結ばれなかったとしたって、抱いた恋心が芽生えない方がよかったかどうかは、本人だけが決められることだ。すべてが悪いように言われるのには反感を覚える。


 ……でも――わたしに限って言うなら、やっぱり正しいのかも。

 わたしは個人だけど、同時に公人でもある。王族として、判断に私情が混じる可能性はない方がいいんだから。


 そして断言する。わたしは私情を持ち込んでしまう人間だ……!

 わ、分かってるから気を付けてはいるよ? 相談もするし!


「そんなもの、辛いだけなんだし」


 少し置いてから付け加えられたフェデリの言葉には、妙に実感がこもっているような……?


「何だ。報われぬ相手でもいるのか?」

「まあ、そんなところかな」


 え!?

 嘘!? いつの間に!?


 だってホラ、フェデリはアリスの攻略キャラで……いやいや違う。シナリオとかはそもそも縛りがあるタイプの転生じゃないから、フェデリがどこの誰と恋愛したっておかしくはないんだって。


 ちなみに、相手は絶対にアリスではない。それは断言できる。


 おかしくない……おかしくないし、恋愛なんて個人の自由。なのに変にドキドキと心臓が早く脈打つ。


 ど、どうしてわたしが動揺してるの? 自分の処刑ルート回避のために接触して協力はこぎつけたけど、わたしとフェデリの関係なんてそれだけだよ?


「というような雑談は、お好みではないかな?」

「!!」


 先程の、真に迫った切なさはどこへやら。飄々とした態度に戻ったフェデリの口元には、笑みさえ浮かんでいたりする。


 冗談だったんかいッ。思わず本気にしちゃったでしょーが!


 ゲームでも捉えどころのないキャラだったけど、現実でも一緒な!

 くそう。心配して損した。二度と乗ってやるもんか。


「く……っ。くくっ。冗談で済ませるか。滑稽なことだ。しかし美味。悪くはない」

「俺はお前よりは誠実なものでね」

「心外な。我輩にも誠実さぐらいはあるとも。女王に対してだけはな」


 ――?


 なんか、フェデリとミラが二人だけで分かり合ってる……。


 人の負の感情をご飯にする鏡の国の魔物であるミラが『美味』って言ったからには、フェデリの感情を食べたんだろうけど……。まあ、いいか。

 頭のいい人のやり取りに、分からないことが出てくるのはままあることだ。わたしはそれをシスト王子で学んだ。気にするだけ無駄。


 盛り上がっている二人は置いといて、わたしは自分で理解できる範囲の今後を考えてみる。

 とにかく、シスト王子に怪しい相手を近付けないこと。これを徹底しよう。


 大丈夫、何とかなるさ! わたしクローバー編の黒幕の顔もちゃんと覚えてるしね!

 休憩時間も残り僅かなので、お茶を堪能してから仕事に戻ろう。




 国内の警戒を強化させたものの、特に変化のなかった数日を経て、ついにシスト王子来訪の日となった。


 この世界は地球のような球体ではなく、平らな大地の上に国が建っている、という設定。そして現実的にも正しい。端まで行くとそこで世界が途切れる。

 それより外側はぷっつり切りとられたように漆黒になるのだ。先がどうなっているのかを確かめようと、先に進んで戻ってきた人はいない。正真正銘、『世界の果て』が存在する。


 そんな感じの世界が四つあって、それぞれはワープ装置を使って行き来する。


 ハート王国にあるワープ装置は、王都から少し離れた、緩い丘の下に建てられた神殿の中。

 一度に使えるのは五人までで、再使用は十分後。行き来には互いの了承が必要だし、使われれば分かる仕組みになっている。


 この世界って、実は他国との直接的な戦争の歴史がないんだよね。多分このワープ移動がネックになってるからだと思うけど。この先も、戦争なんか起こらないでいてくれるといいんだけど。

 まあ、それはともかく。


「ようこそ、シスト殿下。歓迎いたします」

「ご歓待、ありがとうございます、先王陛下、妃殿下」


 わたしは広間に面した二階の廊下から、こっそりシスト王子の来訪を見守った。


 今回の接待諸々は、お父様とお母様に任せてある。なぜかって? もちろん毒舌の呪いで外交問題が起こるのを防ぐためさ!


 わたしの毒舌は相手を選んでくれたりとかしない。高確率でシスト王子にも『死刑だ』発言が飛び出すことが予想される。


 分かっているトラブルにわざわざ飛び込むような謎精神は持ち合わせていない。回避一択である。

 とはいえ、国に居ながら国主のわたしが一度も挨拶をしないというのも相手を軽んじすぎているので、無難な挨拶だけはする。


 ……無難に済むといいなって、心から願ってる。いや、努力もするけどね!


 にしても、やっぱりシスト王子もゲームと同じだなあー。


 四印のアリスは二次元イラストにノベル形式のゲームだから、まんまってわけじゃない。でも、現実に持って来たらこうなるだろうとしっくりくるぐらいには印象が同じ。


 シスト王子は薄めの茶色の髪に暗緑色の瞳をしている。頭の高い位置から結われた髪は緩い編み込みがされていて、シンプルながら上品。

 彼の母君とよく似た怜悧な顔立ちに浮かぶのは、崩れたところを見た人がいないと噂のアルカイックスマイル。


「急な話にこのように早く都合をつけていただき、感謝いたします」

「友の危機は我が身の危機と同じですから。急ぎ、道に結界を張ってしまいましょう」


 鏡の国への道が発覚した段階で、ハートの国自身でも道を塞ぐ結界は張ってるけど、もう一枚『絶対に』他国の王族による結界を重ねなくてはならないという決まりがある。


 その理由は……残念なものなんだけど、鏡の国の魔物の力を悪用して、他国に被害をもたらすことがないようにという、疑心の上に出来上がった結果。

 これが守られていないことが発覚すると、他の三国から重い賠償が求められる。それぐらい鏡の国の魔物は厄介な相手なのだ。


 なので、ここにミラがいると知られるとすっごくマズい。


 いや、見逃すつもりはないよ? シスト王子によって道が塞がれる前には追い返すつもり。

 でもほら、このままミラを返すと、わたし一生毒舌の呪いと付き合っていくことになるんだ……。ギリギリまでこう、解呪のために足掻きたいというか……。


「そう言っていただけると助かります」

「ただ、お気を悪くしないでいただきたいのですが、形式は守らせていただきます。鏡の国の魔物の潜伏、及び協力関係にある者がいないかどうかの査察、そのための裁量。これらを受諾していただきます」

「勿論です」


 お父様、笑顔で快諾。


 何を言われるか分かっていたのに、わたしの目はつい泳いでしまった。誰にも見られていないから大丈夫だけど、もっと気を引き締めなくては。


 断じて協力関係にあるわけじゃないけど、そこにいると分かっているのにミラを殺していない時点で、協定的にアウト。


 ……なんだけど、どうにも決心がつかない。


 一番の理由が、ミラを殺すほどの罪をわたしが知らないってとこ。


 毒舌の呪いはもの凄く迷惑だし、ストーリー通りならわたしは悪役女王として国を大きく混乱させてた。これが現実に起こってたら、わたしも迷わなかったと思う。


 でもゲームシナリオを知っていたわたしはミラを見つけて、ハートの国にさしたる被害を出させなかった。そのせいで妙な興味を引いたのは予想外だったけど。


 だからミラに関しては、鏡の国に返して、こっちに干渉できないようになって安全が確保されればそれでいいかな、と思ってしまうのだ。


 少し気まずい心持ちになってしまったわたしとは対照的に、シスト王子とお父様たちはにこやかに二、三言を交わし、神殿から移動していく。これからしばらく、お城の貴賓室の一つが彼の住居となる。


 諦めるつもりはないけど、シスト王子がこうして来た以上、毒舌と一生付き合っていく覚悟も決めなきゃ、だよね。


 ……うぅ。嫌だー……。

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