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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第一章
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偵察、終了

「ならついでに、妾の言伝も持って行かせろ。届け先はフェデリ――客人の帽子屋だ」

「承りました。しかしなぜ、と伺ってよろしいですか?」


 それは彼がジョーカーで、鏡の国の魔物であるミラと一緒にいるから。諸々の事情も知っているから、正しい対処をしてくれるだろうという期待もある。


 なんだけど、ええと、どこからどこまでを話すべき?


 何があってもわたしの騎士でいてくれるという覚悟を、わたしは先程聞いたばかりだ。なのに今のわたしの状況を隠すのは、その忠心に対してあんまりにも不誠実。いっそ全部打ち明けるべきでは?


 ……でも、ミラのことまで話しても大丈夫だろうか。やっぱりすぐにでも斬った方がいいって言われる気がする。否定できない。わたし自身、その方がいいだろうって気持ちもある。


 でもやっぱり呪いは解きたいし、ジャックはもしかしたらミラを殺せてしまうかもしれないから、話さない方がいい気がする。ミラが死んだら困るから。


 ……。

 ……あれ? 困るの? 何が? あ、わたしがか。


「エリノア様?」

「!」

「俺には話せない理由ですか?」


 ジャックの目に、若干自尊心が傷付いたような痛みが映る。同時に苛立ちと意地も。


「貴女はあの帽子屋を随分頼みにしているように見受けられます。それこそ、俺よりもずっと」

「た、頼みになどしていない。慈悲で使ってやっているだけだ」

「同じです」


 た、確かにジャックよりもフェデリを頼みにしていたことは認める。なぜなら彼はわたしの事情を知っていて、しかも実力が保証されている『ジョーカー』だから。


 けれど王に最も近い剣である自負を持つ近衛騎士団長としては、王がそれでは面白くないっていうのも分かる。


「いや、単に危ないかもしれないから近寄るなって忠告出すだけだろ? お気に入りの職人に個別に注意喚起促すのって、そんなにおかしいことか?」


 ものすごく不思議そうに――しかもそれをとても自然な様子で、アレフは首を傾げる。


「何の後ろ盾もない一職人の安全に配慮とか、あんまりしないんじゃないか? まして鏡の国関連って公にしたくないんだろ?」

「それは……」


 アレフの問いに、ジャックは言葉に詰まった。

 人道的観点から言えば、否定したいところだろう。しかし事実がジャックに否定をさせない。


「……確かに、緊急時における彼の扱いは国民より劣ります。自身でも気を付けてもらえるよう警告を送るのは正しいかもしれません」


 すべての命は等価であると思っているけど、だからこそ、緊急時には優先順位が付けられる。ようは『その後』必要とされる存在ってことだ。


 そういう意味で、どこの国の存在でもないフェデリは立場が弱い。まあ、本人あんまり気にしないと思うけど。法や国に護られなきゃならないような人ではないので。


「つまらない嫉妬で邪推しました。申し訳ありません」

「寵をねだる姿は可愛らしいと言えなくもないが、過ぎればただ煩わしい。気をつけよ」

「承知しました」


 神妙な様子でうなずいてから、顔を上げたジャックは少し困ったような微笑を浮かべる。


「貴女は本当に、いい意味で身分を理解し、そして同時に囚われない。幼い頃から変わりませんね」


 それはわたしが前世で市民平等の中で暮らしてきたからだ。


 正直、本当の意味で平等な社会だったとは思ってない。でも建前でも平等が認められていたから、声を上げることが許されてた。それはとても、一民草にとっては幸せなことだと思う。


 だって、ハート王国にその自由はないから。身分によって権利が著しく制限され、それに不平を言うことすら許されない。その権利が民にはない。


 絶対王政が間違いだとも、共和制、民主主義が最高の政治形態だとも言うつもりはない。世の物事には必ず良い面と悪い面があるものだ。


 でも、わたしの中で絶対に揺らがない指針が一つある。


 人を尊重すること。これだけは絶対に忘れたくないし、裏切りたくない。


「それは間違いなく美点ですし、そんな貴女を好ましく思っています。けれど万人に優しい方の唯一になろうとするのは大変だと、痛感しましたね」


 あ、聞いたことある。皆に優しいから、恋人になっても自分が特別である実感ができなくて不安になるってやつだよね。


 ……あれ?


「今のは貴様が妾に使われるだけの力量があるか否かの話だっただろう?」

「そうですよ」


 そ、そうだよね。騎士として、重用されていない感じが面白くなかっただけだよね。で、アレフのフォローで誤解だということで納得してくれた。……誤解じゃないのが申し訳ないけど。


「例えが悪い。貴様にはものを正確に伝える才が欠如しているようだな」

「失礼いたしました」


 謝ったけど、撤回はしなかった。いや、まあ、する必要もないのか。否定はしたんだから。


 でも言われた方は一瞬どきっとするやつだから、それ。もしかしてとか勘ぐって、後で羞恥に悶える羽目になるやつだから。


「妾に仕え続けたいなら、精進しろ」

「努力します」


 ぜひお願いします。わたしがもしかして? とか考えなくていい、正しい言い方を!

 コホン、と咳払いをして話を戻す。


「では、一度戻るか?」


 魔獣の巣の場所は確認できたし、この件について話を聞くべき相手の痕跡も見つけた。あとは人数をきちんと揃えてから討伐に来た方がいいんじゃないだろうか。


「そうですね。残りは殲滅してから改めて精査することにしましょう」


 洞窟内の通路は狭いので、取り囲まれても相手は数の利を活かせない。討伐隊もそんなに大所帯にしなくて済みそう。


 それでもどれぐらいいるかが分からない以上、充分な備えはしていくべき。偵察としての役目は果たせたと思う。


「でも、変だよなあ」

「どうした」


 来た道を戻りつつ、アレフは壁を眺めて呟く。


「いや、だってさ。洞窟はかなり古いだろ? 土の構成とかが分からないからあれだけど、もし俺の世界とそう変わらないなら、多分数百年は経ってる」

「ふむ」

「魔獣の卵って、孵化にそんなにかかるものか?」


 ……中身、腐りそうだね。


「鏡の国の魔法なら可能だろう。強力な奴は時空間さえ操る」


 偃月もそうだ。彼は自分の居住区を異空間の中に作ってる。


「じゃあ、他国の人が鏡の国の魔物と協力して、作った洞窟に結界を張ったうえで孵化させないように時を止めた卵を置いて行ったのか? 意味分からないな」


 言われてみると、目的がさっぱり分からない行動だ。


 ハートの国に混乱をもたらす時期を見計らったというのなら、時間経ち過ぎだし。やった国の人にだって伝わっていないかもしれないレベルだよ。


 そんな昔のものを、どうしてヴァーリズが知ってたのかもわからないけど。ミラはヴァーリズが結構な年を経ているみたいな言い方してたけど、まさかね? オウムだよ? 何百年はないでしょう。


 ……でもこの話、シスト王子が『わたしに必要なもの』で聞かせた会話の中に入っていたやつなのだ。もしかしたら、もしかするかも。


「その辺りの話も聞きたいところだな」


 ぜひ、聞き出さなくてはならないだろう。


 幸いにして帰りも魔獣に遭遇することなく、洞窟を抜け出す。ほんの少し離れていただけだけど、暗い所から太陽の光があるところに戻ってくるとほっとするなあ。


「ハスヴァロに戻りましょう」

「ああ」


 洞窟を探索するのに充分な人員と備えをして、もう一度。今度は殲滅しに来る。そうしたら、鏡の国と繋がっていないかどうかを調べるために、アレフには洞窟内をくまなく回ってもらうことになるだろう。

 それとも、繋がっているとしたら世界の果てとなんだろうか。


 いずれにしても、すべてはハスヴァロに帰ってからのことである。

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