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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第一章
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犯人? の物証見つけました

 わたしは扇を開いて刻まれた魔方式に魔力を流し、いつでも魔法を放てる準備をする。抜刀したジャックも同様だ。そしてアレフが手にしたのは二丁拳銃。


 銃、効くかな、どうかな。この手の世界観だと、現代兵器は無双するか効かないかの極端なパターンが多いけど。


 四印世界では魔力が身体強化に大きく影響するから、魔力を無視して物理的な干渉だけが残るならいけるかも。

 反転した囮役の一体が、先頭のジャックへと襲いかかる。続いて左右から一体ずつ、わたしとアレフへと飛び掛かってきた。


「邪魔だ!」


 魔力を溜める一瞬、ジャックの持つ剣の刀身が赤く光る。鋭く突き出された剣は炎の魔力を伴って、魔獣を貫く。切っ先は眉間に当たっている程度。だけど体の中心を焼いて貫通した炎の刺突は、魔獣の背後にまで突き抜けた。


 体内を真っ直ぐ焼き貫かれた魔獣は絶命し、ジャックは炎の魔力を宿したままの剣をさらに一閃。わたしが放った火柱が魔獣を焼くのと、ジャックの剣閃が首を落とすのは同時だった。

 ……嘘です。ジャックの方が早かったです。


 そしてアレフも無事だった。彼が放った銃弾は目を潰し脳にまで達したようで、こちらも絶命している。


「惜しいな。人手があれば持って帰りたかった」


 前世と違って食肉が養殖されているわけではないので、お肉は結構貴重品。まあ、魔獣がそこそこ出現するから、そんなとんでもない値段ではないんだけど。


「ハスヴァロに沢山あるだろう。それに、狼種の肉は不味いという噂だが?」


 やはり肉体が資本の仕事をしていると、多少味が悪くても動物性たんぱく質を求めたくなるのだろうか。


「美味いのって、やっぱり魚とか豚とか牛とか鳥とか?」

「そんなところだ」


 美味しいお肉になる生態は、世界が違っても共通らしい。


「ここに置いて行けば、動物どもが勝手に食うだろう。洞窟に戻るぞ」


 人間が魔獣を食べるときは、きちんと処理しないと毒性にあたる。しかし動物たちは平気で生食する。頑丈。

 そうして洞窟があるはずの岩壁まで戻って来た……ものの、もうどこから出てきたのかさえ正確には分からない。


「アレフ、やれ」

「了解」


 顎で指示したわたしにうなずき、アレフは何の変哲もない岩肌に触れる。途端、空気が破裂する音を立て、そこに使われていた魔力が軽い圧を伴って吹きすさぶ。

 手を翳して魔力の風をやり過ごした後には、ぽっかり口を空けた洞窟の姿。


「本当に、こんなに簡単に無力化するのか……」


 ゲームでは主人公に据えられるぐらいの能力ですから。


「さあ、進むぞ」


 今は襲撃中ではないので、ハスヴァロを襲っている魔獣も皆この中にいるのかもしれない。注意しなくては。


「なあ、せっかく洞窟なんだからさ、火を入れて奥まで燃やすとかどうだ? 安全に殲滅できそうじゃん? 何なら毒ガスとか? 俺持って来てるぞ。使う?」


 な、中々容赦のない提案をするね? アレフよ。


「やめておこう。もし可能なら、後日討伐隊を組んで肉を確保したい」

「……我が国はそんなに肉不足なのか?」


 いつどういった変異を起こすか分からないので、魔獣の養殖は推奨されない。しかし考えるべきなのだろうか……。


「三割ほどは肉ですが、残り七割は状況を把握できなくなる手段を取るのが好ましくないということですね」


 メインの理由はそちららしい。

 なるほど、それなら納得。もし魔獣襲撃に関与する何事かの手がかりがあったとしたら、安全確保と同時にそちらを焼失させてしまう可能性が高い。


 毒は……こちらの世界では不意を打てる必殺兵器と呼んで差し障りないので、取っといてもらおう。

 というかさり気にアレフの装備物騒だな。


「隊列は俺、アレフ、エリノア様で行きましょう。戦力に数えて申し訳ないですが、先程の能力を見る限り、アレフにはこちらの世界の治癒魔法が効かないかもしれませんので」

「!」


 ジャックに言われてはっとする。


 そうだよ。自分に干渉する魔法を打ち消してしまう体質だ。治癒だけを受け付けるなんてことはないだろう。


 魔法がそれなりに便利なので、この世界では科学技術があまり発展していない。もちろん医療も魔法依存。怪我や病気はダイヤの国出身の癒士に頼っていて、それで大体何とかなる。

 だからアレフが大怪我をしたら、危険だ。


「足手まといになるようなら、置いて行くという手もあるぞ?」


 安全になってから来てもらうのもアリでは? と提案してみる。


「侵入したことを知られた後の情報は役に立ちません。連れていくべきです」

「大丈夫だって。死んでも文句言わないし、洞窟を前にして引き下がるなんて、トレジャーハンターの名が廃るぜ!」


 命を護るためなら名が廃った方がいいんじゃないかなと思うのは、わたしの価値観でしかない。アレフの本心であるなら、それを間違いだとする資格はわたしにないのである。


 あとは彼の意思を大切にするべきか、わたしが彼が傷付く可能性を排除したいのか、どちらを優先したいかによる。それもわたしの勝手な意思なので、アレフがそれをどう思うかは別の話だけど。

 眉を寄せて唸るわたしに、アレフはからからと笑う。


「エリノアは本当に真面目で心配性だなあ。怪我しなきゃいいだけだし、多少の怪我なら死なないし、人間どうせいつか死ぬんだし。それより俺は後悔しない生き方をしたい」


 ア、アレフのこの死の恐怖への薄さとか、怪我することへのためらいのなさって、どこから来るんだろう……。好奇心強すぎでは。


「本人もそう言ってますし、問題ないでしょう。もちろん、俺もなるべく無事に戻ってこられるように気を付けますし」


 ジャックも抵抗薄い派だった。騎士は戦うのが本分だから、そうじゃないとできない職業かもしれないけど……。あ、あれ? わたしが少数派?


「では、行きましょう」

「……うむ」


 この分だと残して行ってもアレフは入ってきちゃう気がするし、時間も惜しい。行くしかないか。

 洞窟の中に入ると、一気に温度が下がる。扇の上に火球を作り、明かりを確保。そうして視界が開ければ、一目瞭然の事実がそこにあった。


「洞窟からして人工物のようですね」

「そのようだな」


 壁面はかなり古い。長年の劣化ででこぼこになっている部分も少なくないけど、元々は平らな壁であった名残がある。

 時代を隔てているから、今のわたしたちとは状況が違うのかもしれないけど……。


「嫌な感じだ」


 壁を指先でなぞって確認したジャックが、顔をしかめて低く呟く。


「この世界って重機とかないよな? こんな平面の壁、どうやって作ったんだ?」

「スペードやダイヤの魔法ならば容易い。労力は余計にかかるだろうが、クローバーでもできなくはあるまい」


 だが、ハートの国の炎の魔法では不可能。溶解させて作ったというなら、その跡を見れば分かる。


「それって……」

「昔の話だ。しかし他国の領土に傷をつけるなど、大それたことをしてくれる。しかも鏡の国の魔物と組んでとはな!」


 他国の誰かがたまたま作った洞窟を、たまたま見つけた鏡の国の魔物が利用したとか、そんなわけがない。


「しかもどうやら、魔獣の巣として用意したようですね。エリノア様、あれを」

「!」


 適当に進んできた道は行き止まりになっていて、終点部分は少し広めに広げられ、部屋のようになっていた。

 ジャックが指したのは奥の壁に沿うように敷かれた藁と、その上に載っている割れた卵。


「え、あの四つ足の狼っぽいの、卵から生まれるのか?」

「周囲に似てはいるがまだ柔らかそうな毛が落ちている。他の魔獣がいないなら、そうだろう」


 いて欲しくないけど、確認はしないといけないやつ。わたしもどっちかっていうと哺乳類的な生まれ方すると思ってたから、アレフの戸惑いに同意する。


「魔獣の生態も分かっていないことが多いですしね……っと」

「どうした?」


 不意に屈み込んだジャックが拾い上げたのは、一枚の白い羽だった。

 鳥類なら卵から生まれても不思議じゃないけど。……いや、待って。この羽って……。


「おそらく、オウムのものですね」


 何となく似てるんじゃないかなと思った種族の名を、ジャックの方から口にしてくれた。


「落ちているのはこの一枚だけ。これだけの卵か孵った何かの鳥類の物という訳ではなさそうです。卵の正体は毛の量から考えてもやはり鱗狼の幼獣。では羽の方は、ここを訪れた何者かの物となります」

「ヴァーリズ、か……?」


 偶然にしては出来過ぎている。でも、どうしてヴァーリズが?

 だってあの子は、普通のオウムでしょう? 偃月が確認したんだから間違いない。


 たとえばヴァーリズがもの凄い実力者で、偃月と力の開きがあったとしても、注視すれば魔法の気配ぐらいは分かるもの。さらりとすれ違ったぐらいならまだしも、そのつもりで調べて誤魔化されるほど、偃月は弱くない。


「ここを出たら、すぐ親父殿に伝令を送ります」


 ヴァーリズの存在はジャックも耳にしていたか、羽を軽んじたりしなかった。

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