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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第一章
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別動隊として提案中

 今は、町の周囲に魔獣の姿はない。並足のまま町に近付いて行くと、数名の騎士が出迎えてくれていた。わたしたちの姿を認めると、敬礼の姿勢を取る。こちらも馬を降り、歩み寄ったジャックが答礼を返してから口を開く。


「近衛騎士団長、ジャック・フローだ。麾下百名と共に援軍として来た。まずは彼らを休息できる場へと案内してもらいたい。その間に状況を説明してくれ」

「はッ。近衛騎士の皆様はこちらの騎士が案内いたします。フロー騎士団長は私と共に。それと……」


 この場の指揮を執っているらしき隊長は、アレフを見て言い淀んだ。どう見ても騎士ではないアレフがどういう立場なのかが分からなかったためだろう。


 わたしの方は従騎士の恰好をさせてもらってる。身分の高い素人なんて扱いに困る人間、現場にいない方がいいからね。

 顔を知っている近衛騎士の皆には通知しているけど、こっちでは従騎士で通してしまうつもりだ。


「彼はまあ……私の従者だと思ってくれ。彼女も」

「承知いたしました。では、こちらへ」


 扱い方が決まればそれで充分らしく、隊長はジャックを町の中へと案内する。わたしとアレフも後に続いた。


 ――よかった。町は荒れてない。


 自然、ほっとした息が出た。構えていた隣のアレフも同様だ。

 隊長が案内した先は、町の中心部にある政庁だった。国の施設だからよく目立つし分かりやすい。

 使う人間が少ないためだろう、小さめの会議室へと入ると、隊長はわたしたちに席を勧め、自らも腰かける。


「町にはまだ侵入されていないように見受けられたが」

「今のところは、と申し上げます。次の襲撃のときは覚悟をしておりました」


 崩れていたところも少なくなかった。確かに次は厳しそう。


「魔獣の数はどうだ? およそ六十と聞いているが、今はどれぐらい残っている?」

「分かりません。倒した数は十かそこらになりますが、数が変わった気配がないのです。近くに巣のようなものがあるのかもしれません」


 倒しても数が減らない敵、というのは、気力が削がれる。隊長の表情にも疲労が濃い。


「数がいるのに一気に来ないのは、統率の問題か? なら状況を正確に知るためにも、後詰の数も把握したいところだ。魔獣はどこから来ている」

「方角だけしか分かりませんが……」

「構わない」


 防衛だけで手いっぱいだったのだ。気にはしていても、探索に人員を当てることなどできなかっただろう。


 そしてここは、わたしとアレフの出番だと言える。ジャックはいつ来るかわからない襲撃に備えて抜けられないけど、わたしとアレフは組織の中に入っていない。

 ちらりと目配せをして、アレフが手を上げる。第三者がいる場でわたしが口を開くのは無謀だ。


「団長、すみません。ちょっといいですか」

「どうした?」

「この後、多分団長は実際の外壁の状態とか、騎士の人たちの視察に回ると思うんですけど」

「そうなるな」


 被害状況を確かめて、改めて部隊の編制とかもしないといけないだろうし。


「俺とエリノアで、その魔獣が来てるらしき場所を確認してきたいと思います」


 たとえ女王と同名でも、まさか本人とは思うまい、ということで偽名は用意しなかったが、やっぱり必要なかった。隊長は特別に反応を見せたりしない。


「元々そのために来たわけですし」

「ああ、効率的だな。だが、許可できない。危険すぎる」


 わたしも、調査は事がある程度落ち着いてから――つまり大体の魔獣を駆逐できてから始めるつもりだった。でも、数が減る様子がないというのなら、話は変わる。


 口に出して言いたい。しかしわたしが口を開いてジャックと話そうものなら、従騎士なんて設定が通じなくなる。どこの世界に上官に対してあんな態度を取る騎士がいますかね。


 ついでに言うならあの物言いをする部下を放置とか、団長の素質まで問われかねない。

 わたしが不満をひたすら目で訴えると、息をついてジャックは席を立つ。


「失礼。少し部下と話し合わなくてはならないようだ。隣の部屋を借りる」

「は、はあ」


 わざわざ場所を移すのに、隊長は不思議そうな顔をする。だが止めたりはしなかった。ジャックの方が身分が高いのも関係しているかもしれない。

 会議室の隣、控えの間に移動したジャックは、わたしとアレフを順に見てから口を開く。


「私の判断は、何か間違っていますか? エリノア様」


 呼び方が陛下ではなくて名前なのは、万が一誰かに聞かれたとき、ギリギリまで誤魔化すためだろう。

 しかしジャックより身分が高い女性で、わたしと容姿が合致する女性、いるかな……。いや気持ちはありがたいので乗るけども。


「大いに間違っている。貴様は今、妾がここに来た理由を否定しているのだぞ? 妾に無駄を強いる気か。余程死刑になりたいようだな」

「状況が違います」

「そう分かっているのなら、妾にたてつくその無礼、今すぐ跪き謝罪せよ」


 思っていたのと状況が違っていたのはお互い同じ。その上での意見の食い違いだ。そしてわたしが折れるつもりがないことも、ジャックには分かっただろう。


 そして同時に、ジャックが認めるつもりがないこともひしひしと感じる。

 よし。話の持って行き方を変えよう。


「貴様は出立前にした話を覚えているか?」

「無論です。どこに魔獣が出現するともしれない可能性があるために、貴女にここまで来ていただいています。貴女の言こそ、出立前の話と食い違っていますが?」


 側で護るために来てほしいって話で、わたしもそれにうなずいた。ジャックは正しい。

 が、あえてずらして行こうじゃないか。


「何も違ってなどいない。ローズクォーツとハスヴァロでは遠すぎると、貴様が泣きごとを言うゆえ付き合ってやっただけのこと。あぁしかし、妾は未だ貴様を過大評価していたらしい。ローズクォーツどころか、同じ町の近郊にあってさえ、妾の身を護る自信がないと言う!」


 いや本当、我ながら無茶苦茶なこと言ってるよね!

 町の中と外に離れた対象を護りきるとか、不可能だって。


 ひたひたとジャックの頬を扇で叩きつつ、小馬鹿にした笑みで言うわたしに、ジャックは少し考える間を空けてから――眉を寄せ、うなずいた。


「確かに、貴女をここまで連れ出さざるを得なかったのは、私の力不足故以外のなにものでもありません」


 いや、そこまで行くと力不足とか、そういう次元じゃないんじゃないかな。人間には不可能な領域だと思う。


「そして今言われただけの実力がないのも事実。主の望む器量を未だ持ち得ぬ不甲斐なさ、ただ恥じ入るばかりです」


 いやだから、人間に不可能なことを求めてるだけだから! 世間ではそれはいちゃもんと言う。


「貴女が納得されないことも理解しました。――ではせめて、護衛に付くことは許してくださいますね? 何しろ、それぐらい近くでなければ、お護りする自信のない未熟者なので」


 ……はい?

 あれ? えっと、待って。どうしてそうなった?


「な、何を言っている。貴様は一体、なぜここに来たと」

「最終的に、目的はすべて貴女とハート王国を護るための行動ですね」


 う、うん。騎士に志願する人は、多かれ少なかれその気持ちでいるんじゃないかな。――じゃなくて。


「今はハスヴァロを護るためであろうが」

「そうですが、優先順位の問題です。おそらくハスヴァロの防衛は、私の副官に任せても上手くやるでしょう。何なら私たちが魔獣の出現場所を探索している間、襲撃がない可能性もありますね」

「あ、今サラッと探索隊に決定事項として自分含めたな」


 聞きのがさないアレフも耳聡いと思うよ。


「前提だからな」


 そしてジャックもサラッと肯定した。


「ですが、魔獣の出現場所を確認しようというエリノア様は、確実に危険に近付くことになるかと」

「……そうなるな」


 わたしが見つけて殲滅してやるぜ! とか考えてるわけじゃないけど、相手に見つかったら戦うことにはなるだろう。それがどれぐらいの数になるかは未知。


 命あるものではあるが、魔獣を殺すのにためらいはない。奴らはガチで、人を見ると必ず襲ってくる敵だから。人間と奴らは、殺るか殺られるかの関係性である。


「話を戻しますが、私が貴女に同行していただいたのは、貴女を側で護るためです」

「……」

「私が行かない理由がありますか?」


 ……ないかもしれない。


「でも、行くのは止めないんだな」

「もし鏡の国と道が繋がっているのなら、急いで結界を張って塞ぐ必要がある。その能力がここにいる中で一番高いのは、残念なことにエリノア様だ」


 単純な武力ならジャックの方が強いけど、変化球のいくつかはわたしの方が上手い。悪役女王、結構高スペック。


 ど、努力の賜物ですよ、もちろん! そこに繋がるシスト王子の助言、わたしがどれ程感謝しているか、お分かりいただけるだろう。


「陛下は求められる能力を持つ相応しい者として、近衛を町の防衛に向かわせた。その言を裏切らせるような真似を、騎士団長である私がするわけにはいかない」


 確かに、ここで行かなきゃただの物見遊山で付いてきたと言われても、文句言えない。


 会議室で発言したとき、わたしはそこまで深く考えていたわけじゃなかった。ジャックだって魔獣が減らない今の状況は予想外だって言ってた。


 なのにすぐ、王としてのわたしも、個人としてのわたしも支えるための決断を――そこに辿り着く考え方をしてくれるのか。

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