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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第一章
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戦場へ向かうことにしました

「こ、近衛騎士を、ですか? しかし近衛騎士の役目は王族警護。王族の皆様のために選抜された者たちです。区切りを失くしてしまえば、何のための近衛か分かりませぬ」

「名分が必要ならば妾が直接出向き、身の程知らずな獣を焼き払ってくれよう。力がある者を出し惜しむ場面ではない。必要なのは危険から遠い王宮で磨かれた力を燻らせることではなく、国力を支える労働力を維持することだ」


 近衛騎士は王族の剣であり盾。だけどその剣で、盾で、今正に守れる人がいる状態で、守る必要のない所で待機って、奇妙に感じるんだよ。


「町が抜かれなければ、王宮を護る近衛に出番などない。その程度の働きは雑兵にも期待できような?」


 わたしの言葉に局長は僅かに鼻白む。

 軍事は軍務局長の担当だけど、近衛だけは王族直属で命令系統が別。他組織である近衛と比べられ、しかも各下に扱われた局長が不快に感じるのは当然。


 それは役割が違うだけで、どちらが上か下かって話じゃない。けど、あえて悪意のある言い方を選択するのが呪いの毒舌。


 充分に人生経験を積んできた四十代の重臣が表情に出してしまうぐらいだ。これは相当、腹に据えかねている。


 ……ニーナ。やっぱりこれを理解してくれっていうのは、虫が良すぎる気がする。


 こうして人を傷付け続けて、わたしはいずれ、悪役女王として処刑されるんだろうか。シナリオ本編とは離れたって、わたし自身が『エリノア』のキャラクター性から外れられたわけではないから……。


「……無論。たとえ件の魔獣がローズクォーツに攻め寄せてきたとしても、守り切って見せましょう。我らは王族のみを護る近衛と違い、国を護る騎士ですからな」

「局長が請け負ってくださるのであれば、安心です。我々も心置きなくハスヴァロに向かえます。国のため、民のため、成すべきをいたしましょう」


 今度は逆に、王族のためにしか動けない近衛をあて擦った言いようで意趣返しの棘が向けられるが、それにはジャックが全面的に相手を尊重する返答を持って受け止める。

 そうされると、大人気ない態度だったと思い直したのか、局長は小さく一つ咳払いをする。


「うむ。王都の防衛の心配は不要だ」


 そもそも下に見た発言をしたのはわたしであってジャックではない。近衛騎士に矛先を向けるのはお門違いと言える。

 そのきっかけを作ってるわたしが言うことじゃないけどさ……。


 けれどわたしだけが問題だということを認識してくれたみたいだし、組織間の軋轢にならなかったのはせめてもの救い。


「はい。陛下の提案は理に適っていると思います」


 って、無理にフォローしなくていいのよジャック! せっかく亀裂を修めたんだから、溝掘るようなことしなくても!


「……理だけは、そうですな」

「その提案ができるのは陛下だけです。重要なことだと思いますが。民のことを――騎士を含めた国民のことを思ってこその発想ですから」


 確かに、三人がかりで命がけで戦わなきゃならない人を向かわせるより、一対一なら安全に戦えるだろう実力者を向かわせた方がいいんじゃないか、とは思ったんだけど……。


「精進せよ、ということですな」

「今成せる者が成せばよい、ということでもあると思います」

「陛下。浅慮な物言い、失礼いたしました。此度の提案、ありがたく受け取らせていただきます」

「当然だ。――では、他に意見が無いようなら行動に移れ。解散!」


 手を振って閉会を促すと、各々が動き出す。

 さて。わたしは――


「陛下」


 執務室に戻るべく立ち上がったわたしを留めたのは、一番忙しくなるはずのジャックだった。


「何だ」

「先程の言、本気であると捉えてもよろしいでしょうか」

「妾が出向くという話か? 本気にするな、馬鹿馬鹿しい。あれはただの方便だ」


 わたしの直轄地というだけで、近衛を動かす理由に……まあ、できなくはない。弱いけど。今の強引で横暴なわたしなら、それぐらいの無理を通してもやりかねないと思われるだけだ。


 ……良くないけど、良かったような。微妙……。


 戦闘能力だけの話なら、付いていっても邪魔にならないと思うんだよ。でも、ならついて行くべきか? となると、ノー。


 周囲は確実にわたしに気を遣うだろうし、腐っても王族。こんなときに現場で護衛に人手が割かれるとか、無駄でしかなくない?


「御身に負担となるのを承知で、私としては陛下にも同行願いたいのですが」


 え。どうして?


 予想外のことを言われて、反応をすぐには返せなかった。


「魔獣の出現の仕方が気になるので、私も出ようと思っています」

「気になるとは?」

「魔獣が現れるのは『世界の果て』からです。だというのに、今回は国の中心にほど近い。こういった事例で浮かぶ可能性はただ一つ。鏡の国の魔物の干渉です」

「……」


 鏡の国の魔物が使う魔法には、厄介なものが多い。時空間を操作するものとか、生き物の精神に干渉するものとか。彼らの力なら、どこに魔獣を送り込むことも可能だ。


「鏡の国の魔物と魔獣の関連性が確定しているわけではありませんが、可能性としては考慮すべき事態だと思います。そして近くに鏡の国の魔物がいて手を引いているのなら、単純な討伐では終わらないかもしれません」


 もっと沢山出てくるとか……? あり得る。


 精神操作の方はかなり繊細な術らしくて、多人数に掛けられた事例は少ない。それもちょっとしたきっかけで解けるような、弱い掛かり方だった。


 だけど空間を繋げるだけで大量に魔獣を呼べる状態だったりしたら、大変な状況に陥ることが想像できる。

 ……それだけ大量の魔獣、か。


「世界の果ての先は、やはり魔獣の住処なのだろうか」

「そこから入ってくるのですから、そのように考えるのが妥当かと」


 他の三国も同じ公式認識だし、わたしもそう思ってる。今更の呟きにジャックは不思議そうな顔をした。


「いや、鏡の国もそこにあるのかと思ってな」

「それは……どうでしょうか。奴らは己で空間を作り出しますから。しかし魔獣を使うことがある以上、無関係ではないのでは」


 続いての問いには、自信なさげにジャックは自論を口にした。


 そう、自論なのだ。鏡の国の魔物のことは、実はよく分かっていないのである。ミラも言ってた通り個体数は本当に少ないらしくて、調べるのが難しいって理由もあるけど。


 沢山いたらもっと困るから、分からなくてもその方がいいんだけどさ。もし鏡の国の魔物が大勢いたら、全員が満腹になるご飯を捻出するために人間を徹底的に不幸にしまくるとか……そんな地獄のような世界になるんじゃないだろうか。


「しかしまずは、目前の敵を片付けてからの話です」

「つまり状況がいつどう変化するかが分からんから、意思決定のできる妾にも来いという訳か? 安く見られたものだ」

「いえ、必要な判断なら私がします」


 ……だよねえ。ジャックにはそれだけの権限がある。

 じゃあ他の理由……思いつかない……。


「どこで何が起こるか分からないので、貴女に側にいてもらいたいだけです。王都とハスヴァロでは、遠すぎますから」

「まさかそれは、妾の心配か? 貴様如きが? ――笑わせるな。一度思い知らせてくれようか」


 ファッション兼武器でもある扇の先をジャックに向け、気分を害したことを露骨に主張する冷ややかな声でそう告げる。


 気持ちはありがたいけど、多分大丈夫だよ? 近衛騎士だって全員いなくなるわけじゃないし。わたし自身もそれなりに強いのだ。

 何しろゲーム後半で主人公の前に立ちはだかる悪役にチョイスされるぐらいですから。


「貴女が自力で切り抜けられるのと、そのときに私が側にいられないのは別問題です」

「結果が同じなら構わん」

「同じであるなら、そうかもしれません」


 言外に、違った時の想像をさせる言い方をしてくる。


「戦場の方が危険だという説もあるが?」

「私が対処できない魔獣なら、遅かれ早かれ同じだと心得ます」

「言うではないか」


 ジャックの言にも一理ある。鏡の国の魔物が関与しているなら、いきなり王宮に魔獣が出現してもおかしくないのだ。たとえばわたしの私室に出てきたりとか。事がはっきりするまで、強い人の側にいるのは間違ってはいない。


「よかろう。同行してやる」


 正直、気にはなってるから行きたいか行きたくないかで言ったら、めっちゃ行きたい。


 そうだ。せっかくだからアレフに来てもらえないだろうか。無理なら偃月。偃月は力の差によっては誤魔化されちゃう恐れがあるから、アレフの方が確実なんだよね。


「ありがとうございます」

「ふん。よくよく感謝せよ」


 さて。そうとなったら仕事の引継ぎを始めなくては。

 とはいえお父様に委任すればいいだけだから、混乱したりはしないだろうけど。わたしが女王になって、やっと体制も落ち着いて回るようになってきたところだから、また戻すのはちょっともったいない。でも、問題の解決が先。


 一礼をして準備に向かうジャックと別れ、わたしも自分の執務室へと向かう。


「ニーナ。アレフに使いを出せ。妾の役に立つ機会を与えてやる。準備をしておけ、とな」

「かしこまりました。ご都合をお伺いしておきます」


 その道すがら、ニーナにアレフへの連絡を頼む。うん、見事な会話の噛み合わなさ。いや、いいんです。ニーナの解釈で正解です。

 わたし本当に、周りの人に恵まれてる。


 えーっと、あとは……。そうだ、フェデリの所にも寄って行こう。彼はハートの国の組織的に部外者なので、情報を伝える人がいないのだ。

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