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VIRTUAL SHIFT  -ヴァーチャルシフト-  作者: 金貝擁積
第一章 ガンナーズヘブン・ガンナーズヘル
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12話 道のり

 俺に抱き付きながら泣いていたマヤは、しばらくして自分が何をしているか気づいたようだ。


「ご、ごめんなさい!」


 俺を押し退けるかのようにして離れると、少し離れたところで背を向けてしゃがみ、両手で顔を覆った。


「あー! あー! あー! こんなの運命じゃん、運命じゃん?」


 大丈夫かアイツ、精神的に不安定なのか?

 さすがに心配担って声を掛けようとしたときだった。AR-57を拾い上げたツバサが俺の背中に銃口を向けた。


「動くな。手を上げてこちらを向け」


 俺はツバサの指示に従い、手を上げてから振り向いた。凛々しい目が俺を射抜く。


「久しぶりだな。メールは届いているな?」

「ああ、見たよ」

「なら返事くらい出せ」

「ごめん。なんていうかその……」

「言い訳はいらん」

「……ごめん」


 俺が謝罪の言葉を口にするとツバサは話題を変えた。


「知っているかもしれないが、貴様には手配書によって懸賞金が掛かっている。それもゴールドストームから直々に、かなりの額がな」

「ああ、知ってる。俺を売るのか?」


 そう訊ねたが、答えは訊かなくてもわかっていた。俺にとってこんなやりとりは今回が初めてではなかった。どこかで誰かと遭遇すれば、そのたびにこのようなやり取りが行われ、かと言って相手を殺すわけにもいかず、結局は逃げるしかなかった。


 だが今回は違った。ツバサと俺のあいだにマヤが割り入ったのだ。


「ツバサやめて、銃を降ろして。ユーゴ君はいつも私たちを助けてくれて、大事な友達で、仲間で、さっきも私とツバサを助けてくれたのよ」

「だが懸賞金を掛けたのはゴールドストームだ。ユーゴを引き渡せば私たちやみんなの安全が保証されるかもしれない」


 その言葉に俺は自分の顔が強張るのがわかった。


「やめろ! あいつらはそんなに甘い奴らじゃない! 知ってるはずだ」

「黙れ!」


 怒鳴り返すツバサに向かってマヤが叫んだ。


「やめて! 私はユーゴ君を売ることなんてできない、そんなことで安全が保証されても嬉しくない。もしどうしてもそうしたいのなら、まず私を撃って!」


 沈黙が降り、やがていささかバツの悪そうな顔をしたツバサが銃を降ろした。


「冗談だ」


 そう言って俺にAR-57を差し出してくる。


「今まで連絡の一つもよこさずに姿を消していたから、ほんの少し懲らしめてやろうとしたのだが……。貴様にはまた助けられた、感謝する」


 俺はAR-57を受け取ると、ツバサが倒した男たちに顔を向けた。


「気絶させたのか」


 プレイヤーは死亡すればポリゴンとなって崩れ落ちる。だがツバサが倒した四人と軽装甲車の一人はそうではない。頭の上にあるHPはまだ僅かに残っている。


「激痛によって意識を失わせれば殺さずに済むからな。それに貴様も人のことは言えまい」


 ツバサは俺が倒した四人に目を向けた。こちらもHPは僅かに残っている。

 プレイヤーはHPが減少すると、頭の上にHPバーが表示されるとともに体に痛みが走り始める。痛みの大きさは減少量に比例して激しくなり、一般的には残りHPが三割から二割を切れば痛みに耐えきれずに気絶し、それ以下では意識を保ち続けるのは無理だろうと考えられている。そしてHPが回復しない限り意識を取り戻すこともない。

 自動回復を取得していればHPは少しずつ回復していくため、永遠にその状態が続くことはないのだが、とにかくHPをゼロにせず――殺さずに無力化することができる。


 俺は彼らから目を逸らすと一つの疑問をツバサに投げかけた。


「メールで探索の下見に来たのは知っている。だがどうしてここを選んだ?」


 俺はメニュー画面から位置情報の発信をオフにしていた。二人はここに俺がいるとわかっていたのではなく、偶然出会ったに過ぎない。とすれば、一番最初に探索するからには別の理由があるはずだった。


「うむ。いくらマップを全て探索をするにしても、やみくもにやっては非効率だ。まずは可能性が高そうな場所を当たるべきだということになって情報収集を行ったのだ。するとこの辺りに知られていない廃墟があるという情報が手に入ってな、何か手掛かりがあるのではと思ってこの場所を選んだ」


 ツバサが示した先には、俺が隠れていた廃墟があった。……ついにここまでプレイヤーの手が伸びてきたのか。今までフィールドのあちらこちらをさまよい、誰かに見つかっては逃げるように去ってきた。そして今回もそのときが来たらしい。

 沈黙する俺にツバサが訊ねた。


「何か知っているのか?」

「この辺りは全部森で建物はあれしかない。手がかりについては分らないが案内するか?」

「頼む」


 こうして俺達は廃墟へと向かったのだが。


「あの……」


 俺は歩きながら自身の左腕を見た。そこにはマヤが縋りつくようにくっついている。

 マヤが俺を見る。身長は彼女の方が少し低く、自然と見上げるような形になる。


「何?」


 マヤがそう訊いてくるので、俺はちょっと戸惑いながらも答えた。


「いやその……近すぎないか?」

「そんなことないよ、これくらい普通普通」


 マヤはそう言ったが、俺としてはどう考えても近すぎると思う。さっきからずっと、左腕に柔らかな感触と暖かな体温、そして何だかいい匂いが伝わってきている。おまけこちらを見上げるマヤの顔もすごく近い。キラキラした目と少し朱が差した頬、時折熱い吐息が口から漏れたと思えば、今度は鼻先を俺の服にうずめて匂いを嗅いだりする。


 女の子のこういった行為に耐性などあるはずもなく、俺は自分の顔が真っ赤に染まるのがわかった。

 そのことに目ざとく気づいたマヤが嬉しそうで、それでいてちょっとからかうような笑顔を浮かべる。


「ユーゴ君ってば恥ずかしがってるんだ」

「そ、そんなことはない」

「いーえ、絶対恥ずかしがってる」

「そんなことはない!」

「ムキになって否定するところがより怪しいわね」

「だから違う!」

「私は嬉しいかな……」


 突然しおらしい声を上げ顔を真っ赤にするマヤ。それが妙にかわいらしくて、俺は何も言えなくなった。

 そこへツバサが冷えた視線とやや低い声を投げてきた。


「よそでやれ」


 途端にマヤがスライドするように俺から離れる。


「マヤ、ちょっと」


 ツバサはマヤを連れ、俺から少し離れたところへと足を運び、小声で訊いた。


「安易に惚れすぎではないのか?」

「男の子ってあんなものじゃないの?」

「いや、マヤの方が」


 途端にマヤが顔を真っ赤にして叫んだ。


「そっ、そんなことないんですけど! ツバサは何なの? 何の証拠があってそんなことをいうの? 人を安い女みたいに言わないでほしいんですけど!」

「何だ違うのか」

「違わないけど、違わないけど!」

「あまり大きな声を出すな。ユーゴに聞こえるぞ」


 全部、聞こえてます。


 俺はよっぽどそう言おうと思ったが、さすがに野暮だろうと思って口にはしなかった。口にした日にはツバサから何を言われるか分かったものではない。


「さて、マヤをからかうのはこれくらいにして」


 ツバサは廃墟へ目を向けた。


「あの廃墟で何か変わったこととか、ものとか、そういった脱出の手がかりになりそうなものはないか?」


 ツバサの問いに俺は首を振った。


「いや、特にこれと言って何も。本当にただのコンクリートの塊だよ。強いて言うなら出現する敵がアサルトソルジャーV4っていう隠しボスモンスターってことくらいかな。珍しいことにこいつは戦うプレイヤーのレベルに合わせてレベルが変動する、つまり常にプレイヤーと同じレベルで出現するんだ」

「ユーゴが戦ったアサルトソルジャーV4はレベル九十か?」

「まあね。正確には最後に戦ったアサルターはレベル八十九だったけど」

「私でもレベル六十だというのに何故そこまで……。それで隠しボスを倒すとどうなる?」

「どうにもならない。ほかの敵と同じように経験値とドロップアイテムが出るだけ。部位破壊をしてから倒せば多少は変わって来るけど、それでも特筆すべきところはないよ。それに表記上では隠しボスだけど、どのあたりがボスなのかもよくわからないし」


 俺が説明を終えるとツバサが怪訝な顔で訊いてきた。


「……それだけか?」


 まだ何か言うべきことがあるだろう。そう言いたげな声だったが、本当にこれ以上は何もないので、俺は素直に答えた。


「それだけ。周囲も調べたが他には何もない」

「中を調べさせてもらってもいいか」

「どうぞ。別に俺の家ってわけでもないんだ」


 廃墟まで後二百メートルほどまで近づいたとき、出入り口から三体のモンスターが出て来るのが見えた。


「そんな馬鹿な。どうして三体も……」


 目を剥いた俺の視線の先には三体のアサルターがいた。俺が知る限り、三体も一気に出て来るはずがなかったからだ。

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