8.感情補完計画1
一瞬消えて悲しい気持ちになりました。
約束の土曜日、俺は駅前で少し早く待っていた。晃と。
「ったく、なんでお前はまだ20分前なのに居るんだよ」
「いや、俺は最低でも咲良より早く来ようとな。というかお前こそワリィワリィ遅れた!って言いながら全力ダッシュで遅れてくるキャラなのになんでもう居るんだよ」
「どんなキャラだよ!」
もちろん当て馬みたいなお調子者キャラに決まっているじゃないか…
「ったく、どんだけくだらない会話してるのよ。」
くだらないやつに時間を取られている間にいつのまにか楓が来ていたようだ。いつもの活発なイメージは浮かばない落ち着いた服だが、とても似合っている。運動するわけではなく買い物に行くだけだから大丈夫だろう。
「おはよう楓、はやいね。いつもと違う印象だけど似合ってるよ」
「そうかしら?そっちは…あり合わせって感じね…。今日買いに行く予定だったね。」
「ごめん、遅れた?」
そうこうしている間に咲良もきたよう…だ…?
「あれ、遅れちゃった?」
「い、いやみんなが早いだけだよ」
「そう?なら良かった!」
一瞬咲良だとわからなくて、つい見惚れてしまった。急いで平常心に戻り、声をかける。
「じゃあ、行こうか楓さん、咲良、モブ」
「誰がモブじゃ!」
☆★☆
「ねぇ楓ちゃん、琉人くんにはどっちが似合うと思う?」
「咲良が見たい方にすればいいじゃない?だって…」
「えっ、そんな、気づいてたの!?」
咲良と楓が琉人を着せ替え人形にしている。かれこれ1時間はこの状態だ。楓は飽きているようだが…。少しでも口答えしようものなら…
「なあ、咲良、俺はどっちでも…」
「ダメだよ!琉人くんはその…かっこいいんだから…」
「ん?なんて?」
「なんでもない!」
おお…ここ最近で一番感情が乗っている…。
このようにすごい勢いで文句を言われてしまう。感情が乗っている咲良を見ることは嬉しいのだが、この拘束時間は辛い。
ショッピングモールに来て着せ替え人形状態にされていた原因は、こういう服しか持ってきてないと言ったのがまずかったのだと思うが…。
☆★☆
「よし!」
「やっと終わったか…」
「次はあっちの店!」
「始まってもいなかった!?」
表情はほとんど変わってないけど生き生きしてるのは伝わる…こんなに楽しそうな咲良に、琉人はやめてとは言えなかった…。
「よし!予算以内かな?」
「「「す、すごい…」」」
俺なら展示されている服をそのまま全部買うのに、咲良は今の季節とこれからの季節のどちらも俺に合うように選んでくれた。料理のセンスはないのに服のセンスはあるのかと琉人は考え…
「琉人くん今変なこと考えなかった?」
「考えてないです!」
「ならいいけれど…」
絶対零度の雰囲気を見せながらこちらを見た咲良。琉人は、つい反射的に敬語を使ってしまっていた。
「そ、そろそろおひるごはんの時間じゃないかな!?」
琉人は心底思った。「ナイス楓!」と。
「んじゃあ、昼はどうする?」
「私はどこでもいいかな?」
「私も特にこだわりなし!」
「普通に下のフードコートで良いんじゃね?」
「よし、通行人Aの意見を取り入れるか」
「モブよりランクが下がった!?」
☆★☆
昼飯も食って、残りの必需品も買ったら、良い時間になった。
「じゃあ、そろそろ解散かしら?」
「そうだな、今度は動ける服装でボーリングとかしようぜ!」
なるほど、咲良は元々活発だ。なら、ボーリングとか卓球とかをするのは良案かもしれない。
「お、それいいな。今日初めていいこと言ったぞ男幼馴染A」
「よっしゃランクアップ!引き立て役じゃねぇか!」
「ねえ咲良、これっていつもこうなの…?」
「うーん…だいたいこんな感じかなぁ…でも聞いてて面白いんだよね」
「だってさ晃。一発芸人目指せば?」
「目指さねーよ!」
…そんなこんなで解散となり、俺と咲良、晃と楓さんに分かれる。
「なあ、咲良。今日…どうだった?」
「どうだったって?」
今日の咲良は生き生きとしていたし、なにより表情の変化があった。だからどう感じていたのか気になった。
「今日は楽しかったか?」
「うん、楓ちゃんは服のセンスもいいし、晃くんは昔から変わっていなかった。だから楽しかったよ!」
「それならよかった」
それと…
「それと…今日の服似合っていて可愛いよ」
「…反則だょぉ…」
「ん?」
「何でもない!」
何を言ったのかは聞こえなかったが、嫌がっている様子はない。早足になってしまった咲良を追いかけて、次はどこに連れて行こうかを考える。
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