2.帰国子女(男)
「3年たってもあまり変わらないなぁ。……っと、この家も懐かしいなぁ。」
3年ぶりに入った割には、我が家はあまり汚れてはいなかった。引っ越しに合わせて業者を入れたと聞いていたため、そのおかげだろう。しかし、細かい部分にほこりや塵は溜まっているため、近いうちに掃除をしなければいけない。
家族で使っていた家を一人で使うとなると、昔よりも広く感じる。感傷に浸っているうちに昔使っていた部屋にたどり着いた。
「うわっ、昔のまんまじゃねぇか。…………あぁ、この写真忘れていったままだったんだな……どおりで探してもないわけだ……。」
今は小さいと感じる机の上には、小学校の卒業式の時に咲良と撮った写真が置いてあった。俺はその写真を何となく財布の中に仕舞った。そしてイギリスから持ってきたパソコンや、明日から通うことになる高校の教科書や制服を整理し始めた。
☆★☆
「…………よし、こんなもんでいいだろ。後は……あぁ、連絡と、あとは飯かな……買いに行くか……。」
三年ぶりに帰ってきた家に食材などあるはずもなく、——あったらダークマター待ったなしだが——近くのスーパーに買い物に行くことにした。
準備してスーパーに向かったところで茶髪に眼鏡をかけた、10人いれば9人は振り向くような美少女とすれ違った。なぜか懐かしい感じがしたが、残念ながらこちとらイギリス帰りでそんな知り合いがいるわけがないので気にしないことにした。
「しっかし今の人の制服は蒼生学園のだよな……。あんなレベル高いのかよ…………やべぇな……。」
そう、明日から琉人が行くのは関東でも名門といわれている蒼生学園なのだ。イギリスでは、最初は言語という高く険しい壁のせいで遅れを取ったが、喋れるようになってからはトップレベルの成績をとっていたため、その甲斐あって合格することができた。
「んー、まだ時間はあるし、この感じだと少し豪華に天ぷらでも作ろうかな。」
親は、研究で家に帰ってくる時間が遅かったため、家事全般と、イギリスでできた知り合い影響で無駄に料理の技術が身についた。3年間の経験もあって、琉人にとって料理は、基本的には作るものになっていた。
そんなことを考えながら、タイムセール中だった卵や、安くなっている肉や野菜類をどんどんかごへ入れていく。そしてあまり食べることのできなかった米を忘れず買った。
夜になって風呂にも入り、あとは寝るだけとなったところでイギリスにいる家族に電話をかけることにした。
「Hello?」
「あ、もしもし俺だ。家について整理とかをした後に、買い物とかも必要だったからやっと連絡できたよ。」
「ん?あ、リュートか。もっと早く連絡してよ~。ま、今こっちは昼だからもっと早かったら怒ってたけど。」
電話に出たのは妹のエンジェだ。名前からわかる通り日本人ではない。母の研究仲間であったエンジェの両親が事故にあって亡くなってしまったため、引き取ったそうだ。
3年前、やっと着いたイギリスの家に入ったら、エンジェがいて家を間違えたかと思った。引き取った直後だったらしく、最初の頃は中々部屋から出てこなかったけれど…………そういう話は俺にもしてほしかったと琉人は思った。何も言わずに大事なことを決めているので、せめて一言欲しいと感じていた。
「おいおい、そこは素直に昼じゃなくてリュートのモーニングコールが良かった……っていっていいんだぞ?」
「ばっ……ばっかじゃないの!!モーニングコールなんてされなくても声聞けるだけで充分……あ…………。」
「へ~、ふ~ん?」
「う、うるさい!!」
まったく、からかいがいのある妹だと常日頃から琉人は感じている。
「と、とにかく!!もう時間ないから!切るね!?また電話してね?あ、できればこっちの朝ね!」
「はいはい。お姫様。モーニングコール承りました。」
焦りすぎて本音がだだもれになっているが、そこがまたかわいい。
そして次の日、つまり琉人が転入する日がやってきた。
イギリスでできた知り合いは伏線じゃないです。
義妹は出したかったから出してみました。
今日中にもう1話位投稿します。
「昔は魔法文明が栄えていたらしい」のほうもよろしくお願いします。