18.美味しくなぁれ♡(野太い声)
「———それでは、文化祭二日目開始の時間になりました!今日は学校関係者のみの参加ですが、はしゃぎすぎずに節度を守って楽しみましょう!」
前夜祭は一応1日目にカウントされているが、午前中にレクリエーション的なことを行って少し騒いで午後から出店の準備を完了させるだけなので、実質今日が一日目と言っていいだろう。
体育館で文化祭のスタートの合図を受けてそれぞれが出店の場所へと移動し始める。うちはメイド服の着替えと晃の女装準備があるため1時間後からスタートだ。
「晃くんは女装するんだから早く来て!」
「はーい!ったく、まじで女装すんのかよ!」
「しょうがないでしょ!晃くんがしないと東雲さんも西宮さんもメイドの格好をしてくれないんだから!」
「俺はただの交換条件かよ!」
「当たり前でしょ!?召喚術の触媒みたいなものよ!」
召喚術の触媒は連れていかれたが、俺は執事の格好をしなければいけない。こちらは自分で着ることができるため、パパっと着替える。まぁ、まずは接客ではなくこの格好でメイド服姿の咲良と宣伝をするのだが…。
「おまたせ、りゅうとくん!」
「おぉ…似合っているぞ、すごく…可愛いな…」
「そ、そう?ならよかった」
「よし!宣伝に行くか!」
「実行委員の見回りも並行してね」
「そうだった…」
実行委員会としての見回りと言ってもまだ始まったばかりで問題なんか起こしている人なんていないと思うのだが…とりあえず実行委員であることを示す腕章をつけて咲良と見回ることにする。
「メイド喫茶いかがですかー!可愛いメイドさんがお迎えしてくれますよー!」
「お痛をすると女装メイドがかけつけますよー!」
パンフレットが配られた時から注目されていたみたいで案の定詳細を聞きに来てくれている。これなら人が来ること間違いなしだろう。
…晃よ、女装姿を見られて悶えるがよい…。
「メイド喫茶は準備のため11時から開店です!お楽しみに!」
☆★☆
「おかえりなさいませ!」
「おぉ…まじメイドだ…」
「メニューがお決まりになりましたらお呼びください」
メニューはただの焼きそばとメイドが文字を書くオムレツとメイドにあーんしてもらうたこ焼きの3つだ。
値段はたこ焼き、焼きそば、オムレツの順番に安いがたこ焼きであーんをしてくれるのはもちろん晃だ。女装メイドもメイドだから晃があーんをしても嘘ではないな…。
「ご注文はお決まりですか?」
「俺はオムレツを頼もうかな」
「じゃあ俺はたこ焼きをお願いします!」
「オムレツとたこ焼きですね?たこ焼きで食べさせてくれるメイドさんは選択できませんがよろしいですか?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「よろしいですね?」
「は、はい」
念のため2回確認したが、良いと言ったから文句が出ないことを祈ろう。たこ焼きを持っていくのはもちろん晃だ。晃は女声など練習していないからもちろん悩殺(意味深)になる。
「お待たせいたしました、オムレツです。何を描きますか?」
「あ、あぁ。えっと、俺の名前のまさよしへって書いてもらえますか?」
「はい。…どうぞ、めしあがれ」
「い、いただきます。うまいな…」
「チェキは1000円ですが、良ければ帰りの際にどうぞ」
「女神様と撮れるなら1000円など安いぜ…」
オムレツを運んで行ったのは咲良だった。まぁ、仮にも月の女神などと言われているのだから緊張したみたいだ。
もし愛してるなどと書かせようとかハートを描かせようとしたら俺が執事として出向かなければいけないところだった。
そんな観察をしていたら、晃がたこ焼きを持って行った。見た目だけだとそこらの女子が相手にならないんだよなぁ…。
「お待たせいたしました。たこ焼きです(地声)」
「あ…って男じゃねぇか!」
「はい、ご主人様あーん」
「あ、あーんってメイドはどこだメイドは!」
「は?俺…私はメイドなのですが?」
「今俺って言ったじゃねぇか!しかもその声晃だろ!」
「アキコだよ!良いから食えよ!」
「ぐむっ…ちっ、晃のくせにうまいな…」
「まぁ作ったのは俺…私じゃないから…ありませんので」
「いや声くらい頑張れよ…」
晃が俺じゃないといったから女子を想像したかもしれないが、たこ焼きは残念ながら男が作っている。オムレツを作れる男が俺しか居なかったためメイドもできない男はたこ焼きと焼きそばを作っているのだ。あと宣伝。
さすが学校関係者のみというべきか問題も起こらずに時間が過ぎ、晃のたこ焼きあーんが売り切れになったころに2日目は終了した。
晃のあーんは詐欺だと広まると思っていたが、むしろ広めずに友達を引っかけるという方法が取られていたため晃のシフトが伸びたことは想定外な出来事だった。