17.文化祭前日
「その机はもう少し端に寄せて!あと女子はメイド服の試着をしておいてよね!」
文化祭の直前、俺たちは教室をメイド喫茶風にするための調整を行っていた。実行委員会の仕事も咲良と分担することで特に問題らしき問題も起こることなく順調に行っている。そして、ぎりぎりになったがやっと大量のメイド服が届いたのだ。
…ついでに晃の女装服も…。
「わぁ、可愛い!」
「えぇっ!これ着るの!?さすがに恥ずかしいかも…」
「気にしなくても大丈夫だよ!」
「あ、そっか!もっと恥ずかしい人がいたね!」
もっと恥ずかしい人は今、ウィッグと軽いメイクを施されている。…あれ?注意してみないと男とは分からないかもしれない…。
「おい琉人何見てんだよ…」
「え?うわっ、脳が異常を起こすぞ!」
「は?いや何言ってんだよ?」
「女装したメイドが男声で話す。視覚と聴覚が合わないからな?」
「うーん、そうね。少し気分が悪くなりそうよ」
「いやあなたが俺が女装する原因ですよね!?」
声と姿が一致しなさ過ぎて一瞬脳が異常をきたしたのかと思ってしまった。まぁ、確かに晃が女装することになった一端は自分がメイド服を着る条件に晃が女装で参加することを指定した楓にもあるが、元をたどれば咲良にメイド服をと言い出した晃が悪い。
「っていうか、晃が女装しているときの名前はアキコでいいのか?」
「うーん…まぁそれが一番無難だとは思うんだけど…もういっそのこと見た目バグ子でいいんじゃないかしら?」
「あぁ…注意ってつけておけば完璧か?」
「…確かに、何も言われなければ正体が晃くんで男だってわからないかも…」
「もういっそのこと看板に男が混ざっているって書いちまうか?」
結局、看板に【※男が混ざっています】と注意書きをしておくことにした。晃が今看板づくりを仕切っているクラス委員長に話かけた時に「うわ、バグった」と言われていたが、まぁ当然の反応だろう。
☆★☆
「テント建てるよー?せーのっ!よしおっけー!」
「あ、工藤くんはこの看板を明日すぐに出せるように校門近くに持って行ってもらえるかな?そこらへんに先生が居るはずだから」
「分かりました」
「東雲さんはもうすぐ打合せだから残っておいてね」
「分かりました」
実行委員長はことしで3年連続で実行委員会をしているらしく、手際も指示出しも素早くてどこかの指揮官のような感じだった。言われた通り看板を校門前にいた先生に届け、元の場所に戻ると既にほかの準備は完了したようだった。
咲良は先ほど他の仕事を振られていたようだから帰りはどうするかという連絡をしてみたところ、時間がかかりそうだから先に帰っていてと返信が来てしまった。待つと送ったが、バイバイと言っている熊のスタンプの連打が来たため諦めて帰ることにした。
「ん?おお、琉人か!今帰りなのか?…って咲良ちゃんは一緒じゃないのか?」
「あぁ、晃か。お前は…晃だな」
「ん?何言ってんだ?」
「いや、ウィッグとかは無いが化粧が残っている気がするぞ?」
「え?まじかよ!」
今の晃は瀬乃バグ子といった状態だろう。女に見せるようなメイクだから少し不自然だが、普通に軽く化粧をすればモテるようになるのではないだろうか?
「というか咲良ちゃんは一緒じゃないのかよ?」
「あぁ、咲良は何かまだ用事があるみたいで先帰っててと言われたぞ。待ってるって言ったら熊のスタンプで帰れって言われてさ…」
「ふーん、あの咲良ちゃんが琉人に先に帰れってねぇ…?」
「な、なんだよ?」
「いや、何でもないぞ」
確かに最近は咲良と一緒に帰ることが当たり前のようになっていたが、俺と咲良が別々に帰ることも普通に起こるはずだ。…だよな?別に避けられたとかじゃないよな…?なんだか心配になってきたぞ…。
「なぁ、俺と咲良が別々に帰ることって普通だよな?」
「はぁ?何言ってんだ?…まぁ、特に問題はないと思うがお前が心配しているようなことにはならないと思うぞ?」
「だよな?」
さすがに嫌われるようなことをした覚えなど一切ないし、きっと用事が長引くのを待たせることに抵抗があった咲良が優しさで先に帰れと言ったのだろう。
少しだけ不安を感じつつも、晃と文化祭の話などをしながら家に帰った。明日は文化祭1日目、咲良と一緒に回るという予定も立てているが実行委員の仕事もある。両立して高校初の文化祭を楽しめるようにしよう。
…もちろん咲良と一緒に。