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俺の大切な誰か……



ガサガサッ……


「リリィ!、来るぞ!!」


「うん!」


草村から飛び出してきた前脚に鋭い爪を持つ兎……クローラビットの攻撃をリリィは仗で辛くも防ぎ、そのまま俺の後方へと下がる。


「あの速度じゃあただのエアスラッシュじゃ当たらない……、リリィ!俺に魔力を分けてくれ!」


「わかった!」


俺の背中にリリィが手を当てて魔力を送り込んで来る。


俺は威嚇するクローラビットを睨み付けてお互いに膠着状態になっていると思わせつつ魔法の発動準備を進めていた。

以前にクローラビットに挑んだ時は全く攻撃が当たらずあちらの攻撃を防ぐのがやっとで、結局取り逃がした。


「ディレイ…ゲイルスラッシュ…ディレイ…ゲイルスラッシュ……」


エアスラッシュよりも速いが攻撃範囲が糸のように細いのが難点のゲイルスラッシュに遅延のためのディレイ効果を足して準備を進める。

魔力操作が下手でも大量に魔力を消費さえすれば使用できるディレイを使う。

最初は1回使用するだけで魔力切れを起こしていたけどリリィのお陰で複数回使える、馴れてきた今でもリリィ無しでは3回が限界だ。


「グ……グルウゥゥゥッ…」


そろそろ痺れを切らすか……


「ゲイルスラッシュ…リリース!!」


ビュオォォォォッ!!


「!!!?」


複数のゲイルスラッシュを縦横無尽に同時発生させた事で網のようになり高速でクローラビットへ飛んで行く。

逃げ場を見失った事でパニックを起こしている。


ダッ!


最期の悪足掻きとして動き出したクローラビットだったが、その身体はゲイルスラッシュの網によっていとも容易く首と胴を切り離した。


「よっしゃ!」


「やった…ね、ノエル!」


俺の背中に当たり前のようにしがみついてくるリリィだが、正直恥ずかしい……。

まだ俺達は8歳だからリリィは俺の事を兄か仲の良い友人のようにしか思っていないかも知れない……。

俺はリリィの事を妹のように接しているが、本当はリリィに恋心を抱いている。



6歳の頃にリリィと出会ったあの時に、俺は電流ののようなものが駆け巡る感覚……一目惚れというものを感じた。

悟られるのを恐れた俺は誤魔化すように予め聞いていたリリィの欠損部位や態度に突っ掛かってしまった、他人を受け入れられず塞ぎ込んでいたリリィに接触したことをすぐに母さんに叱られた時にリリィはあろうことか自らの命を絶とうとした。

あの時ほど自分の自尊心のために軽率な言動を取ったのを悔いたことは無かった。



ゆっくりと交流した結果、今では仲良く一緒に狩に出かける程になった。

少々上達してきたから最近は俺達だけで簡単な相手なら狩をすることを許されている。


かつてリリィにちょっかいを出していたグループのリーダーだった奴は親が親戚の手伝いをすることになったとかで王都へと引っ越していった。

そのお陰でリリィにちょっかいを出す者が自然と居なくなったけど、同い年のアイツに王都にある学校で再会してしまうかもしれないから油断はできない。


俺は今日の夜、リリィに将来の事を話そうと思う……。




…………………………




結果として、リリィは俺のパートナーになってくれる事を了承してくれた。


嬉しかった……。


今ならリリィの事は一生大切にすると神様にも誓える。



その日からも俺とリリィは一緒に狩に行きながら腕を研いた。

このまま平和な日々が続いてくれると思っていた……。




…………………………




最近、なんか変だ……。


何が変なのかがわからない。


目の前に居るのはこの1週間くらい前から村の視察に来ているという領主様とその護衛の魔術師達だ。


「……という事で、お宅で保護されているというリリィさんを我が家の養子にしたいのです」


リリィ……リリィって誰だっけ……?


今、俺の横で眠っている女の子の事だったろうか……。


「……あれ?この子はいつから家に居ただろうか?」


「さぁ?、いつだったかしら……」


父さんと母さんもこの女の子に対して同じような感情を抱いている。


領主様の後ろに控える魔術師の目を見ると頭がふわふわする……、なんだろう俺の中で大事なものが稀薄になっていく……、でもそれがなんだったのか違和感すら湧かなくなってくる。


「では、こちらの金貨で買わせて頂きます、宜しいですね?」




「……はい、わかりました。」



…………………



結局、俺達の中に僅かに残っていた何かは数枚の金貨と交換された。



俺は今日も狩に出かける。



「クローラビットだ、よし今日も狩るぞ……」


……あれ?


どうやって狩れば良いんだっけ?


「エアスラッシュ!!」


当たらない……


「ゲイルスラッシュ!!」


当たらない………


「ゲイルスラッシュ!!、ゲイルスラッシュ!!……」



当たらない……当たらない……。


アイツが居ないから……


アイツって?


そんなの居たか?


俺はいつから独りで狩をしている?


違和感の正体がわからない……村の皆や父さんと母さんに聞いてもわからない。



………………



今、俺達は家族で何故か空き部屋に置かれたベッド等の家具を片付けている。


「あら?この本はノエルに買った物かしら?」


「そんな本知らないよ?」


「おかしいな、その本は最近買ったような気がするのに、ノエルはもう小さくないから今さらそんな絵本は買わないよな……」


………


「……ノエル?、どうして泣いてるの?」


「……!?、そういう母さんこそ……」


「……俺も……涙が……」


その日、俺達家族は何故か3人とも涙を流した……


それは例えるなら、居たはずの家族が1人居なくなったような悲しみの涙だった……。



俺達は片付けを終えた後、この日の出来事は忘れる事にした、そうでもしないと心が壊れてしまいそうだったから……。



今日も俺は独りで狩をする……。



………



あっさりとしていますが、これにて村娘編は終わります。


悲しさではなく虚しさを表現したいのですが難しいですね。

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