希望と絶望の足音……
ひっそりと書いていたのに、まさかのブクマありがとうございます。
ある村の役所には夕方になると村の大人達が列を成す区画があった。
その列の先に居るのは僅か8歳にしてその類い稀なる魔力量と癖の無い魔力で効率良く魔力が回復させられる少女が居た。
「リリィちゃん、今日も頼むよ」
「はい、わかりました」
「いやぁ、この村には魔力譲渡を専門にした人が少なかったから皆仕事で魔力をなるべく抑えていたけど、リリィちゃんのおかげで魔法を仕事に使っている奴らは魔力切れによる体調不良の心配が無くなって助かるよ」
この世界では魔法で狩りを行う者だけでなく料理に使う火や、畑への水やり、医者の治癒魔法や薬屋の成分摘出や調合魔法など様々な生活の場で魔法が使われている。
仕事で魔力が枯渇したら魔力に余裕のある家族か魔力譲渡を格安で生業または副業としている者に魔力回復をしてもらうが、魔力の自己回復速度は個人差があり全快までに数週間かかる者も居る。
そのため少ないながらも世界中に魔力譲渡を副業や生業としている者が存在するものの、魔力の蓄積量が多いか回復速度が早い者でないと成り立たない。
リリィはそのどちらも尋常ではなく、日中はノエル達と共に狩りに同行して魔力補充の手伝いをしているにも関わらず、魔力が有り余っていたため夕方からは役所にて魔力譲渡で小遣い稼ぎをしていた。
「リリィちゃんが居ればワシはもう引退かのぅ」
「おじいさん、……おじいさんが……居ないと、私に……もしもの事があった……時に困るわ」
「はははっ、わかっておるよ。リリィちゃんは頑張り屋じゃからワシがフォローしてあげよう」
「じいさんも頼りにしてるぜ!」
「「「ハハハハハッ!!」」」
周りで笑い声が響く……
私でも役に立つ日が来るなんて最初は全く思ってもいなかった。
これならリゼットさん達にも恩返しが出来る。
良かった……生まれ変わって……。
…………………………
同じ頃、リリィ達の住む村がある領地の中心に位置する街に豪邸があった。
「……なるほど、この頃あの村の資金繰りや備蓄が潤いだしているのは、その少女による魔力譲渡の影響ということか……」
「はい、その通りでございます。」
「……欲しいな……、その娘の容姿はどうだ?」
「はっ、その……なんと言いますか、顔立ちは美しいと思われます……ですが……」
「なんだ?、齢8歳にして美しいと見えるのなら将来有望ではないのか?」
「その……、娘の顔立ちに関しては美しく、村の大人達からは気に入られていますが……、左腕と右眼がございません……」
「なんと!?」
「右眼には眼帯が付けられておりますが凹み具合から眼球そのものが無いと見受けられます、左腕も二の腕の中頃辺りから先が在りません」
「……勿体ないな、容姿に問題がなければ妾にでもしようと思ったが……」
「…………どうなさいますか?」
「……頂こう、見てくれが悪くとも道具としても……"玩具"としても役立つだろう……」
厭らしい笑みを浮かべ、男は件の少女……リリィを手にする手段を思案し始めた。
…………………………
「なあ、リリィ。」
「?、なぁに?」
「まさかリリィがこんなに魔力を持ってるなんて思わなかったよ、リリィのおかげでウチだけじゃなくて村の皆が助かって、感謝してるよ」
「ノエル……、……でもノエルが……私にやる気を……くれたから、私の方こそ……ありがとう」
「まぁ、最初はリリィを虐めた奴らを見返したいから持ちかけた話だったけど。
……実はさ、リリィに頼みがあるんだ……」
「なに?……頼みって」
「俺は、狩人じゃなくて世界を廻る冒険者になりたいんだ……、この国では俺達が生まれた頃から全ての子供が12歳から18歳までの間は王都にある学校に通わなくちゃいけないって義務化されたらしいけど、
俺は学校でどんな成績だったとしても卒業後は冒険者になりたい」
この国には比較的最近になって義務教育が生まれた、現国王陛下が急に決めたらしい。
ちなみに、学校の運営は税金と王族・貴族・各領主の私財によって賄われているが卒業者は皆、それまでより稼ぎが良くなったため結果的に税収額が上がり国は潤っていた。
「それで、リリィ……良かったらさ……俺とパートナーになってくれないか?」
「それって……」
ノエルは顔を赤くしている。
流石に私でもなんとなく察した。
私……、ノエルに求められてる。
「……良いよ……」
「本当に!?」
「うん……」
「リリィ……、ありがとう……俺、リリィのこと絶対に守るから……」
私はノエルの言葉が、今までの人生で1番嬉しいと思った。