私なりの、撃退法(不快な表現あり)
ノエルやリゼットさんノルベールさんと暮らしはじめて1年、首元の傷は痕が残ったものの現在は普通に声が出せるまでになった。
2度も命を救われた私は、片腕で出来る範囲で掃除や洗濯などの家事を手伝う事でなんとか恩を返すことにした。
五体満足でも自分を助けようとする者が居なかった前世と、片眼片腕が無い代わりに自分の味方をしてくれるノエル達が居る今世では明らかに今世の生活の方が恵まれていると敢えて私は思う。
しかし、今の私に出来ることはとても細やかなものなのに負い目は拭えない。
「リリィ、黙っちゃってどうしたの?
どこか具合でも悪いの?」
「ごめん……なさいリゼットさん、『えっと確か、少し休んでたの言い方は……』……少し……休んでた……の、
サボって……ごめん……なさい」
「せっかく洗濯を手伝ってくれてるのに、誰も怒ったりはしないわ。
リリィは少し卑屈なところがあるわね」
「卑屈……『卑屈……だったかな』、ごめん……なさい」
「やれやれ、この子ったら……」
リゼットさんはそう言うと優しく私を抱き締めた……。
前世の記憶で私に身体を密着してくるのは、お父さんだけだった。
しかしそれは親子の愛情からではなく、私の身体が少女から"女"へと変わりつつある時期を迎えた頃から始まった私に対する肉欲からだった……。
もちろん、お父さんを上手く気持ち良く出来なかった時は私のお腹を殴るか、身体の何処かにタバコを押し当てられて苦しむ姿を見て楽しんでいた。
そんな情事を知るお母さんはお父さんと一緒になって私を叩いたり、「タバコが熱かったでしょ?水で冷やしてあげる」と言いながら沸かしたてのポットの湯を私に掛けたりして同じく楽しんでいた。
そのせいかリゼットさん、ノルベールさん以外の大人が私に触れようとすると、前世を思い出して身体が震えるだけでなく過呼吸になってたちまち気を失ってしまう。
私の勝手な思いのせいで周りに不快感を与えてしまう現状をいつかは取り払いたい……。
「おい、また化け物が歩いているぞ!」
「…………」
「気持ち悪~~」
リゼットさんが洗濯物を干している間に、屋外から家へ戻ろうとしたら近所の子供達が家の近くで待ち構えていた。
ノルベールさんとノエルは、ノエルの剣の練習をするため森に弱い魔物の狩りに行っているから今の私は独りだ……
シュル……
「えっ!?」
私は頭の右側を覆う包帯を彼らの目の前でほどき、閉じていた瞼を開いた。
「ひえっ!」
「オエエェェエェッ」
子供には眼球が無いグロテスクな瞼の中は刺激的だろう、中には嘔吐する子まで居た。
「『家の前が汚れちゃう』…………、ねぇ……どうしたの?『早く帰って欲しいってなんて言ったらいいか忘れちゃった、……うーん、……もう少し怖がらせるか……』」
パサッ……
今度は片腕でも簡単に着られるゆったり目のワンピースを脱ぎ捨てて裸にショーツ1枚だけの姿になった。
「お……おい!?、なんて格好してんだよ……」
子供だから裸を見られてもあんまり恥ずかしくはなかった。
まあ左腕が無いだけでなく喉が治ってきて最近ようやくまともに食べ物を摂取出来るようになったばかりの私の身体はあばら骨が浮く程に痩せていたから気持ち悪さが際立つだろう。
それはまるでミイラか何かのようだった。
「私に……触れる……と……呪われる……よ、私……と同じ姿になる……か……も」
「ヒィッ!!」
子供達は悲鳴と共にその場から逃げて行った。
年齢的に、私をトラウマかなんかに認定してくれたらちょっかいを出してくる子も減るだろう……。
問題は、無駄に根性の残った子達が別のアプローチで来るだろうから、その対策かな……。
『リゼットさん達には心配させたくないから、気付かれないようにしないと……』
聞かれたくない内容の独り言は、もし聞かれても大丈夫なように日本語で話している。
私は服を着直して家の中へと入って休む事にした。
………………
「なあ、リリィ」
「?、ノエル……どうした……の?」
4人で夕食を食べ終えた後、ノエルが急に私に話し掛けてきた。
「今日、父さんと狩りの練習中に考えてたんだけど、リリィも俺と狩りの練習しないか?」
「…………どうして?」
「いつも突っ掛かってくるアイツらを見返すためさ、リリィは魔力がたくさんあるけど本当の名前がわからないから魔法が使えない……、だけど魔力操作さえ覚えたら他人に魔力を送り込んで、相手の魔力を回復させられるんだ!」
ノエルは最近になって風属性と火属性の魔法を覚えたらしく、ノルベールさんから剣術と一緒に魔法での戦い方も習っている。
しかしノエルは魔力が多い訳じゃないから、すぐに魔力切れで疲れてあまり長く魔法の練習が出来ないらしい。
魔法は使えば使う程に同じ魔力消費量でも、ある程度威力や命中制度を向上できるもののノエルは一度に余分な魔力を使ってしまうので私とコンビを組んで魔力の補充ができればもっと強くなれるだけじゃなく、私が身を守る技術を学び二人で魔物退治を成功させたら、あの子達を見返すチャンスになるんじゃないかとのことだった。
「リゼットさんとノルベールさんが……許さないんじゃ……ないかな?」
「最近は珠にしか組んでないけど、今の俺たちと同じ歳の頃には父さんと母さんも幼なじみ同士で組んで狩りをしていたらしいぜ」
「そう……なんだ……」
そういえば私を助けてくれた時も二人で行動してたな……、リゼットさんは私の面倒を見るために家に残っているから。
もし、私が独りで居ても大丈夫だと思われるくらい役に立てたら、この家族への負担も減るかも。
「うん、……わかった。明日……二人で……話してみよう」
「ああ、訓練頑張ろうな。」
「ノエル、気が……早い……」
さて、許可が貰えるだろうか……。
1年で文字と会話がある程度理解できるようになったのは遅いのか早いのか……