言葉が聞き取れません
あれから1ヶ月が経った。
与えられた食事や薬、そして治癒魔法?のおかげか骨折や出血で重症だった身体はなんとか回復していた。
千切り取られた左腕や抉られた右眼はさすがに再生せず失ったままで、左腕は肉が丸く包むようになり、右眼部分は瞼を開ければ空洞になっており、試しに指を入れてみたら中は肉が触れる湿った感触と痛みが走った。
そして、この1ヶ月を屋内で過ごす中で知ったこと。
入浴の際、鏡に映った自分の姿が明らかに別人になっており、身長的に5~6歳くらいだろうか、無い右眼の部分を隠せば美少女(美幼女?)で残った左眼は青色をしていた。
飛び降りた後気付けば別人になっていたことから、なんとなく異世界転生というものなのだろうなと理解した。
異世界と断定したのも、未だに殆ど理解ができない言語を話す大人達は私の話す日本語や簡単な英語が全く通じなかったことや、なによりあの化け物と魔法?を見て感じたことからだった。
私を救った夫婦か恋人同士らしき男女、お医者さんなどの大人達とは会話が出来ない以上、身振り手振りのジェスチャーで意思疎通をしているが、やはり孤独感が拭えず一人きりの時は殆ど泣いていた。
そんな日々が続く中、小さな来訪者が現れた。
「お前が父さんと母さんが助けた奴か……」
声を掛けてきたのは今の私と同じか少し上の歳であろう男の子だった。
『…………』
「おい!何か言えよ!」
急に怒鳴り出した、彼は一体どうしたのだろう?
『……私は、まだあなた達の言葉が解らないの……』
「!?、何しゃべってんのか解らねぇよ!、ふざけんな!!」
まだ言葉は理解できないが、怒っていることだけは確実だった。
……未だにベッドに横たわっているのが悪かったのかな?
ここに来てからずっと体調が優れず入浴や用をたす時以外は寝たままだったから起き上がるのも億劫だった、私は上半身を起こしてみた。
「!!、お前……腕が…………」
男の子は目を見開き明らかに動揺していた、……そうか私の左腕が無いから気味が悪かったんだ。
「コラッ!、ノエル何をしてるの!!」
「か……母さん!?」
あの女の人だ、よくよく見ると男の子は私を救った二人と似ているから、やっぱり男女は夫婦でこの子は息子なんだろうな……。
「この子をイジメてたの?」
「ち……違うよ、父さんと母さんが変なやつを連れてきたんじゃないか心配だったんだ。」
「この子は大怪我をしていたから、身体と心がとても弱っているから部屋には近づかないでって言ったじゃない」
「だって……だって……」
男の子が何か怒られている……、……私が原因だろう。
私はお金も何も持っていないから、お返しに何かお手伝いでもしようと思っていた。
でもよくよく考えれば、言葉も理解できず意思疎通が難しく身体的に労力にもならない私なんかが居ればこの家庭にとって良いことなんて何もないんじゃないだろうか?
母子は部屋から出て行った、多分叱るためだろう……。
『………………死にたい……』
ふと口から出た言葉……、目に映ったのは女性が持って来たリンゴと果物ナイフ、女性は私にリンゴを食べさせる為に入室したのかと思いつつも右手は自然と果物ナイフへと伸ばしていた。
『…………』
果物ナイフを手に取る、死ぬのは怖くない……怖いのはこのまま誰にも理解されず孤独に生きていくこと……。
『あの時と同じか……、ううん……あの時は言葉は解るのに伝わらなかっただけか……』
どちらにせよ独り……、また変な世界に行くとしても独りであり続けるなら何度でも自分を終わらせる。
………………
…………
……
グサッ!!
ナイフで突いた首から温かい血が流れる……
痛いし苦しいけど、ナイフを握る右手にかかる血の温かさに何とも言えない心地よさがあった……。
「な……何をしてるのっ!!」
目の前が真っ暗になる直前、あの女性の声が聴こえた。