プロローグ
私は学校の近くにある大きめの書店の隣に建つ、立体型コインパーキングの屋上フェンスを越えた端に立っている。
「…………大丈夫、私はやれる……」
そうだ、今まで受けた苦しみに耐えてきた事に比べたら、こんな事は簡単だ……これだけ高いから多分痛いのも一瞬だと思う。
私には居場所なんか無い、学校では所謂同級生からのいじめ、男性教師からのセクハラ……他の人は私なんか存在しないとばかりに無視をする。
「助けて!!」と叫んでも誰一人として救おうとはしない……。
家に帰っても母の再婚相手である義父の慰み物になる日々、母は私よりも再婚相手に味方する。
………………もう疲れた。
"私"という存在があるからこんな苦しい人生を送るのなら、"私"を終わらせてしまえば良い。
「…………行ける、私は"私"を終わらせてみせる!」
決意した私は最期にそう言うと前へ跳んだ……
風を切る音が耳に入ったと思ったらゴシャッ!という音と同時に、頭に衝撃を受けた……
「あなたはこれから手にしたかもしれない幸せを自ら放棄しただけでなく、他人の命を無益に奪った。
罰として新たな人生を生きるがいい」
私の耳に入った謎の声は、静かながら怒気を孕んでいた。
「あなたには近くに居る者の不幸を肩代わりする力を期間限定で与えよう……耐えきったその後は好きに生きるがいい……」
……………………
「……ふぇっ!!おぎゃぁぁっ!!」
「オギャアッ!?オギャァァァ?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、時は少し遡り。
少女が飛び降りる直前の出来事。
「今日は転校初日だったから緊張したな〜。なんか明るいクラスだったから仲良くできそうだけど……」
あたしは親の仕事の都合で転校してきた、まだ1日目だけどクラスメイト達はあたしに明るく接してくれた。
隣の席の娘は恥ずかしがり屋なのか声を掛けたらビクッとしたあとただオロオロしていた。
せっかく隣の席だから仲良くしたい……、明日もう一度話してみよう。
「うーん、今日は家までの道を覚えるついでに買い物をしてからお家に帰るかな、好きなケータイ小説の書籍版が買いたいし……」
あたしは学校から近い大きめの書店に立ち寄るため隣接する7階建ての立体型コインパーキングの前を通り過ぎようとした。
買おうと思っていたのは良くある悪役令嬢転生モノで。
光の聖女と闇の魔女のどちらかになる運命を持つ双子の姉妹の物語で。
本来闇の魔女となる悪役令嬢が処刑されることを避けるため行いによって光の聖女になり、双子の妹であるヒロインが闇の魔女に覚醒し"ざまぁ"されて終わる在り来たりなケータイ小説ではあるが書籍版では書き下ろしで閑話や後日談が収録されるらしい。
ケータイ小説では闇の魔女へと覚醒したヒロインは拘束され、主人公と王子様が結ばれて物語は終わっていたから、ヒロインを含めて主人公達がその後どうなったのか気になっていた。
そんな事を考えている時だった……
ゴシャッ!
歩いていたあたしの頭に衝撃が走ったとき、あたしは何も解らないまま終わらせられてしまった。
「……あなたは幸せが待っていたかもしれない命を奪われました、可哀想なあなたには新しい人生を。」
唐突に聴こえた謎の声……
…………………………
「……ふぇっ!!おぎゃぁぁっ!!」
「オギャアッ!?オギャァァァッ?(えっ!?、なにこれどういうこと?)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「旦那様、双子です!双子がお産まれになられました。
お二人とも女の子にございます。」
その日、ある屋敷で2つの産声があがった。
その2つの命は後に光の聖女と闇の魔女となる運命にあると知るのは1人だけだった……。
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書籍に書き下ろされた後日談にて判明したことには以下のような記載があった。
ある日、王国に住まう大人の中でその年に子を儲けた者全員に神託が告げられた。
今年誕生した赤子達の中に17歳の誕生日を迎えた際に光の聖女と闇の魔女へと覚醒する二人の少女が居ること、もしも闇の魔女より先に光の聖女が死んだ時、世界に混沌が訪れるであろうと……。
その年に王子が誕生日していたため神託を受けていた国王は、箝口令を敷いた。
そして国王は決断した、闇の魔女へと覚醒した少女は処刑すると……。
そしてまさに書籍で描かれた、ざまぁされたヒロインの末路は、処刑。
これは、書籍を読んでいない者には知り得ないことであった……。