いつだって忘れた頃にやってくる 2
鳥が鳴いている。
風が吹いて草木のザアアアァという音がする。
私はこの音が好きで散歩の時は耳をすましながらいつも歩いていた。だってこの音は学校の行く途中の音に似ていて懐かしくて安心出来た。
それなのに、今は私に不快感を与えている。
鳥の鳴き声は早く早くと私を急かして聞こえ、風の音は空気が耳に入って只々気持ちが悪いだけだ。
しばらく走ってようやく目的地についた。
呼吸を整えながら男性のそばに腰を下ろし持ってきた傷薬で私でもできる様な手当てを開始し始めた。
「良かった、まだ息がある……。にしても、本当に傷が酷い………………あれ?」
さっきは気が動転してよく見てなかったから気がつかなかったけど白雪ちゃんから聞いていたドラゴンは鋭い爪と牙を持っていて怒らせるとそれらが猛威を振るうって言ってたはず
「爪や牙で攻撃された時の傷って引っ掻き傷だったり肉が抉れてたりするものじゃないの?コレ、どう考えてもそうゆう傷じゃないよね。」
濡れ布巾で血を拭き取ったらところどころに切り傷があったけど殆どの傷が火傷だった。
取り敢えず火傷の処置なら分かるので手早く済ませていくがやっぱり具合は良くなる兆しはない。
当たり前だけど、さっきまで死にかけてた人が簡単な手当てで回復するはずがない。
「結局何もできてない。私はこの人の苦しむ時間をただ長くしちゃっただけだ。」
確かにコレは私の自己満足という自覚はあるけど痛いのとか苦しいのを長引かせてしまっただけかもしれないと自己嫌悪で涙が出そうになった。
「ーーーーーーいや、君は彼の命を救ったよ。何故なら私が来るまでの間、君が彼の命を繋ぎ止めておいてくれたのだから。」
声のする方に顔を上げると其処には杖を持ったお兄さんが立っていた。肩まである群青色の髪を緩くまとめていて今此処には居ない有栖君と張り合えるくらいのイケメンである。
いや、それよりも今彼は何て言ったの?
「この人は助かるんですかっ⁈…素人の私でも分かるくらいに酷い怪我をしてるんです。特にーーー火傷の傷が本当に酷くて…。」
私が期待しながらも疑っている事が分かったのだろう。彼は微笑みながら答えてくれた。
「あぁ、このくらいの傷ならば私の魔術で治せるよ。ただ治してから安静に出来る場所があるのかが重要になってくるんだけど何処か心当たりある場所は知ってるかな?」
「安静に出来る場所ーーー。」
まるで場所を指定された感じがしたが私が案内出来る場所なんて一ヶ所しかない。
「今、居候の身なんです。其処で療養しても大丈夫か聞いてきても良いですか?」
判断が一人では出来ないと言うと男性はきょとんと目を丸くして理解出来ないと呟いた。
「君は人の命を助ける事も自分で決めることが出来ないのかい?だったら最初から君が言っていた通り助けない方を選んだ方が君の精神面での負担も少なかったんじゃないか?それとも助けようとしたっていう言い訳が欲しかったのかい?だとしたら納得だ。そっちの方がこの男が死んでも罪悪感は少ないね。」
この男が何を言ったのか理解出来なかった。いや、理解したくない。
確かにこれは私の自己満足の行動だけど何でそんなこと言われないといけないんだ。私のしたことを何で赤の他人のこの人に否定されないといけないんだ。
悔しさと怒りで涙が出そうだし喉が震えてまともに声を出すことも難しくて言われたことに上手く反応ができない。
俯いて黙ってしまった時に聞き慣れた声が聞こえた。
「ねぇ、そいつ虐めるのやめてくれない?」
振り向くと其所には白雪ちゃんが怒った顔で目の前のこの男を見ていて突然の登場に吃驚して涙が完全に止まっていた。
「な、何でーーー」
私のいる場所が分かったのという私の言葉を無視して早足で詰め寄りながら私を背中に隠した。
「おや、此処は君のところの領地だったかい?だとしたら申し訳ないことをしたね。しかし、いつも君はこう言った問題事がだーい嫌いだったはずだよね。どういった心境の変化かな?」
そう言って白雪ちゃんの後ろにいる私を覗き込んできたが見せないようにさらに背中に私を押し付けた。
「あいつの魔力を感じたからこの森にいるのは知ってた。けど稀に此処に来たりしていたから死にかけているなんて馬鹿な真似する奴なんて思えない。」
早く治療しなよと白雪ちゃんが催促すると男は目を丸くしていた。
「本当にどうしてしまったんだ?君ならアーサーだろうが誰だろうが見殺しにする奴だっただろう?」
男が治療をしながらこの怪我をしている人がアーサーと言う名前の人なのだとはじめて知ったーーーいや、ちょっと待て。
「貴方……っ!白雪ちゃんと知り合いなのかもしれないけど見殺しにするとかって言い方ないんじゃないの!?」
「君こそ白雪と言う人間の何を知ってるって言うんだい?無関心で臆病者。この言葉ほどーーー」
「貴方の言葉なんか聞いてない!私を助けてくれた恩人を悪く言うなっ!!」
少なくとも優しくない人がどうしたらいいか分からないと不安を感じている人間に手を差し出したりはしない。言い方はあれだったけどちゃんと優しさがあったと信じたい。
さっきから呆けている男を睨んでいると白雪ちゃんが私の方を見た。
「別に言われ慣れてるし事実だからあんたがヒスんなくても大丈夫だよ。それに奴には聞きたいことができたし」
治療が終わったらしい男に療養できる場所の提供する為の条件を言った。
「やっぱり君は善意だけでは動かないか。まぁ、そっちの方が有り難いね。なんてったって後で駆け引きの材料にされても嫌だからね。」
にこにこと笑いながら無神経な言葉を吐いてくるこの人に不快感を覚えていたが白雪ちゃんは全く気にしていなかった。
「黙れクズ。この状況自体がお前の手のひらで踊らされているんだろ?だったら全てが繋がるんだよ、お前がここに居る事が。」
元から口が悪かった白雪ちゃんがもっと悪くなっている……。でも、言い方からして何か思い当たる節があるっぽいな。
「今、この国ーーーいや、この世界で起こっている事を話せ。お前が知っている事全てだ。……この予想は当たっていてほしくない。」
そう言って私の方をみた。どうやら私にとっても白雪ちゃんにとっても良いものではないらしい。
私は白雪ちゃんとの生活に慣れて、楽しくて本来の目的も忘れてしまっていた。
「お前の問題が解決したらこいつをあっちの世界に戻せ。出来ないのならアーサーは力尽きて死ぬだけだ。」
この男こそが私を唯一元の世界に返せる存在であるマーリンであると言われるのは数分後の話である。