いつだって忘れた頃にやってくる 1
朝、私は小鳥のさえずりで起きるーーなんて事は無くいつも白雪ちゃんがご飯の催促に叩き起こしにくる。
いや、まだ絶対に寝ていられる時間だよっ!っていう度胸も図々しさも無く渋々起きて朝ごはんを作るのに取り掛かる。……これが二週間前の私である。
「絶対に私が遅く起きてるんじゃないって……時計の針は4時30分を指してるよ。これは流石に白雪ちゃんが早すぎるんだって……。」
そう言いながら朝ごはんのスクランブルエッグを頬張る。すると白雪ちゃんはまたかという様な顔をしながらも律儀に答えてくれる。因みにこのやり取りはこの生活が始まって3日目からしている
「だから、どんなに便利な道具があっても核の魔法石が無くちゃ動かないんだよ。石がどれだけの価値か分からないからそんなこと言えるんだよ。だからこそできる限り頼らないしむしろ、持ってなくて火を起こすことも自分でやってるひともいる。この生活が此処では普通なんだよ。」
説明は終わったと言わんばかりに食事をまた食べだした。私もこれを言われてしまったらもう何も言えなくなって再び食事を再開する……このやりとりももう何回もしている。
こんなに早く起きてする事になるとは思ってもみなかったのでこの会話が繰り返し行われたが流石にこれ以上は言ったらキレられそうだしこの習慣に慣れてしまってきている。もうこの話題は明日からは言わないでおこうと黙々と朝食を食べていると白雪ちゃんが眉をひそめながらこっちを見ていたが嫌いな物でも入っていたかな?
「自分の常識が通じないんだからストレスが溜まるのは当然だと思う。……あんたは、慣れないこの環境の中よくやってるよ、この僕が言うのだから少しくらいは誇ってもいいんじゃないの?」
これはもしかしなくても、私が落ち込んでると思って慰めようとしている?
いやいや私は落ち込んでない。落ち込んではないがーーー突然のデレに、にやけてしまう。
それに気づいた白雪ちゃんはバツが悪そうな顔をしながら何か言っていたが全然耳には入ってこなかった。
そんなこんなでこっちの生活に慣れてきた頃、私は森を散歩していた。いや、だってね、白雪ちゃん昼には仕事って言って部屋籠るし、家事もあらかた終わって暇なんだもん! やる事無いよ!そう言ったら白雪ちゃんに歩いて来いと外に出された。
この区域は比較的に安全だけど家が見えなくなるところまでは行かないでと言ってきたので世話焼き通り越して過保護になってきている。
家から出て行けと言ったり、行くなって言ったり言ってる事がめちゃくちゃだけど仲良くなってきていると思うと自然と足取りは軽くなった。
そう言えば白雪ちゃんのお仕事ってなんだろー?と思いながら進んで行くと視界に入っものを見て硬直してしまった。
ーーー男の人が倒れている、それもすごい怪我をして。
慌てて駆け寄るが、正直こんな大怪我をした人は見た事無いし、手当の仕方もわからない。分かるのは私では彼を助けられないと言う事実だけだった。取り敢えず助けを呼んでこないと思い私は白雪ちゃんのいる家に足を向けて全速力で走った。
「白雪ちゃん!!!助けてっ!!!お、男のひとがっ……!」
息を詰まらせながら戻って来た私に異常を察知したのか険しい顔をして玄関前に来てくれた。
が、事情を説明したら何でもないような顔で自室に戻ろうとしていたので白雪ちゃんを慌てて止めた。
「な、何で…っ?!人が死にそうになってるの!白雪ちゃんならーーー。「生憎、僕は医者じゃない。瀕死の人間にできる事なんてないし、此処で死にかけているって事は大体の事情は把握できるよ。」
白雪ちゃん曰くこの森には騎士がドラゴンの討伐のためによく訪れるそうだが大体の人は生きては帰らないらしい。いや、ちょっと待って、此処に住んでる動物は皆んないい子達だしドラゴンだってちょっかい出さなかったら大人しくしてるって白雪ちゃんが言ってたのに……。
「自分の箔をつける為だよ。皆んなを守る為とか言って戦わなくていいのに戦って結局命を落とす。僕は武勇や誇りを命と天秤にかけて命を粗末にする奴は嫌いだしそんな奴を助けたいとも思わない。」
夜になったらそいつは跡形も残らないから今回の事は忘れなと言って今度こそ白雪ちゃんは自室に戻ってしまった。
残された私は呆然と立ち尽くし白雪ちゃんの言った言葉が頭の中でずっとぐるぐると回っていた。
「……そうだよね。あんな大怪我は私も白雪ちゃんも治せないしドラゴンを怒らせたあの人が悪いんだよ。そのせいで命を落とすのは自分の責任だけど……でも、それでもーーー」
自分にできる事はない、それは知っているけどなんて言い訳を考えてる時点で私の答えはもう決まっていて足も勝手に動いていた。
私があの場所に行ったって状況は変わらないしこれは完全に私の自己満足だ。手には傷薬や包帯を持ちあの男性がいた場所に急いで戻ろうと家から飛び出した。
ーーー夜になったら跡形も残らないーーー白雪ちゃんが言ったあの言葉は私の考えていたものとは違っていた事には後で知ることになる。