思っていた展開と違っていた時の心境を答えよ
「君が好きなんだ。 恋人に…なってくれないかな?」
彼がそう言って頭をかきながら下を向く。
季節は、少し肌寒い秋の風が吹き、そろそろカーディガンを羽織って行こうかなと思うくらいには寒かったと思う。その寒さが吹き飛ぶくらい私の体が熱くなっている事で返事の内容は察していただきたい。
彼は城川 有栖君。お母さんが外国の人だからか顔の造形は日本人ぽくなくてしかも、最近までイギリスに住んでたからか知らないけど動作がもうホント紳士。
学校では裏では王子様と言われてファンクラブがあるくらいの人気者だ。
「(はっ! 何処かに気が行ってたわ。返事を……返事をしないと‼︎)」
ソワソワしている彼を見て我に帰る。
はっきり言おう。私は彼のことが好きだ。でも、彼からの告白を受けとるという事は即ち学校の女子の大半を敵に回すことになる。
……怖すぎる。明日からの人生が手に取るようにわかる。ーーでも、それでも……
「うん。私も……私も城川君が好き、だよ。」
言った、言ったぞ。グッバイ平穏な日々よろしく修羅の日々。だってだって‼︎ こんなチャンス二度とないよ!?絶対片思いで終わると思ってた相手からの告白だよ!?断る理由が何処にあるの!?
私が覚悟を決めていると、城川君が大きく息を吐き安心した様な顔で私を見た。あぁ、カッコいい。
「……ありがとう、凄く嬉しい。あっ、良ければ下の名前で呼んで欲しいな、他人行儀な感じで嫌なんだ。」
「分かったよ‼︎ 有栖君‼︎ 私の事も名前で呼んで欲しいな!」
さっきまで明日からの女子の悪意にどう対処しようかガクブルしていたのに現金なものである。
「ふふっ、君と居ると本当に楽しいよ。 これから恋人としてよろしくね。ーーー紗羅?」
ーーーーー
学校から帰ってきた私は服も着替えずベッドにダイブした。途中まで有栖君と帰ってきた時に繋いだ手がまだ熱く現実だと実感させる。
「夢じゃ……ないん「どうしたの?」 ーーうわっ!
お母さん!?帰ってきてたの!?」私は驚いて飛び上がった。
母がいるなんて珍しい、いつもは仕事が忙しくて中々家に戻って来ないのに。
お母さんは、少しムッとしていたが、おかえりと言うと嬉しそうに微笑んだ。
「ただいま。私が居ない間に何か変わった事はあったかしら?」
「特に何もなかったよ。ーー恋人は、出来たけど。」
私がそう言うと、お母さんは目を輝かせて私の肩を掴んだ。って、お母さん力めちゃくちゃ強いなっ!
「貴方もそんな年頃になったのね! お母さんにも合わせて。 すっごく気になるわ。」
「えっ、出来たの今日だし無理……。それより、お母さん今回はいつまでここに居れるの?」
言った途端にお母さんは思い出した様に手を叩きこれまでにないくらいの笑顔になった。
「今回は3日くらいで戻らなきゃだけどね、あっちでの仕事が片付きそうなの。そうしたら、こっちで暮らせるわ!」
おおぅ、どうした今日は。いい事があり過ぎじゃないですか!……まぁ、明日からはどうか分からないけど。
ご飯の支度をすると言って部屋から出たお母さんを見送り再びベッドにダイブする。
「(お母さん、3日間居るんだ…。 なら、3日目は私がご飯作ってあげようかな。)」
ご飯が出来たらお母さんが起こしに来るだろうと思い
私はご飯の献立を考えながら目を閉じた。
ーーこの時私は浮かれていたのだ。
たった一人の肉親とのこれからの日常、憧れの人からの告白。どんな困難な出来事にだって立ち向かえると本当に思っていたのだ。
だがしかし、
「これは、予想外だなぁ……」
見知らぬ土地に気がついたら立っているという困難は私の頭の中には無かった。