とある男の決意のきっかけ
作者は執筆初心者で豆腐メンタルですので誹謗中傷は控えてくださると嬉しいです。
この時の女の表情を私は一生忘れないだろう。
夜なのに蝋燭も灯さず笑う姿は些か薄気味悪いが、それでも美しいと思ってしまうのは男の性なのか、それともーーいや、この女の本質は私が誰よりも知っている。
「あぁ、早く、早くあの子に会いたい。ずっと寂しい思いをさせたもの。あの子は優しい子だからーー」
だからこそ、この言葉が女から出てきている事に驚きを隠せない。まるで"我が子を恋しく思う母親"みたいではないか。いや、そもそもこの女は母親ではあるのだが、少なくとも自分の子に情をかけるような女では無かった筈だ。
女はさっきまでの表情が無くなりつまらない事の様に呟く。
「あぁ、面倒くさいわ。次の王なんて誰でもいいじゃない。誰がやっても同じなんだし。これじゃあ、いつまでたってもあちら側に行けないじゃないの。」
ーーこの顔だ、私の知っている彼女は。
「女王よ、あまり過激な言葉は控えた方がいい。誰が聞いているかも分かりませんよ。」
彼女の赤い瞳が私を捉え何でもないような表情でこちらを見ていた。
「選定の者がまだ見つかっていないんだ。それに、候補者すらいない状態だ。まだ君が決めていい時期じゃない。」
「だったら、候補者を貴方の力で見つけてきなさいよ。それが貴方の"役割"でしょう。」
苛立った様に眉をひそめる彼女には一国の一大事ですら、自らの幸せの邪魔をするものだと捉えている。そのあり方は、最早、人の上に立つ者ではなくなっており、この時私の中で完全に彼女とは決別していた。
「出来る限りのことはする。見つけ次第儀式の準備が出来るようにしていて欲しい。私の方でも、全てが終わったら早急に転送できるようにしておくから。」
そう言って出て行こうとする私に彼女は止めなかった。そもそも、彼女が必要なのは私ではなく私の魔術なのだから私自身には興味も湧かないのだろう。知ってはいたが、これから頑張る私に"ご褒美"をくれても良かったのではないだろうか?まぁ、興味を持たれてもちっとも嬉しくはない相手なのではあるが。
ーーやるべき事は決まった。取り敢えずは聞き耳を立てていたであろう彼に全てを話そう。