第3回 アニメ『アルジェントソーマ』
はっきり申し上げます。どマイナーなアニメです。2000年の秋に放送されていたサンライズ製作のSFアニメです。
しかし、これがまたとんでもない伏兵だったのです。
大雑把なあらすじですが、地球は突如飛来したエイリアンの襲来によって大きな被害を受けていた。エイリアンに対しては通常兵器はあまり意味を為さず、その迎撃は対エイリアン部隊『フューネラル』に委ねられていた。
そんな時代。宇宙開発はエイリアン襲撃の所為で中断させられており、宇宙を夢見ていた青年『タクト・カネシロ』は自身の通う大学で付き合っている『マキ・アガタ』と研究や講義を受けつつ過ごしていた。
とある時期から、マキは『ノグチ教授』の実験の手伝いをするようになり、タクトとすれ違う日々が続いていた。そんなある日、タクトは今度こそマキと話し合おうと決めていたが、そこにノグチ教授からの迎えがやってくる。
ノグチ教授に連れられてやってきたのは実験場だった。そこにはマキがいて何故こんなことになっているのか問い詰めるタクトだったが、モルグには継ぎ接ぎのエイリアンが横たわっていた。
ノグチ教授はエイリアンを再生させて、その謎を解明せんとしていたのである。
実験は成功した。しかし、結果はタクトは重症を負い、マキもノグチ教授も死んでしまったのである。
この日から、タクトはエイリアンへの復讐を誓い、傷を負ったことで変貌した容姿のまま『リウ・ソーマ』と名を変え、対エイリアン部隊『フューネラル』へと配属される。
これが第1話の大雑把なあらすじです。
これ以降、フューネラルの面々や、モルグで再生したエイリアン『EX-1』こと『フランク』や、フランクの言葉を解する少女ハティとの出会いがあります。
エイリアンについて。
エイリアンは宇宙から飛来し、地球上におけるとある一点を目指し、ひたすら直進を続けます。地球上のどこに降り立ってもただそこを目指すことから、『巡礼ポイント』と呼ばれるようになります。また、エイリアンは一定のダメージなどを受けることで状態に対する耐性、適性を得ることがあります。この状態のエイリアンをプログレッシブ型エイリアンと呼びます。
対エイリアン部隊『フューネラル』
主人公らが所属する国連所属の対エイリアン部隊です。北米に基地を構え、エイリアン出現の報を受けると輸送機『ミステルT-1』に対エイリアン迎撃機『ザルク』を搭載し出撃します。
基地司令はラナ・イネス少佐。ザルク隊指揮官はマイケル・ハートランド中佐。実際にはイネス少佐の指示にハートランド中佐が従うという軍隊としてみれば不思議な構図が出来上がっています。
他にはザルクの搭乗員としてダン・シモンズ中尉、ギネビア・グリーン中尉、スー・ハリス少尉がいます。後々、軍属ではないもののフランクを運用するためにハティことハリエット・バーソロミューが参加します。
『ザルク』
対エイリアン用可変機動兵器です。戦闘機形態と人型形態の2つのモードを有しています。操縦席が機体の中心軸には無く、左肩の辺りにあるのが特徴的です。また、大規模な修理は専用の施設『モルグ』でしか行うことができず、ブラックボックス化されている部分が非常に大きいです。
後々、コクピットの位置と、修理に関することがとんでもない伏線になってきます。
『フランク』
第1話で復元、蘇生された継ぎ接ぎのエイリアン。コードネームは『EX-1』、継ぎ接ぎのボディからスーに『フランク』(フランケンシュタインの怪物に由来)と呼称され、以後、フューネラル内ではそのように呼ばれるようになります。ハティだけは『妖精くん』と呼んでいますが。
リウは恋人であるマキの仇としてフランクの破壊を執拗に狙います。当然、フランクを慕うハティからは嫌われてしまうのですが。
当初は実験施設から逃走し、ハティを連れて逃げていたのですが、ハティをフューネラルで保護することでフランクも確保されます。そして、頭部に小型核弾頭を搭載した仮面がつけられます。これにより、フランクは2重の首輪がつけられた状態になったのです。
ザルクを超える戦闘能力を有することから、フューネラルの切り札として運用されていくことになります。
『ハティ』
フランクと意思疎通の出来る13歳の少女。過去のエイリアンとの戦闘の際、その破片が脳に入り込み、それが理由でフランクとの意思疎通ができるようになっています。因みに、その際、長期間のこん睡状態に陥っていたため、実年齢に較べて、精神年齢は非常に幼い。
この作品の最終的なヒロインです。
雰囲気がマキによく似ていることから、幾度と無くリウを惑わせ、その凶行を未然に防ぐ役割を無自覚のうちにこなしていきます。まぁ、誰もそんな役割を振っていませんけどね。
この作品は、大雑把に言えば特定のポイントを目指すエイリアンを迎撃し、撃破する、というだけのルールです。しかし、エイリアンが何故巡礼ポイントを目指すのか、フランクと意思疎通が出来るのは何故なのか、タクトをリウとしてフューネラルに送り込んだMr.Xとは何者なのかという謎をエッセンスにして話は進んでいきます。
キャラクター造形
人物のデザインは村瀬修功、メカニックデザインを山根公利が担当しています。そして、リウ、ザルク、フランクという物語上の重要なデザインは『左右非対称』になっているのも特徴です。
サブタイトル
『○○と××』といった具合に言葉と言葉をつなぐ形で作られています。これ、本当に素晴らしいのが綺麗に一周するのです。最終話と第1話が繋がっているんです。そして、ストーリー的にも全ての謎を明らかにした上でもう一回見るとその腑に落ちる、理解できる内容がたくさんあります。
音楽
主題歌の『Silent Wind』はこれでもか、と切なさと悲壮感を漂わせた曲調です。ロボットモノの主題歌としては非常に大人しいものです。しかし、物語全体を俯瞰してみると、これを超え得る主題歌は存在しません。
BGMも主題歌も全て服部克久の手によって作曲されています。これにより、全体に統一感が生まれています。これは同氏による『無限のリヴァイアス』においても同様でした。
そして、何と言っても外せないのがEDです。これがまたとんでもない伏線になっているのですからまた性質が悪い。
是非、最後まで視聴していただいて、EDの意味を理解してもらいたいものです。
全体
世界観にかなりの絶望感が漂っている上に、主人公を突き動かすものが復讐であることから、誰もを納得させうるハッピーエンドというものは描けなかったのだろうとは思います。しかし、その限られた条件の中で最大限到達しうるハッピーエンドを目指されたこの作品は、おそらく現在ではあまり描かれない物語ではないかと思います。
別にハーレムアニメが嫌だとかそういうのではないのですが、女の子を複数出して、主人公とラブコメさせるのが目的になる以上、どうしたって明るくなるのは避けられません。暗くするとスクイズとかになるだけですから。
そういう意味では、この作品のように、誰もが主人公を気にかけるわけでもない、主人公を中心に人が集まるわけではない物語は今となっては稀有なものなのでしょう。
個人的にはこの作品と無限のリヴァイアスを最後まで見続ける気力のある人は、ウルトラマンネクサスの『ノスフェルの悪夢』を突破できると思っています。