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エッセイ短編集

お盆休みに体験した優しい心霊現象

作者: わいんだーずさかもと

子供のころ、母の実家で体験した心霊現象です。実話です。

ただし、心霊現象といっても怖いものではなく、ほっこりするようなお話ですので、軽い気持ちで読んでいただけますと嬉しいです。

僕の母の実家は島根県で、子供のころ夏休みのお盆の時期になると、毎年のように家族で母の実家へ行った。(普段は父の地元の大阪で生活している)


今はもう亡くなっているのだが、母方の祖母は僕が子供ころは元気で、毎年僕たちがくるのを島根県で楽しみに待っていてくれた。


僕は子供のころ「夏休みの田舎」がダントツで1番の楽しみであり、このイベントがなくなると生きていけないとさえ思っていた。そして、小学4年生のお盆休み、


例年通り家族(父、母、妹、弟)で母の実家がある島根県へ向かった。


〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「ばーちゃーん!島根のおばーちゃーん!!」


車を降りた瞬間からそう叫び、玄関へ向かう。


母の実家はとても広く、玄関を出たところに立派な庭があり、その庭をぐるっと回ると畑があり、畑の横に車を3台くらい止めれる大きなスペースがある。


その前には田んぼが広がっている。


そのスペースから、庭?玄関へと全速力で走る。


「ゆーちゃん(僕のこと)、よーきたねー、まっとたよー。」


おばあちゃんが優しく迎えてくれる。


「チリンチリーン」


玄関からつながる廊下にある風鈴が鳴る。この風鈴の音を聞くと大好きな島根にきた!と思う。


「ゆーちゃん、まっとたよー。」


と廊下から声をかけてくれるのは2つ上の従兄のTくん。僕はこのTくんが大好きだった。


「Tくん、久しぶり!!」


「ひさしぶりだねー、元気しとっ・・・」


「ゆーちゃーん!ひさしぶりー!!」


とTくんの言葉をさえぎり声をかけてくれたのがTくんのお姉さんのMちゃん。3つ上の従妹になる。


「Mちゃん久しぶり!」


「久しぶりだねー。今日はもう昼過ぎとーけん海行けんから、明日海いこうね!」


毎年朝早く出るが、当時は交通の便もよくなく、渋滞も重なったりして母の実家に着くのは昼過ぎの14時くらいになる。


「うん。絶対いく!!」


「今日は蛙取りいく?」


Tくんが誘ってくれる。


「いくー!!」


都会で暮らす子供にとって、田舎というのは、それだけで楽園である。


こんな感じで僕とTくんはすぐに遊びに出るが、父、母、妹、弟は家でゆっくりする。妹、弟はおばーちゃんが大好きで、特に妹はおばあちゃんからしばらく離れない。


「夕方からごはんにするけん、そげ遅ならんようにのー。」


というおばあちゃんの言葉を背中に受けながら僕とTくんは遊びに出る。


蛙を取ったりしたあと、自転車で近くの荒神谷遺跡へ行ったりした。


荒神谷遺跡とは出雲市斐川町にある小さな遺跡で、母の実家はこの遺跡から車で10分もかからないところにあるので自転車でも十分行くことができた。


この2、3年前、荒神谷遺跡から古墳時代の銅剣などが大量に発見されて全国的に話題になっていたので、このときも人が多かったように思う。


遺跡で色々と遊んで、そんなに時間は経ってないように思っていたが、


「そろそろ帰ろうか?」


とT君が言う。


気づくと、もう夕方になろうとしていた。子供のころは特に何をしている訳でもないのに、楽しくて時間があっという間に流れる。


「うん」


僕とTくんは家に向かって自転車をこぎ出した。


〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


帰ってくると、おばあちゃんがちょうど畑とうちの車の間くらいで火を焚いていた。


「おばあちゃんたき火?」


そう僕が聞くと


「迎え火だよ」


とTくんが教えてくれた。


「そう。迎え火っていってねー。お盆のとき、この煙を目印にご先祖さんが帰ってくーだわね。」


おばあちゃんが続けて説明してくれる。周りの家からも煙がたくさんあがっていた。


「そうなんや。」


毎年火を焚いていたのは知ってたが、これが「迎え火」ということはこのとき初めて知った。しばらく煙を見ながら、


(この煙を見て、Eおばさんも帰ってくんねんな)


と考えたりしていた。


Eおばさんとは、母の姉である。母は4人姉妹の末っ子、Eおばさんは長女。そして、Eおばさんは僕が2歳くらいのときに病気で若くして亡くなっていた。


僕のことを凄く可愛がってくれたらしいが、まったく記憶にない。


ちなみに、母の一つ上のYおばさんがずっと島根の実家に暮らしており、MちゃんとTくんのお母さん。


その一つ上のMおばさんも僕たちと同じ大阪に住んでいて、予定が合えばお盆は島根の実家に帰ってくるが、このときは予定が合わず、日をずらして帰ってくるとのことだった。


「Tとゆーちゃん、もうごはんにすーけん、家はいっとくだわね。」


そうおばあちゃんに言われ、僕たちは家に入った。


ご飯を食べ、大人達の宴会に交じる。これも田舎にきたときだけ許されるので、楽しみの一つだった。Tくん、Mちゃんのお父さんと僕の父は自他ともに認める酒飲み。


父親がだいぶ酔ったころ、僕は「迎え火」のことを思い出したので聞いてみた。


「お父さん、大阪のおじいちゃんどうやって家帰ってくるん?大阪のおばあちゃんが火ぃ焚くん?」


父方の祖父は僕が生まれてすぐに亡くなっていた。


「オヤジ飲んどるやろうから、お盆帰ってけーへんのちゃうか。まあ、帰ってくるにしても何とかしよるわ」


(そうか、何とかできるもんなんか)


そんなことを思っているとき、おばあちゃんが来て、


「ご先祖さん帰ってきとーけんな、みんなで線香あげてくーだわ。」


と僕たち子供に言う。なんというか、お盆に対する思い入れの温度差がハンパない気がした。


仏壇に線香をあげに行く。Eおばさんの写真がある。


(Eおばさん、帰ってきてる?今年も島根にきたよ)


そんなことを思いながら線香をあげる。こども達全員が線香をあげると、


「みんなで来てくれて、ご先祖さんもよろこんどーわ。」


とおばあちゃんが嬉しそうにいう。母親やおばさん達も線香をあげはじめたので、父親を呼ぶことにした。


「なあお父さん、ご先祖さまに線香あげんと。みんなであげたら喜んでくれるって・・・お父さん?」


「・・・・・・」


「おっちゃん?」


「・・・・・・」


「二人は後で起きてからでもいいけんね。」


おばあちゃんが優しく言う。


(この二人おきるんかな。。。この姿みたら、死んだ大阪のじーちゃん悲しむかな。いや、じーちゃんも飲んで寝てるか。)


真剣にそんなことを考えているとき、


「ゆーちゃん、そろそろ寝ようか」


とTくんが声をかけてくれた。


「うん。」


いっぱい遊んだし、僕もかなり眠くなっていた。


「おやすみなさい。」


おばあちゃんやおばさんにそう言って、Tくんと僕は僕たち子供が寝る部屋に行く。


布団に入ってすぐ、僕たちは眠りについた。


眠りに落ちる前、


「あんたは何そんなとこで寝てんの!!寝る前にちゃんと線香あげなあかんやろ!!はよ起き!!!!あんたはほんまにもう・・・」


という母親の声が聞こえたような気がした。


〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


二日目、海や花火で島根の夏を満喫し、迎える三日目の朝。大阪に帰る日である。僕は毎年、大阪に帰る日は朝から泣きそうになっていて、あまりしゃべらなくなる。最終的にわんわん泣くのだが、泣くまでにいくつかのステップがある。


「今日渋滞が結構酷いみたいだよ。早めに出たがいいかもしれんね。」


まず、おじさんのこの「交通情報の報告」である。この報告が入ると僕は泣く準備に入る。


「そうですか。ほな、はよ出んと。ぼちぼち出る準備しよか。」


と父親が言い、


「はい!あんたらも荷物まとめるの手伝ってや」


と母親が僕たちに言う。ここで、涙が出てくる。


玄関を入って、廊下があり、この廊下に面して大きな和室があるのだが、涙を流しながら僕はその和室へ移動する。この和室は毎年僕が泣く場所である。


この和室、30畳くらいあって、真ん中で仕切れるようになっており、廊下側から見て奥側に仏壇などが置かれている。僕が泣くのは廊下に面した手前側。


荷物手伝いを放棄し、和室で涙を流しているとおばあちゃんが来てくれる。そしておばあちゃんが、僕の頭をなでながら、


「そげ泣かんでも、またすぐこれーわね。来年も待っとーけんな。」


とても優しい口調で言ってくれる。これで完全にアウト。


?


「うわーん、嫌やー!帰りたくないー、うわーん」


?


わんわん泣きだす。泣く僕を見て、妹も弟もわんわん泣きだすのだが、泣きながら荷物をもってスタスタ玄関を出て、軽快な足取りで車へ向かう。薄情な奴らである。


Tくんも泣いてくれる。でも、Tくんは泣かれる姿を見られたくないので、早々に外へ出る。島根のみんなは車のところまで出てきて見送ってくれるので、全員が外へ出ていく。


僕は毎年、納得いくまで泣いてから家を出るので、父親も母親も僕を置いて先に家を出る。なので、毎年僕は一人になってからもしばらく泣き続ける。


ある程度泣いて、帰らないといけない現実を受け入れ、車へ向かおうとしたときである。横に誰かが立った気がした。


おばあちゃんが迎えに来てくれたのかと思って顔を上げると、そこにはだれもいない。風鈴が「チリーン」と涼しげな音を奏でているだけだった。


(あれ?今、絶対だれかおったぞ。)


気のせいとは思えなかったので、


「おばあちゃん?、Yおばちゃん?」


と周りに声をかけてみたが、反応がない。


(おった気ぃしたけどなぁ)


気のせいだったかもしれないと自分に言いきかせ、家を出て車へむかった。車の近くでみんなが待ってくれていて、僕が姿を見せると


「やっときたー」


みたいな感じになるので、このときは毎年申し訳ない気持ちになる。


挨拶をしてみんなで車に乗り込もうとしたとき、父親がカードケースか何かを忘れたことに気付き、


「すみません、ちょっと取ってきますわ!」


と言って家に戻っていった。


しばらくして父親が車へ戻ってくる。そしてYおばちゃんをみて、驚きの表情を浮かべ、再び家へ戻っていった。


「お父さん、何してんのやろ??」


母親が不思議そうに呟く。僕も同じ気持ちだった。そして、再びみんなが待つ車へ戻ってきた。


「Yさん、ずっとそこおった?」


母の姉のYおばさんに父が聞く。


「ずっとここおったよ。どげした?」


「いや、おったなら大丈夫。みなさん、ほんまにお世話になってありがとうございました。」


明らかに父親はおかしな様子だったが、お礼を言って車に乗り込み、母の実家を後にした。


毎年、このタイミングで島根のおばあちゃんも泣く。その姿を車から見て、また僕も泣き出す。


父親の様子がおかしい以外は、いつもの別れ際の光景だった。


〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「何があったん?」


車で走り出し、しばらくしてから母が尋ねる。そして、父が静かに答える。


「Yさんがおった。忘れもん取りにいった時にな、Yさんが家におった。」


「何言うてんの?Yさんずっと車のとこにおったよ」


「いや、はっきり顔は見てへんねん。忘れもん取って出ようとした時、玄関にYさんと同じ服着た人が立っとったんや。Yさんと思い込んでたから、なんか用事あって家戻ってきたんや思って、特に声もかけんとそのまま出てきたんや」


静かに父の話を聞き続ける母。僕は父の話を聞きながら、


(あの人や。僕の横に立ってた人や。やっぱり気のせいやなかってんや。)


と思っていた。父が続ける。


「ほんで車のとこ戻ったら、Yさんがおったからびっくりしたんや。すぐ家の玄関戻ったけど、もうYさんの服着てた人おらんくなってたわ。」


母が納得した表情で静かに言う。


「E姉さんや。E姉さんが挨拶に来てくれたんやわ。Yさんが今日着てた服な、E姉さんの服なんよ。」


母が少し涙目になっていた。


幽霊とかそういう非科学的なものを信じる、信じないは自由だと思うが、僕の母は信じている。


僕の偏見かもしれないが、島根県の方はそういったものを疑いなく信じて、大切にする傾向があるように思う。そして、それは素晴らしいことだと思う。ちなみに、僕も信じている。母の子なので当然といえば当然だが。。。


「そやったんか。」


父が言う。父は実際に見ているので、母の話を受け入れやすかったようだ。


「E姉さん、見送ってくれたんや。」


母が言う。半分涙声になっていた。


僕はEおばさんに会いたかった。横に立っていてくれてたと思う。


(出てきてくれたらよかったのに。僕がびっくりすると思って隠れたんかな。)


そんなことを思った。


もちろん実際に見たらびっくりするだろうが、それでも、小さな僕を可愛がってくれた母の姉に会ってみたかった。


「Eおばさんって、来年も来てくれる?」


母に尋ねる。


「会えるかはわからへん。でも毎年お盆には帰ってきてるよ。あんた、会いたいの?」


「うん。」


「来年、また見送ってくれるかな。会えたらええな。」


「うん。」


横で寝ている妹と弟を見ながら、会うなら兄弟3人一緒がいいなと思ったりしていた。


「お母さん、風鈴欲しい。」


「田舎にあったからか?うちつけるとこないけど、欲しいなら買ったらええわ。」


Eおばさんがいたところに風鈴があった。風鈴の音色を、無性に聴きたくなっていた。


「お前はうちのオヤジに会いたいとか一言も言うたことないくせに!まだお盆やから大阪帰ったらうちのオヤジもおんねんぞ!」


父が言う。


「大阪のじーちゃんにも会いたいけど、酔って帰ってきてないんやろ?」


「そやったわ。よー酒飲んだからなぁ。はははー。」


「はははー。ちゃうわ!ちゃんと大阪のおばあちゃんのとこ行って線香あげなあかんで。」


母が言う。


「うん。わかってる。帰ったらちゃんと行く。」


(大阪に帰ったらおばあちゃんの家に線香をあげに行こう。行く前に風鈴を買ってからにしようかな。大阪のおばあちゃんにこの話をして風鈴を鳴らしたら何て言うやろ。でも、仏壇の前で風鈴鳴らしたら、「ややこしいことすな!」って怒られそうやな。)


そんなことを考えていたら笑っていたようだ。


「あんた、何笑ってんの」


「なんでもない」


?


車が大阪を目指して走る。


でも、僕には車が大阪に向かってではなく、夏の終わりに向かって走っているように思えた。


和室の横にあった風鈴を頭の中で鳴らしながら、母の実家方面を見る。


(Eおばさん、また来年ね。)


心の中で、そうつぶやいた。


太陽に照らされた宍道湖の水面が、優しくゆれていた。






結局Eおばさんは、この時だけしか気配をみせてくれず、その後会うことはできませんでした。会いたかったので残念です。


島根のおばあちゃん、大阪のおばあちゃん、今回の話に出なかったですが島根のおじいちゃん、当時はみんな元気だったのですが、今はみんな亡くなってしまいました。


でも、教えてもらったこと、もらった優しさは一生忘れないと思います。


最後まで読んで下さりありがとうございました。


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