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第五話 冷えた再会

家に帰って居眠りこいたらこんな時間な投稿になってしまいました。

 紅憐と樋上の会話から丁度一時間後、蓮に連れられた蒼耀達は武神の本邸に到着した。


 巨大な木製の正門を目の前に、イルマは感想を呟いた。


「『私の城』よりも大きくはないか? この屋敷」

「そこまではでかくないって。敷地の面積だけを見れば数倍近くあるけどな」


 蒼耀は門の両端に広がる深い緑を見渡す。

近辺の山一帯は全て武神の所有物。そんな広大な敷地を、わずか六十名の人間が暮らしているとなれば、土地の贅沢としか言えない。武神がいかに権力を有しているかを測りすることが出来る。伊達に国家から仕事を受けていない。


「……というか、それだけ長いのなら、車の一つも出すのが礼儀では無いのか?」

「そこは期待するなって言っただろ。極論、話をすんなりと聞いてもらえるだけでもめっけもんだ」


 正直な所、こうして屋敷の門を見るまで一週間かそれ以上の時間が必要だと蒼耀は考えていたのだ。家を勘当――自分から出たのだが――された身で、血縁者としての繋がりを利用できる筈もなく時間がかかるのは覚悟していた。


「まぁ、今後の事もある、これを機に日本でも少しは仕事を仕入れとくかな?」

「やれやれ、面子をこだわる相手には苦労をさせられる」


 その面子を重んじる一族の者の後ろで堂々と文句を垂れる二人だが、それを背中に受ける蓮は表情を変えずに門番との話を続ける。門番は蒼耀達の会話を耳に嫌な顔をするのだが、蒼耀達は完璧に無視を決め込んでいた。


 門前に到着してから数分を要してから、門の脇に備えられていた小さな扉が開かれた。


「では、私に付いてきてください。奥で紅憐様がお待ちです」


 蓮は一度振り返ってから、解放された門をくぐり抜けた。それに続き蒼耀、イルマと続いて屋敷の門内に足を踏み込んだ。途中、門番とのすれ違いざまに侮蔑の眼差しを頂戴するが、イルマは足を止め、好戦的に門番を見据えた。


「ほぅ、我らに何か言いたいことでもあるのか? 下郎よ」

「──ッ!?」

 少女の血の如き紅の瞳に射抜かれ、門番は一気に顔を蒼白にさせた。瞬きほどの間に感じ取れた『魔』の気配に、気迫を根こそぎ吸い取れる。


「……イルマ?」

「何でも無いぞ? さぁ、行こうか」


 立ち止まった相棒に蒼耀は顔半分だけ向けて声をかけるが、イルマは何食わぬ顔で返事をする。門番を睨みつけた時とはまるで別人のような表情。蒼耀は首を傾げるだけで言及することは無く、顔の向きを戻して紅憐の後に続いた。


 

 本邸――宗家とそれに深く関わりを持つ者達が暮らす、他と比べて一回り大きな屋敷。そこへたどり着く過程の道を半分ほど消化したところで、蒼耀はゲンナリとし始めていた。

「歓迎されちゃいないとは思ってたが……」

「もうぶっちゃけ、『敵地』だな」


 身も蓋もないイルマの呟きに、蒼耀は頷くしかなかった。


 視界に人影は写らないが、遠目から放たれるプレッシャー圧力は気が滅入る思いだった。さりとて気にするほどでもないが、気持ちの良いものでは無い。


「本当にお前の実家か?」

「悲しい事にな」

「蒼耀が家を出たくなった気持ちが、多少は理解できた気がする」

「そりゃどうも」


 投げ遣りな返しになるのは、ストレスを耐え忍んでいる為である。覚悟していたとはいえ、それだけで心の底まで納得できるほどに彼は歳を重ねてはいなかった。表に吹き出しはしなかったが、大いに不満がたまる。


 そうした針の筵の如き道中を過ぎると、ようやく目的の本邸にたどり着いた。


「ちゃんと靴脱いでけよ」

「そこまで常識離れはしておらんて。分かっている」

「でも、脱いだ靴は持ってかないんだぞ?」

「わ、分かっておる。これはあれだ……、緊急事態が起こった時の為だ……」

「おーけー。だったら靴はちゃんと置いていこうな?」

「う、うむ………」


 などとどうにも間抜けなやり取りから数分、蓮は本邸奥の一室の前まで二人を案内した。


 両開きの襖を前に蓮は一度座し、僅かに戸を開く。

 既に中で待つ者に了解を取る。


「紅憐様、お連れしました」

「御苦労さまです。通してください」


 主の許可を得て、式神の少女は襖を音も無く開いた。


 広い和室の上座に、一族の頂点である少女は静かに正座をしていた。


 黒く長い髪は、外から差し込む柔らかな日差しを艶やかに反射し、目を閉じて正座する様はそれだけでも絵となる美しさを漂わせている。十七歳の年齢にしてほとんど女としては完成しており、後に数年もすれば誰もが羨むほどの美女に成長する事を想像するのは容易──そんな少女だった。


 何よりも目を引くのが、三年前に別れてからは想像もつかないほどに成長を遂げた──お胸様。


「ほぅ……」


 蒼耀は妹の成長に感心するように目を細めた。相棒の少女に比べれば僅かに劣るが、それでも日本人としては最上に位置する胸。兄としては誇らしげに思った。


「……ぃしょっと」


 もちろん妹相手にそんな感想はおくびにも出さず、あらかじめ用意されていた座布団の上に腰をおろす。イルマも、その隣に置かれた座布団に正座の形で座った。


 二人が腰を下したのを音で確認してから、ようやく上座の少女は目を開く。


「お久しぶりですね、蒼耀兄さん」

「……ああ、久しぶりだな、紅憐」


 三年ぶりの兄妹の会合。イルマの眼から見てそれは肉親との再会と呼ぶにはどうにも遠い印象を受けた。


(感動の再会──という感じではないのぉ)


 などと考えていると、イルマは向けられた紅憐の視線と目が合う。


「兄さん、そちらの方は?」

「あ? ああ、俺の相棒だ」


 蒼耀の目配せに、イルマは自らの名を語った。


「イルマスカ・クリムゾン・ブラッドロードだ。以後、見知り置け」


 傍若無人な口調に、紅憐は気分を害した様子もなく自己紹介を返した。


「初めまして、イルマスカさん。武神家の宗主代理を任されている武神紅憐と申します」

「……代理?」


 蒼耀は眉を潜めた。


「なんだよ、代理って? まさか、親父が宗主の座を手放してないのか?」


 権力に固執する傾向はあったが、有能である娘に名を継がせないほどに馬鹿な男では無かったはずだ。それどころか、蒼耀に向けられなかった愛情を、娘への対応に上乗せするほどの溺愛ぶりは記憶に深く刻まれている。蒼耀が凡庸な神経と心根の持ち主であれば、今頃はとんでもなく捻くれた青年へと成長していただろう。


 紅憐は首を横に振って否定を現す。


「父は三年前の儀式で、宗主としての立場を返上しています」

「だったらなんで?」

「お忘れですか? 継承の儀での勝者が誰なのかを」


 ──継承の儀。


 それは、当代の宗主が次代の者にその一族の長としての立場を継承させる場であり、複数の次期宗主候補の力を競い合わせ、より強い者が宗主の名を得る者を選出させる為の仕来たりでもある。

 

 三年前の儀式。時の候補者は二人。


 武神蒼耀と武神紅憐。


 勝者は、無能とされていたあに蒼耀だった。


 ──だが、宗主の名を受け継ぐべき蒼耀は、すぐさま権利を放棄した。


 当然、空位になった宗主の座には、残された紅憐の手元に移行する。長年蔑んでいた者の従うという屈辱を味わう必要もなく、また歴代有数の才能を持つとされている紅憐が宗主となり、一族の者は揃って胸を撫で下した。


 ──筈であった。

さすがにそのまま原文をぶっこむと許せないレベルの部分もあったので、極力は過去のままですがところどころに加筆や削除を盛り込んでます。


改めて読み返してみると、会話の一つ一つに説明が入り込んでて話のテンポが悪い。そんなわけで、不自然にならない程度にちょいちょい決して無駄な部分をなくすように手直しはしました。


あ、金髪ちゃんも妹ちゃんもたわわでございます。(金髪ちゃん>妹ちゃん)

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