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物作り異世界小説紀行

物作り小説を三作書いたので、「ものづくり」について考えてみた

 錬金術にて薬を作る。

 刀鍛冶にて日本刀を作り上げる。

 畑を開墾し、今までになかった考えの料理を作る。

 よろず屋として人々のためになる商売を行う。


 こう言った異世界と言う文明レベルが低い世界に、地球からやって来た者達が学んで来た知識を活かして物を作る、いわゆる「ものづくり」を扱った小説。

 私はここ数日、そういった「ものづくり」をテーマとして扱った小説を三作書いて来た。

 これはその三作を書くに至った経緯、伝えたかったテーマ、そしてこの三作から自分なりに見えてきた「ものづくり」と言う者はなんなのかを私なりにまとめた物である。

 なお、もし良かったらこのエッセイを読んだ後に今回紹介する三作を是非とも読んで欲しいという自分の想いは、今ここで伝えて置こう。




 まず、第一作。

 タイトルは「サキュバスが愛した靴屋」という、「靴作り」をテーマにした小説である。

 これはとある作品で情熱的に女性の脚について語る脚フェチの想いが詰まった作品を読んで、「脚を美しく見せるのはどう言った人達だろう?」と思って作り始めた小説だ。

 この小説では職人のプライドと言うのが印象的に見えるように作った作品である。

 職人にはプライド、つまりは自分が作る商品に対して「こういう人に履いて貰いたい」「こういう考えを理解して欲しい」という物を作る上での考えがある。

 小説家だって書いている中で「この文章を読んで感動して欲しい」「ここはこの前のあれが伏線なんだが分かって貰えるかな?」などと言った、"小説を書く上でのプライド"があるだろう。勿論、私にだってある。


 この小説では2人の客が登場する。

 どちらも自分を飾りたてるためとして靴を求めに来た訳だが、1人目の客は作り手である職人に対して「どうしたら作ってくれる?」などと聞いて職人の意思を尊重し、2人目の客は作り手である職人に対して自分は上客……金を払う敬うべき存在であるから早く作れと言って職人を単なる物作りを行う機械のように見ている。

 職人気質な主人公はこの2人のうち、初めの1人目は渋々作っていたが、2人目の客には殺されそうになるも断固として作ろうとはしなかった。

 簡単そうに言っているが、もしそれが自分だったらどうする?

 例え死にそうな事に成ろうとも、プライドを取って物を作らないだろうか? いや、そんな事が出来る人間は少ないんじゃないかと自分は思う。

 誰だって自分の命は大事であり、なにより相手は大金を払って自分の作ったのを買おうと言ってくれるのだ。断る理由がないだろう。

 しかし、そこで妥協することなく行う、それこそが真の職人気質であると自分は考える。

 例え自分の命が失われる危険があろうとも、自分の作った商品を売る相手を選ぶ。これこそが真の職人と呼ばれる者達の考え方じゃないんだろうか、私はそう考えてこの小説を作った。

 

 確かに一見するとこの小説は、靴作りに対してまだまだあまい所がある革細工などを軽んじている小説であると感想にも書かれた。

 けれどもそれは違うのだ。私が本当に伝えたかったのは、「職人と言うのは例え自分の命が危機に陥ろうとも、相手が貧乏な相手であろうとも、自分が商品を渡したい相手を見極める。そう言った人達である」と言う事である。




 続いて第二作目。

 タイトルは「砂漠の職人とチョロツン勇者」と言うもので、ガラス職人を扱った小説だ。

 この小説では砂漠で活動するガラス職人という物を題材として扱ったのであるが、これは「どうしてこんな場所にてものづくりを行っているのか」という"どうしてこの場所で"という所に焦点を当てた作品である。

 世の中には"どうしてここで行っているのか"というくらい、辺境の場所で職人としての活動を行う人が居ますが、どうしてなのか?

 それには私達には最初は分からないけれども、ちゃんとした合理的な理由があり、それを聞くと納得出来ると言うのがあるのです。

 日差しが熱い砂漠という悪趣味な立地で、熱で溶かすために高温が必要なガラス職人と言うのは確かにミスマッチのように思えるかもしれませんが、実はガラスと砂漠には密接な関係があるのです。

 そのために砂漠の中にガラス職人の工房があるのです。


 田舎の住宅街にて機械ペットを修理したりていたり、ジャングルの奥地にて超精密機械の工場があったり、逆に都会なのに布の細工の工場があったりと、案外ミスマッチなように見えて実は合理的なのだ。

 都会で、なんでも手に入るような場所で物を作るのは良いけれども、だからと言って辺鄙な場所であろうともちゃんとした作業と言うのは出来る。そして密林の奥とか、人里離れた場所とかではなく、物作りにはそれに適した場所と理由があるべきなのである。




 そして最後の三作目。

 『異世界ただ1人の桶職人さんがドラゴンに愛されている件。』と言う作品で今回は桶職人として作品を書いてみたのですが、今回焦点を当てたのは"引退"です。

 どの職人にも引退、引き際という物がありますが、特にマイナーで後継者が居ない職人として"桶職人"を選んで、「どうして後継者が居ないの? どうしてそれでも続けるの?」と言うのを分かるように書きました。


 この作品で書いたように現実の桶職人、巨大な桶を作る職人さんは減少傾向にあります。むしろこのままだと巨大桶は私達の前から消えます。

 後継者を増やして伝統を繋げよう、と言う動きは地方でも良く見られますが、それでも無くなる物はあります。

 そして私は、どうしてそれが無くなっているのかを考えて、それを回避する手段ではなくて"どう言う心境なのか"、"どのように商品を大量に売り込むのか"と言う事を考えて作りました。

 どの職業でもいずれ後継者が居なくなり、消えていく運命からは逃れられません。

 それでもその職業を残すにはどのような魅力が必要なのか、今回の三作目はそこを考えました。




 さて、どのようにしてこの三作を作ったのかを説明してきましたが、実は一番大事な事を言い忘れていました。

 それはこのエッセイをわざわざ作った理由です。この内容は正直に言えば、活動報告やツイッターなどで説明すればいいのでしょう。

 しかし、このようにしてわざわざエッセイで作った意味を今言います。


 それは――――"物作りを扱った多くの小説で、こう言った事が一切描かれていない"からです。


 職人としてのプライドも、「この人に俺の商品は渡せない」と言う気持ちは同じだとしても、私が伝えたいような「この人は俺の商品をダメにするだろうから渡せない」「この商品に相応しくない」とか物に対する心配ではなく、多くの「ものづくり」小説では「こいつには渡したくない」「こいつは嫌だな」とか言うその人の好き嫌いが入っていると思います。

 自分が作る商品に対する理解よりも、その人の好き嫌いで渡す渡さないを選ぶのは職人ではありません。ただの子供(ガキ)です。


 それに場所も普通に都会などの人が多い場所、もしくは普通に人が少ない山里が多いです。

 場所と作る物の関連が「ものづくり」にきちんと関係している作品なんて少なくて当たり前だけれども、出来ればそう言った「そこに合ったら自然だな」と言うのがあると読んでいる方としても嬉しい限りです。


 そして、引退問題!

 これが一番少ない!

 ……まぁ、どうしても暗めの話になりそうだから仕方がないとしても、そう言った道があると言う事を考えて欲しいです。



 職人としてのプライド、場所と作る物との関連、職人の引退問題。

 こう言った3つが起こる問題として、「ものづくり」を"手段"として用いているからです。

 「ものづくり」を世界を、いや自分自身がより良くなるために用いているのであり、そこに職人としての生き様を描く気はないのです。ただの手段に対して、そんな深い事を書く必要を感じていないのでしょう。


 この3つをきちんと書ききって初めて、本当の"職人"という物が書けると思います。 

 もしあなたが、ちゃんとした「ものづくり」の"職人"という物を書きたいのならば、この3つの点がある事を意識した方が良いと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物作りの作品は基礎が大事です。 着眼点はいいと思います。 [気になる点] 何故、異世界物にしたのか気になります。 [一言] 現実の世界で、天才が新しい発想をして、世の中にいいできものを作る…
[一言]  まずはその書かれた三作を見てみなければ何も言えないと思うのですが、せっかく読ませていただいたいので、感想だけでも。  職人に対してどういう思い入れがあってそのような要素が必要、という風に…
[一言] 架空、異世界が舞台であれば、それは、作り手の人が設定する世界観なので、問題はないかと思います
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