逆ハーマジ勘弁にかかわる物語。~残念ながらリロイは今日もシスコンです。~
従者の観察日記。そのに
〇月℃日
王太子殿下の元婚約者のエレクトラ様から呼び出しを受ける。
妹様の案件をどう伝えるか悩む私に、
「貴方の主を私に下さい」
との言葉と共に頭を下げられる。
驚きである。
普通男女逆だろう。
エレクトラ様は男気にも溢れていらっしゃった。
私はリロイ様が重度のシスコンであることを打ち明けた。
エレクトラ様はいい笑顔で「知ってますわ」とおっしゃった。知ってるならばよいかと思う。エレクトラ様の予想内のシスコン程度だといいのだが。
リロイ様はシスコンがなければ欠点らしい欠点もない上、色々背負い過ぎて頑張りすぎる所がある。
それは少しでも速く跡を継ぎ、姉君がまた領に訪れる事ができるようにするためでもあるし、自領を守るためでもあるのだ。
エレクトラ様は大変有能であるからリロイ様に知られずに手助けしたり、さりげなく力になることがとてもお上手である。
彼女が生徒会代理となってからの手腕は、王太子を軽く越えるものであることを感じずにはいられない。
王太子もまぁ優秀かな位に思っていたが、エレクトラ様ははるかに優れている。
悔しながらリロイ様を越えているかもしれない。
ただし!
心の優しさと寛容さはリロイ様が不動の一位であると自信を持って言える。
今は亡き、リロイ様の伯父に当たる旦那様に似ていらっしゃる。ちなみに旦那様は殿堂入りなのでランキングすることもおこがましい存在だ。
いつかリロイ様もそうなるだろうと私は信じている。
ちなみに姉君も優しくて寛容さも持ち合わせているがシビアさも兼ね備えているので、リロイ様とはまた違うといえる。
脱線したが、そんな優しいリロイ様には腹黒で有能なエレクトラ様がお似合いである。
必ず幸せにしてください、と花嫁の父の心境のような感じで私も頭を下げた。
そして妹様の事を伝える。
きっと愛するリロイ様の為にエレクトラ様ならばどうとでもしてくれるはずだ。
ついでに妹様の調きょ…いや、更正してくれないだろうか。
このままではリロイ様の不幸の種にしかならない。
リロイ様がシスコンでなかったら、ただの完全無欠の有能で顔がいいだけの野郎となり将来はげろと呪われたかもしれないので、シスコンで丁度よかったのかもしれない。
シスコンでなければあの少女の毒牙にかかっていたのだろうし。
シスコンなリロイ様だからこそ今がある。
シスコンは偉大なのかもしれない。
○月¥日
街で姉君と会う。
リロイ様は偶然ですねっとはしゃぐものの同行しているエレクトラ様の策略であろう。
知らぬはシスコンばかりなり。
○月$日
姉君の夫のヴェスト殿がいらっしゃった。
コラボ商品と企画の打ち合わせの為である。
側に控え、リロイ様のお茶を出すついでに他の皆様のお茶も出す。
昔、ヴェスト様も姉君と結婚する前私や使用人達、姉君の知り合いに姉君を俺に下さい、と頭を下げて回った人であった。
もちろん公爵夫妻や妹様、当然リロイ様になど一言も無かったが。
似たような人に愛されるなど、流石はきょうだいである。
○月¢日
リロイ様が最近早く帰れるようになってきた。
特寮の夕食をご友人や最近親しくなった方々と取る事も多くなり、声をあげて笑って話す事もありひと安心である。
安定のシスコンっぷりを発揮するので、妬まれたりすることも少ないようだ。
○月£日
リロイ様の最近できたご友人に、姉君に対して危ない恋情を抱いていないか心配され、話を聞かれる。
リロイ様は知らないが姉君とは本当の姉弟ではない。
今は亡き伯父夫妻の一人娘であったが、リロイ様の生まれる前に引き取られたのである。
伯父夫妻は一部や外国ではそこそこ有名な方なので少し調べたり知識があればお二人がきょうだいでなくいとこ同士だとすぐに分かるだろう。
いとこならば結婚に枷はない。
しかしながらリロイ様の姉君への愛情は幼子が母に向けるような愛情そのもの。
禁断の愛欲は無い。基本姉君がにこにこしていれば幸せなリロイ様は、恋愛的情緒が幼いのだろう。
だからこそあの少女に対して、貢いだりせまったりしなかったのだ。一緒に居られるだけで幸せになっていたリロイ様はちょろかったに違いない。
枯れている、とも言える。
最近禁断の愛というか性の本が特寮の男性寮にも回ってきたせいだろう。
庶民と貴族の壁が無くなってきているようだ。
巷に流行るそのたぐいの読み物の妄想設定は実現しないと分かってながら多くの男性が熱心に見ているようだがリロイ様にはまだ早い。
リロイ様の姉君への愛は幼子の母への思いということと、天然系童貞なのでそっとしておいてほしいと告げると、ご友人はがっかりしつつも請け負ってくれた。
○月%日
特寮の食堂から帰ったリロイ様が
「みんなが盛り上がっている所に行くと、リロイにはまだ早いからって微笑まれて話に混ぜてもらえない」
と、言って落ち込んでいた。
リロイ様にはまだ早いのです。
しょんぼりしてもイケメンなので泣くまでくすぐっておいた。
ぷりぷり起こりながら就寝して、落ち込んだ内容はどこかに行ったようである。
よかったよかった。
○月#日
公爵領からミニチュア薔薇等の鉢植えが数株送られて来たので、その配達した者をつれて姉君の所に向かう。
リロイ様にはいつも世話になっているエレクトラ様にお礼をこめ渡すように言い含め出掛けていった。
配達者達はアリシャ商会でもてなされ泊まっていくことになった。
リロイ様は無事エレクトラ様に鉢植えを渡せたそうなので、たくさん誉めておいた。
エレクトラ様は旦那様達のお話をご存知なはずなので悶々とするはずだ。
リロイ様は天然過ぎるのでエレクトラ様にガンガンいっていただきたい。
○月&日
あの少女がクッキーを持ち、リロイ様の元に訪れた。
毒味のため、クッキーを細分化し確認しようとすると少女が「せっかく作ったのにひどい!」と泣きわめき、とんできた取り巻きの騎士団長の息子様に殴り飛ばされる。
壁に叩きつけられたあげく鼻血が出たあげく口のなかも切り血を垂らすはめになる。
なんとか喋れたので昔からリロイ様のお腹が弱く慣れないものを食べるとお腹を壊し下痢しやすいので大丈夫かどうか調べされてもらったのだと一応頭を下げた。
腐っても庶子だったとしても王族の血が流れているのだから理不尽でも仕方がない。
どうしても下痢で苦しむリロイ様は見たくなかったとしつこいくらいに言い続けたら、少女は撤退していった。
クッキーは騎士団長の息子がさりげなくしっかり回収していって俺が食べる!と少女に言って仲良しこよししていた。
半泣きのリロイ様に連れられ医務室に行くこととなったので人通りの多い道を選んでいくことにした。
○月*日
殴られて顔半分が腫れた私をリロイ様は大層心配しお願いだから今日明日は休んでくれと懇願されたので休みとなった。
日中や放課後、知り合いの方々やリロイ様の友人方がお見舞にきて下さった。
男性陣からは本が多かったが慎んでお返しした。
うっかりリロイ様の目にとまっては教育上よろしくない。
オマエもリロイとお仲間かと言われたので、私の学生時代やその後の華々しい愛欲事情を図解で説明するが、お願いだから絵はやめて!話だけにして!頼むから!と懇願された。
何故だろう。
○月@日
騎士団長より息子が申し訳ないことをした、と直接謝罪される。
エレクトラ様が騎士団長の後でにっこり微笑んでいたがその笑みは黒かった。
謝罪を受け入れ、ご子息の現状を図解して説明すると騎士団長は頭を抱え、エレクトラ様の笑みはひきつり図解だけはお止めなさい、と言われる。
何故だろう。
○月§日
顔の腫れがなかなか引かないので、生徒会室への出入りは控える。貴族の子女にとって暴力にさらされた様は刺激が強いらしい。
授業中に職員室等には顔をだし、かつての同級生の手伝いをしたりし、リロイ様への負担軽減を願っておく。
授業に使うという資料図の模写も手伝おうとはりきるがお願いだからやめてくれと止められる。
親切心が台無しにされた。
○月☆日
あの少女が同級生の手伝いをしていたところにやって来る。
私の怪我を見とがめて、大丈夫ですか?顔に怪我をおわせるなんてひどい!とわめく。
お前の前で怪我したろうが。
半笑いの同級生がやんわり少女を追い払ってくれなければ詰めよって泣かせていたかもしれない。
胸糞が悪い。
○月○日
同級生の手伝いの帰り、ばったりエレクトラ様に会う。
ご挨拶申し上げると、驚いていたようであった。
服装が違うが髪を下ろして、片眼鏡をかけていないだけではないかと思うが別人に見えるらしい。
あの少女が気付かなかったのは無理はないのかもしれない。頭も尻も軽そうだ。
○月◎日
同級生に泣きつかれ、資料作りを手伝う。
ただ文章を簡潔にまとめあげ、必要な物の手配をしたぐらいで天才呼ばわりとは聞いてあきれる。
外向けにはインテリ風チャラ男で通している教師の癖に嘆かわしい。
またあの少女がやって来てクッキーを渡してきた。
よく知らない料理の腕も未知数な女の手作りには良い思い出がないので、即行でインテリ風チャラ男の口に入れ毒味をさせる。
問題ないようだったので同級生に渡してその場から去った。
少女がわめいていたかもう一度殴られてはリロイ様が心配するので三階の窓から避難する。
元田舎育ちなのでこれくらいは問題ない。
○月◇日
姉君と街で会ったので先日の話をすると大爆笑される。
呼吸困難になりながら、黙っていれば謎の美形で通るのにねーと言われるがリロイ様に比べたらそこそこ顔がいいだけの普通の男だろうと思う。
だが、リロイ様と比べるから美醜の感覚がおかしくなるんだと突っ込まれる。
姉君とリロイ様の顔面格差はあるが、私としては姉君の顔も十分愛らしく、好ましいと答えると何処からかわいたように出てきたヴェスト様が「こいつは俺の嫁だからな!」宣言をなさる。
知っている。結婚式だって参列したではないか。
姉君はひたすら大爆笑して肺が痛いと言っていた。
○月□日
片眼鏡をうっかりリロイ様が踏んで壊してしまったのでそのまま過ごす。
別に目が悪いわけではない。
昔、リロイ様が片眼鏡をかけた者を見てカッコいい!とはしゃぎ、自分でもつけてみたいとねだったがあまりにも似合わず、私がつけてみたら非常によく似合っていると誉めたのでそれ以来従者として過ごすときは着けるようにしていた。
そんな由来を話すとエレクトラ様に「重度のリロイ様バカね。」と言われた。
○月△日
リロイ様がエレクトラ様の非公認ファンクラブに呼び出しを受ける。ちなみに女性ばかりのファンクラブである。
最近エレクトラ様の隣にいるのが気に入らないようだ。
エレクトラ様の素晴らしさを語り始めるファンクラブ。これは本人が聞いたらお願いやめてそんな風な人間じゃないのぉぉと叫んで全身をかきむしりたくなるくらい美化され、神格化されている内容だ。
リロイ様もドン引くだろうと心配したが流石はリロイ様である。
エレクトラ様の事を誉めたうえ、姉君のように素晴らしい!と安定のシスコンっぷりを炸裂された。
ファンクラブはエレクトラ様の事を、リロイ様は姉君の事を、本人達が聞いたら鳥肌ものの美化具合で互いに好きなだけ話し合って別れていった。
さすがの私も鳥肌がたち震えた。
後で本人たちにも話してあげようと思う。
☆☆☆☆☆
「ねぇじいや、これは何?」
「猫です。」
「ねぇじいや、これは何?」
「リロイ様です。」
「じいや、どれも同じに見えるしすごくこわいよ。夢に出てきそうでこわいよ。」
「そうでしたか、ちっともそんなこと分かりませんでした。」
「じいやにもわからないことあるんだね~」
「たくさんございますよ。」
黒髪のお坊っちゃまの髪を撫でながら、ようやく私は自分の絵が下手だということに気付いたのでした。
長年の謎がひとつ解けて晴れ晴れするやら少し悲しいやら。
日記を読み返して何気なく絵を描いてみてよかったのか悪かったのか。
とりあえず長年の疑問はとけたのでよかったのかもしれない。
従者は絵が下手と言う言葉にまとめるだけではおぞましいほど絵の才能がなかった。
そんな真実。