アリの声
つるはしをかついだアリが言った。
「やれよ」
私は試しに働いた。
つるはしをかついだアリが言った。
「だらしねえな。それっぽちしかできんのか」
私はひと休みした。
つるはしをかついだアリが言った。
「食っていけねえぞ。バカか」
私はもう一度働いた。
つるはしをかついだアリが言った。
「そんなもん、働いたうちには入らん」
私はひと休みした。
つるはしをかついだアリが言った。
「足手まといのカスだな」
私は立ち上がる気をなくした。
つるはしをかついだアリが言った。
「クズめ。きさまのせいで、ひどいことになった」
私は寝転んで空を見た。
つるはしをかついだアリが言った。
「不要品が」
私はあくびをした。
つるはしをかついだアリが言った。
「 」
私は目を閉じた。
つるはしをかついだアリが言った。
「 」
私には聞こえた。
つるはしをかついだアリの声。
「お前がいとわしくてたまらない。お前がいとおしくてたまらない」
私は知っている。
つるはしを肩から下ろせないアリの泣き言。
私を呼んではいけないアリの嘆き。
どこまでも続くわだちに沿って行軍する行方への憂い。
アリの六本足のうちの一本は、幼子がたわむれにもいだ。
憐れんだ神がヘルメットを与えた。
そのアリは神の憐れみに感謝して群れに戻ったが、群れについて進み行くのは大変だった。
ヘルメットは重かった。
目立った。
それは、特別な存在である証しになってしまった。
降り注ぐ視線の煩わしいことときたら。
五本足で、重たいヘルメットを支えながら、転ぶわけにもいかなくなった。
アリはつるはしをかついで行く。
一体、どこまで。
聞こえているけど遠い声。
アリの声。
「 」
呼んでいる。
私は。
怠惰に似ている。
不実に似ている。
許容に似ている。
アリの声は。
怒りに似ている。
悲しみに似ている。
愛に似ている。
どれというわけでもない。
返事をするわけでもない。
アリの声。
しかし、私には聞こえている。
私はその声を聞いている。
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