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『勇者』と『魔王』、とは結局何者なのか。

 この「小説家になろう」というサイトに限らず頻繁に見受けられるキーワードがあります。


『魔王』


 そして、


『勇者』。


 ファンタジー作品を取り扱う作家さんの多くが当たり前のように魔王と呼ばれるキャラクターを登場させ、それに対抗する存在としてこれもまた当たり前のように勇者と呼ばれるキャラクターを登場させます。


 皆さん不思議に思いませんでしょうか。


 人類の脅威たる存在が『魔王』と呼ばれている。それはまあなんとなく分かるんですよ。でも自分で自分のこと『魔王』と呼んで憚らない奴って一体なんなんでしょうか? それが特に悪辣なキャラクターでもなくすっげーいい王様だったりするので尚更不思議なわけなんですよ。


 ちょっと考えてみましょう。


 そもそも、『魔王』という称号には一体どう言った意味があるのでしょうか。


 さて、ちょっとwikipediaで調べて見ればわかる程度の知識で恐縮ですが、魔王というのは元来仏教用語です。修行するお釈迦様に刺客を差し向けて悟りを開く邪魔をする悪い存在です。第六天魔王と言う奴ですね。


 仏教からは離れますがキリスト教圏にも似た存在がいます。サタンです。サタンもイエスに色々と囁き込んでやはりその修行の邪魔をします。サタンも同じく魔王と呼ばれますね。


 このことから『魔王』たる称号の意味が見えてきます。


 それはつまり『神の敵』ということです。ただしこの場合の神とは、原則人間側が奉じている神であって、必ずしも『魔王』達が崇めている神であるとは限りません。『魔王』とその支配下にある者達(仮に『魔族』と呼ぶことにします)は人間側と相容れない信仰を持っており、恐らく価値観、倫理観の大きく異なる存在なのではないかと考えられます。魔族と人間は対立し、戦争状態に陥ります。


 でもこれではちょっと足りません。この状況で『魔王』とはつまり人間側の言い草でしかありません。魔族とその盟主たる魔王はあくまで別の神を信仰しているのであって、その視点から見れば別に魔王あるいは魔族は神敵ではなく、ただの君主と民に過ぎないので、『魔』と呼ばれる存在ではないはずなのです。


 では『魔王』が『神の敵』であることを踏まえた上で、それをあえて自称するような状況とはなんでしょうか。


 分かり易い例を二つあげましょう。


 まずは既存の漫画作品。世代によってはご存知でない方もいらっしゃるかもしれません。


 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』という週間少年ジャンプに掲載されていた少年漫画です。


 この作品の『ラスボス』として『大魔王バーン』というキャラクターが登場します。


 ラスボスに相応しい威厳と実力を兼ね備えた強大な魔王です。ネタバレになるかも知れないので、ざっとそのセリフの概要だけを述べますね。


『魔族より人間の方が弱い、という理由だけで神は我々魔族を太陽の光の届かない魔界に押し込めやがった。


 ファック! 俺は地上を吹っ飛ばしてムカつく神をぶっ飛ばして魔羅(仏敵的な意味で)をぶち込んでやるぜ!』



(※かなり意訳しています)



 お分かり頂けたでしょうか。


 彼らの世界においては、大魔王バーンにとっての神も、人間と同じ存在です。そこは変わりません。


 ただ、その世界の神は魔族を冷遇したのです。少なくとも大魔王バーンにとってはそうだった。だから彼は神に反旗を翻し、明確に『神の敵』として『大魔王』を名乗った。そのように解釈出来ます。


 もう一つの例です。


 これは実在の人物です。とても有名なエピソードなのであえて述べる必要はないのかも知れません。


 織田信長です。第六天魔王って奴ですね。


 仏の代理人を名乗る感じ武田信玄に対して、信長は『ファッキンシット! じゃあお前と闘う俺は仏敵たる魔王名乗っちゃうぜ!』みたいな返しをするわけです。私も別に正確な内容を知ってるわけじゃないんであとはggrks。


 どちらにしても、彼らは神(あるいは仏)の存在を認知しています。認知してはいるがその在り方や存在そのものに対して疑念や怒りを抱き、(信長は神仏そのものを敵視したわけではなく正確にはそれを報ずる宗教家達を嫌っていたようですが)そこに敵対する立場を明確にする意味で魔王を名乗ったのですね。


 従って『魔王』を『自称』する者が存在する世界においては『魔族』は『神』とその信徒によって冷遇されていたり、忌み嫌われている存在である方が自然なわけですね。


 『魔王』でありながら完全な悪ではなく、『善き王』であるキャラクターというのは、上記のようなケースになるでしょう。


 実際、この手の『魔王』の典型的な人物像としてはやっぱり織田信長的な性格な印象が多いような印象を受けます。


 またさっきも述べた通りこうして名乗られ始めた『魔族』にとっての救い主、あるいは盟主としての『魔王』の称号は魔族が救済された後も受け継がれ、本来の意味を失うこともあり得ます。


 なのでまあ、なんの脈絡もなく『実はわたくし代々魔王務める家柄でして』とかいうキャラクターにも元を辿るとそういう背景があると解釈してあげるといいんじゃないかな。書いてる方は何も考えてないかもしんないし私も多分書くとしたらそんな深く考えないでしょうけどNE☆


 これはあくまで『魔王』を本来の語源に沿って解釈した場合の話です。


 そうでない文脈で登場する『魔王』も存在します。


 ティンと来たかたもいるかも知れません。


 シューベルトの歌曲に登場する『魔王』ですね。


 この場合の『魔王』がなんなのか、実ははっきり分かってないんだそうです。ただ歌詞の内容だけを単純に読み取ると、「高熱を催す病に罹患した幼い少年が死の間際に見た恐ろしい幻覚」と私は解釈します。


 まあとにかくなんだかよくわからないけどすっげぇ恐ろしい存在を『魔王(元々の字義だと『妖精王』が近いようですが……ええとあれだ、ggrks!)』と呼んでるわけですな。


 この意味で『魔王』を解釈すると、まったく違った意味を持って来ます。『魔王』は神とか別に関係なくとにかくすっげぇ恐ろしい存在で、人間にとっての脅威です。そこで人間は恐怖の念を持ってそのなんだかよくわかんねーけど超怖い存在を『魔王』とか呼んで、その部下を『妖魔』とか『魔物』とか『魔族』とか『魔女』とか呼ぶことになります。


 『魔王』の歌詞を読めばわかる通り、この『魔王』とその部下達は超怖くて割と悪辣な存在です。もちろん自らの贄にするため人を襲うこともあるでしょうが、ただ面白がってなんの意味もなく人を襲ったりするんでしょう。多分。


 このようなケースにおいては魔王は自称するようなものではなく他人から畏怖を込めて与えられるものです。強さの証としてその座を争うようなこともあるでしょう。


 自分で勝手に『魔王』を名乗るのは多分ただの中二病の痛い子ですね。まあ、これはこれで面白いと思います。



 さて、『魔王に対抗する存在』として登場する『勇者』とはなんでしょうか。


 これも同じく不思議な存在です。


 最近続編が描かれてますが『魔法陣グルグル』という作品をご存知でしょうか。その作品の中で『勇者』についてこんなコメントがあります。


『勇者というのは何らかの偉業を成し遂げた者に与えられる称号であって職業のことじゃねーよバーカ』



(※大分意訳してます)



 なるほど。確かにその通りです。職業『勇者』って意味不明です。


 ですが物語に登場するキャラクターの多くは最初から『勇者』と呼ばれて旅立ちます。当然この時点では『勇者』は何もしてません。何も成し遂げていない人間に何故『勇者』の称号が与えられるのでしょうか。


 まず一番分かり易い理由を考えます。


 神官、巫女のような存在が、『これこれこういう人物が人類(あるいは神)の仇敵たる魔王を撃破する』と予言した場合。もしくはは、遥かした昔から『これこれこういう人物が人類(あるいは神)の仇敵たる魔王を撃破する』と伝承されて来た場合。


 この場合、条件を満たしていればそのキャラクターが『勇者』と称されることに特に疑問はなくなります。


 異世界から召喚されて来た人物。さあ抜いて……俺のエクスカリバー……、で、抜いた人物。自然には有り得ない(髪や目の色素、いわゆる聖痕など)特徴をもった人物。


 よくあるのはこういう例ですね。


 ま、このケースでは必ずしも偉業を成し遂げられるとは限らないわけですけどね。


 さて、もう一つちょっと後味の悪いケースも考えられます。


 これは『魔王』によって人類側がかなり追い詰められている場合、起こり得るケースです。


 上記のような予言や伝承がなく、あるいは該当する人物が『魔王』の打破に失敗したような場合も当てはまるかも知れません。


 とにかく人間側の盟主が数撃ちゃ当たる方式で魔王の元に戦士を送り込む。


 この要請に応じて死地に赴く人物のことを、その『勇気』を評して『勇者』と呼ぶわけです。


 十六歳になるが早いがたびびとのふくとこんぼうとひのきのぼうだけで死地に送り出されるドラゴンクエスト3の『勇者』がまさしくこれに当たるんじゃないでしょうか。


 実際アリアハンは最強の戦士であったオルテガを失ってそれなりに追い詰められていたでしょうし、酒場でぬののふくを剥がされたがる命知らずが無限に湧いてくるし。


 変態仮面……じゃなかった、オルテガの息子ということで特別なように扱われてはいますが、あの国では実は十六歳になると強制的に王城に徴用されて『勇者』として旅立つことになるとか、実はそういう話だったとしてもまあ不思議ではないですよね。スタート時点での王様の口ぶりだとそこまでの危機感は感じないですが。


 とにかく、こうして根拠レスに与えられた『勇者』の称号の末路は恐らく悲惨なものです。万に一つ『魔王』を倒してくれるかも知れないけれど、その後のことなんて送り出す側も考えてない。奇跡的に魔王を倒して帰ってきたら帰ってきたで今度は政治的な理由で謀殺される――そんな物語が容易に想像出来ますよね。


 さて段々自分でも何が言いたいのかわからなくなってきました。締めに入りましょう。


 『勇者』とか『魔王』とかそういう存在というか言葉について、それがどう言ったものであるのか、という認識は人それぞれ違います。我々は物語を書く上で、自分がそれをどういう存在として捉えているのか、自覚している必要があります。


 もちろん作中で必ずしもそれを語る必要はありませんが、(私自身にそれができているかはまったく全然オールアバウト別の話として)人を惹きつける深みのある物語においては、そうした『曖昧な存在』についての背景や定義をある程度明確にした上で書かれているように思うわけです。



 皆さんの思う『魔王』とは、そして『勇者』とは、何者ですか?

仏敵のことを魔羅、転じて煩悩(性欲)を生み出す現況であるおてぃんてぃんのことも魔羅と呼ぶことになったそうです。


つまり魔王とは――!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さんの「もし剣」シリーズや、「魔法少女ネームレスホワイト」などに見られるドライな語り口が、説得力と、テンポの良さを生んでいます。 (個人的には『えーと、あれだ、ggrks』が好きです …
2015/03/31 17:52 退会済み
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