三八 カミの原風景、五個パックで三百円以下
プツ、プツプツ。
泡が、、、小さな泡が片手鍋の底に付着した。
プツ、プツプツ。
獅子は、
子を谷に投げ落とし、、、、
這い上がってくる子のみ育てるという。
「是であり、真なり!」
イヤデス・トヨスの品性無い欲望は堪らずに乾麺を片手鍋の底に強制ダイブさせた。
「行け! タイガー」
次の瞬間、映像は金メダルへのスタートを切った水泳選手達の水中撮影に切り替わる。全身に気泡をまとって、次亜塩素酸カルシュームと水中メガネのゴム臭で鼻が痛い。勝利への浮上を開始する選手達。
「行けー、行ったれぇ!」
品性無い。
説明書きとは若干違うと自覚しつつも麺の浮力を無理矢理に押し沈めて解いて、おらおら、らめーん、ぐるん、ぐるぐっと選手達を掻き回す、わお、ああああわ沸いてきた。
「為せば成る、回せば成ります即席麺、世の中こんなものよ。回せば成ります。」
即、、、成り、金メダル?ん。
「世の中こんなものよ。回せば成ります。」
この台詞、幾度か唱えれば、この世の憂さは全て晴れまするぞ、解けまするぞ殿。
ワーォ!
無数のバブルが溢れてガス台から水蒸気が、、、
「ふふっ、ふふ、いい匂いの湯気、昇りやがる」
「立てっ! 立つんだ! ジョー キ」
ふふっ、ふふ、台所の窓、枠に真鍮の鍵がついたガラスがやけに曇っていて、どこかで犬の遠吠えがしやがる。
当時、オレことイヤデス・トヨスの孤独感は脱出衝動にまみれて思わず吠えたくなった午前一時の夜。
文化大革命で本格中華麺が苦しみ、「殺しのライセンス」が東側との冷麺を演じ、日本の高度成長が即席麺に支えられていたあの頃のオレ。
今なら即席麺五個パックで三百円以下なら買いだな。
アナライサーの解析が楽しみだ、オレ的にはね。




