第23話 痛元帥閣下
◇◇◇ダークキット◇◇◇
危ないところでしたね。
この教会に居た天使達の掃討に少々時間を掛け過ぎてしまったようです。
しかし、颯爽と現れ姫君を危機的状況から可憐にそしてスマートに救い出す・・・
これこそが紳士の誉れ!
それを体現できたのです・・・良しと致しましょう。
しかし、目の前の男・・・名は確か・・・神埼 誠也でしたか・・・
儚くも可憐なる少女に対する凶行の数々・・・紳士として到底許せる事ではありません。
相手の能力は無限の再生能力・・・確かに厄介ですが・・・私も不死の王と呼ばれる種族"吸血鬼"・・・
その再生能力で条件は同じにできます。そして、あの魔力の糸・・・私には全く無意味です。
なぜならば、私には魔力をも吸い取る能力が備わっているからです。
ちなみに、我々の一族はこういった特殊な能力を"才能"と呼んでいます。
そしてその"才能"の優位性でもって我が故郷"ロゼルトウル"では、自らの地位が決まるのです。
"才能"が無ければ平民となり、"才能"があれば貴族となる。
更に私は公爵としてロセルトウルの王家に仕える身でもあるのです。
そんな私が、この様な薄汚い人間男ごときに遅れを取る事など無いでしょう。
ダーク元帥
「どうしました?さっきから何か薄汚い糸で何かやっている様ですが・・・私の前では無意味ですよ。」
そう、愚かにも目の前の薄汚い人間の男(誠也)は、私の隙を付き、後ろに控えている姫君に汚らわしい魔力の糸を絡めようと何度も試みているのです。
当然、この周辺は私の"才能"の影響下・・・できる筈がありません。
本当に愚かなる種だ、人間の雄というのは・・・
誠也
「一体何をした!」
ダーク元帥
「下賎の種に何故教えねばならないのかが理解できませんね。」
夢華
「あの・・・それって私も入るのか?」
ダーク元帥
「いえいえ、貴方はレディーでしょう・・・」
誤解を与えてしまいましたね。
そう、下賎の種というのは人間の雄なのです。人間ではありません。そして私はレディーは全て守るべき尊い種であると考えています。
誠也
「あんた馬鹿にしてるだろ?」
ダーク元帥
「いえいえ、人間の雄という下品な種を見下しているだけですよ。」
◇◇◇夢華◇◇◇
ダーク元帥と誠也の戦いが始まった・・・いや戦いと言うより、逆上した誠也でダーク元帥が遊んでいる感じだ・・・全く相手になっていない・・・
更に彼は遊びながらでも誠也が私達に危害を加えられない位置に立っている。
見た目はふざけた変人だが、凄い人だというのが直ぐに分った。
SKBEという組織に居る者達に共通して言える事だが、彼等はふざけているが能力は極めて高い・・・
私が抱き抱えている夢でさえあのふざけた態度で私と同じ・・・いや機転が効くという意味では私より上だ・・・私は今まで必死で頑張ってきた・・・が何だろうそれがバカバカしく思えて来てしまった。
今まで必死で崩れない様に積み上げて来たものが、いとも簡単に崩れてしまう弱々しいものだった・・・私は今まで何のために・・・自分の弱さを隠しひたすら頑張ってきたのは・・・
夢
「う・・・腕が痛い・・・寝違えた?!」
間抜けな事を言いながら、夢が目を覚ました。
彼女の肩の傷は、私が応急処置をして血は止まっている。
幸いな事に、重要な神経や血管が傷付いていなかったようだ。
夢華
「起きたか・・・安心しろ私達は助かった。」
夢
「え?あ・・・そっか・・・私・・・」
夢は、さっきの事を思い出し顔を曇らせる。
夢
「夢華・・・ごめん・・・」
夢華
「何故私に謝るんだ?」
夢
「私・・・調子に乗ってた・・・貰った力なのに・・・自分の力じゃないのに・・・」
夢はそう言うと、私の胸に顔を埋め泣きだしてしまった。
いつもの調子でヘラヘラするのかと思っていた私は慌てた。
私の想像以上に彼女の心はボロボロだったのだ・・・どうしたらいい・・・
とはいえ私もボロボロだ、今までの自信もプライドも跡形もない・・・
私は何も言えず、彼女を強く抱きしめた。
私の目の前では、ダーク元帥が誠也をどんどん追い詰めていく。
どうやら彼は誠也の再生能力を何らかの力で封じているようだ・・・
上を見てもキリが無いという事か・・・
そして、決着が付いた・・・誠也が力尽きて動けなくなった。
その時、
???
「痛元帥閣下!痛元帥閣下はおれれますか?」
その声に、カッコ良くポーズを決めようとしていたダーク元帥が思わずズッコケタ・・・何だろう色々台無しだ・・・
声の主は、メイド服を着た栗色の瞳と三つ編みにした同じ色の髪が特徴の少女である。
ダーク元帥
「ロ・・・ローザさん・・・この状況でその名前は・・・」
メイド服の少女
「別に良いだろ変態仮面。・・・でこの人は・・・」
ダーク元帥
「ああ、紹介します、ネコ耳衣装の方が守崎 夢さん、軍服の方が守崎 夢華さんです。」
ダーク元帥が私達を紹介するとその少女は彼の元に歩み寄りそして・・・
ガンッ
彼のつま先をかかとで思いっきり踏みつけ、そのまま私達の方に顔を向け、"はじめまして、私はローザ=マリエンヌ中将だ"と自己紹介してくれた。
その後ろで、ダーク元帥が悶絶しているが、気にする様子は無い・・・
そして、彼女は、泣いている夢に気付くと、踏みつけた足に更に力を加えつつダーク元帥をまるでゴミを見る様な目で見つめながらこう言った。
ローザ中将
「おい、変態仮面!遂に我慢できずにやりやがったな!」
ダーク元帥
「ご・・・誤解だ!ローザ!!」
ローザ中将
「"さん"はどうした!変態仮面野郎!!」
どうやら、彼女は夢がダーク元帥に変な事をされて泣いていると勘違いしているようだ。
このままでは哀れなので、私が事情を説明した所、彼女は"流石は痛元帥閣下"と納得した。
何だろう、彼女はおそらく彼の部下・・・しかしこの敬っているのか馬鹿にしているのか良く解からない微妙な態度は・・・
ダーク元帥
「お気になさらず、これはローザの愛情表現です。」
ローザ中将
「"さん"はどうした!変態仮面野郎!!」
ダーク元帥
「お気になさらず、これはローザ"さん"の愛情表現です。」
ローザ中将
「さすが痛元帥閣下♪」
どうやら何時もの事のようだ・・・気にしない方が良さそうだ。
そして、先ほど何故ローザさんが痛元帥・・・もとい、ダーク元帥を探していたのかというと、どうやら教会中の天使の掃討の後、大天使ラファエルの捜索を行ったのだが、その姿が見当たらないため、逃げた可能性があるとの報告の為だったらしい。
他の天使を足止めに使い自分だけ逃げるとは・・・
しかし、ここの天使達を一掃した事で、ラファエルが率いていた天使の軍団は壊滅状態となった事に間違いは無いようで、当分は何もできないので、急ぎで後を追う事も無いそうだ・・・というより例え消滅させたとしても、時間が経てば復活するのであまり意味が無いとダーク元帥が教えてくれた。
何とも面倒な奴らだ・・・
夢華
「それなら、可能な限り速やかに帰還したい。」
私は速やかな帰還を願い出た。
というのも、私に抱きついたまま泣き続けている夢の精神状態が心配だからである。
何とか立ち直ってくれると良いが・・・私も人の事を言える状況では無いのだが・・・