第10話 逆恨み
◇◇◇夢華◇◇◇
小職は今、兄上と全力疾走中である。
闘気で強化された状態での全力疾走は、自動車より早いので移動に制約の無いこの方法が一番効率的だ。
何故走っているのかと言うと、帝国近衛師団が護衛していたトラックが、たった一人の若い男の襲撃を受け、皇居から神京駅の式典会場に護送中だった三種の神器が奪われてしまったのだ。
小職も兄上も護衛に加わっていたのだが、予想だにしなかった突然の出来事に対応しきれず、犯人の男の逃走を許してしまったのだ。
そして、男が逃げた方向に向かって全力疾走中というのが現在の状況である。
士郎
「夢華、何か気配を見つけたか?」
夢華
「ダメだ・・・完全に見失った・・・」
たった一人だと油断した・・・まさかあれほどの能力持ちだったとは・・・
襲撃した男は、大型の拳銃を自在に操り、護衛の兵士を次々と射殺していったのである。
更に、銃弾は闘気では無いが、小職と同様に何かの力で覆われ、非常に高い威力を持っていた。
その威力は、一撃でトラックを破壊する程である・・・その威力に翻弄され対応が遅れてしまったのだ・・・
そして、小職と兄上が後方に控えていた車両から飛び出した時には事は全て終わり、犯人は逃走してしまった・・・やはり小職も前衛の部隊にて待機すべきであった・・・くそっ・・・
士郎
「二手に別れよう、他の兵が追い付いてくるまでの時間が惜しい」
夢華
「わかった・・・」
過ぎた事を悔やんでも仕方ない、他の場所を固めている兵士達からの連絡も無いし必ずこの辺りに潜んでいるはずだ。
他の兵も小職達と同じように速く走れればもっと大掛かりに探せるのだが、特殊な能力を持たない一般兵にそれを求めても仕方がない・・・二人で手分けして何とか見つけるしかない・・・
犯人の男
「おやおや・・・守崎 夢じゃないか・・・まさか本当に出会えるとはな・・・」
夢華
「残念だったな・・・小職は帝国陸軍所属の守崎 夢華少尉である。」
これは幸運だったかもしれない。
犯人の男が、小職を夢と間違えて出てきてくれたようだ・・・
だが、この男・・・夢を知っているようだが・・・いったい?
犯人の男
「ちぃ・・・人違いか、まぁ・・・なら代わりにお前で良いやぶっ殺すの」
夢華
「な・・・」
小職は言葉を失った・・・
この男、夢を殺そうとしていたのか・・・何故?
夢華
「貴様!夢の何なのだ?良い関係の者とは思えんが・・・」
犯人の男
「ああ、私は元々中学校の教師でしてね・・・ある生徒・・・守崎 夢が自殺したせいで退職に追い込まれましてね・・・そのお礼をと思いましてね。」
夢は元々住んでいた世界で死亡した事で邪神達と出会ったと聞いていたが・・・
まさか自殺だったとは・・・
それより、この男が教師だと?自殺した夢に責任を転嫁し逆恨みする様な奴が・・・
夢が不憫でならんな・・・こんな性根の腐った男の教え子だとは・・・
そうだな・・・夢の代わりと言っていたな・・・ならば小職が代わりに制裁してやるとしよう。
夢華
「なるほど・・・それで夢の代わりに小職をという訳か・・・」
犯人の男
「そうなりますね。それに夢と知り合いみたいですし、居場所も教えて頂ければね・・・」
夢華
「言うと思うか?それより、奪った物を返してもらいたいのだが?」
小銃を構え、犯人の男に狙いを定める。
犯人の男
「それはできませんね・・・」
犯人の男も拳銃を構え、戦闘態勢となった。
理由はともあれ、この男が奪った三種の神器を持っている事は間違いない・・・
なら話は早い・・・要はこの男を叩き潰せば良いだけなのだ・・・
帝国近衛師団の小職が負けるわけがない、よって、事件はもう解決しようなものだな・・・