第1話 ドッペルゲンガーじゃありません!
◇◇◇夢◇◇◇
私は今、大日ノ本帝国口という名前の駅のホームに立ち呆然としている真っ最中でございます。
そしてそんな私の目の前を、名鉄6750系の2次車が釣り掛けモーター特有の爆音を響かせ走り抜けていきました。
そう、私が呆然としている理由はこいつらのせいです!
確か私は戦前の日本みたいな世界だと思い、楽しみにしていた筈ですが、その記念すべき到着駅で迎えてくれたのは、高架化され近代的なスラブ軌道により高速化された線路、合理化を象徴する自動放送、そして近代的な車体を旧時代的な釣り掛け音を響かせ爆走する6750系・・・確か、リアンお姉さんは"新旧の技術が入り乱れたカオスな世界"って説明してたけど、6750系・・・確かに混ざってる・・・混ざってるけど!!
んで、トドメに駅や列車内に居る名鉄の制服を着て歩き回ってる職員さん・・・名鉄なにしとるん!!
・・・てな具合に、見事に戦前ムードをぶち壊された感を堪能しております。バカヤロー!
気になったので、駅員さんに聞いてみたら、この鉄道はエアール第4世界にある名鉄名古屋駅ゲートから次元軌道経由で伸びる"帝都口線"という飛び地路線なんだそうです。
ちなみに、月に1回の頻度で、動態保存中のキハ8000系(北アルプス)が名鉄名古屋駅から延長運転で乗り入れて来るそうな・・・
もうヤメテ!これ以上戦前ムードをぶち壊さないで!!
戦前に国鉄特急塗装とか無いからね!!
それは置いといて、この"帝都口線"は、次元軌道と繋がるこの大日ノ本帝国口駅からその首都である帝都近郊圏内と圏外の丁度境目に位置する帝都口駅までを結ぶ、前線高架スラブ軌道の超高規格路線だったりします。
というのも、SKBEの次元軌道との接続駅を建設する際に帝都から遠く離れたこの場所が帝国政府から示されたのが原因だったりします。
まぁ、首都に異物を入れたくないという思惑があったのでしょうねぇ・・・
んで、次元軌道から乗り入れた列車を速やかに帝都まで運行できる路線として建設されたのがこの"帝都口線"なんだそうな。
ただ、SKBE直営の鉄道は帝国政府が難色を示した為、エアール第4世界の名鉄に運営委託する形でようやく話がまとまったそうな・・・
そして、この路線の主力が6750系なのは、走行系の整備をこの世界の工場に委託する形を取って不要な摩擦を避けているんだそうです。
まぁ、サービスの質を極力落とさずにって考えると妥当な選択肢だったと思われます・・・思われますが、見事に戦前情緒溢れる景観を損なっているのは間違いないでしょう。
まだ停車してるSnow Expressの発車時間まで時間がありますが・・・
疲れたので早めに列車に乗り込もうとしたとき、背後から"あれ?夢華少尉なぜこんな所に?"って声をかけられた。
振り返ると、旧日本陸軍の制服を着た若い兵隊さんが立っていました。
当然、私はその人を知らないし、名前も夢華ではなく夢です。
おそらく人違いでしょう・・・・
夢
「私は夢・・・多分人違い・・・」
若い兵隊さん
「またぁ・・・部下に他人のフリとか酷過ぎやしませんか?」
どうやら、私がボケをかましている認識の様ですが・・・さてどうしよう・・・
1 無視して乗り込む
2 無視して乗り込む
3 無視して乗り込む
4 無視して乗り込む
うん、我ながら酷い選択肢だねぇ・・・自覚はしてるよ。
でもさぁ・・・面倒なんだからしょうがないじゃんね。
・・・て事で、サヨナラ兵隊さん♪
という感じに綺麗に逃げようとしたら、腕掴まれて"待ってくださいよ!酷いじゃないですか!!"って言われた・・・ちぃ、逃げられなかったか・・・
んで、なんか文句を言い続けてる若い兵隊さんを無視して、次はどうやって逃げるかを考えていると・・・
少女
「何を騒いでいるんだ?」
兵隊さんの斜め後ろから、どこかで聞いた事のある様な声がしました。
若い兵隊さん
「え?夢華少尉?え?え?えええええ?」
兵隊さんがこっちと後ろを見てフリーズしてしまいました。
一体何を見たんだいと、兵士の陰に隠れて見えなかった声の主を移動して確認した瞬間、私もフリーズ!
そして、声の主も私を見てフリーズ!
どうしてこうなった?って思った人の為に説明すると・・・声の主が軍服を着た私だった・・・
言ってる意味が分からない?
仕方ないじゃん!言葉通りなんだし・・・
私のトレードマークの黒髪ぱっつんショートボブヘアーも同じだし、身長も眼の色も、肌の日焼け具合も・・・まぁ、強いて言うなら、私より軍服着てる方が目付きが鋭い位でしょうか・・・
完全にドッペルゲンガー状態です。
軍服着た私
「き・・・貴様!何者だ!!何故私と同じ姿をしている!」
フリーズ状態から復帰した軍服姿の私が、なんか強い口調で私に質問してきてます。
完全に私は不審者扱いの様です。が・・・
夢
「聞きたいのはこっちの方・・・貴方は何者?」
それを聞きたいのは私の方なんですよ。
そんで、私にとっては貴女の方が不審者なんですからね!!
という思いを込めて言い返してやったら、キッって睨まれた。
怖いから睨まないで頂きたいのですが・・・
しかも、私と瓜二つがやってるとかね、自己嫌悪感全開です。
絶対にこっちからは名乗ってやらないからね!
夢華
「その態度は気に食わぬが・・・そちらの言い分も正論だな・・・私は守崎 夢華だ。」
あれ?
なんか、普通に名乗ってくれました・・・気に入らないと言いつつも私の言い分も間違っていないと冷静に判断した上での大人な対応です。
ここで捻くれて名乗らないのは、子供みたいなので素直に名乗っときましょうかね・・・
夢
「夢・・・守崎 夢・・・」
夢華
「姿だけでなく、名前までそっくりか・・・気持ち悪いな。」
夢
「同感・・・双子になったみたいで、変な気分・・・」
何でしょうか・・・さっきまで警戒モード全開で顔が強張ってた、えーと夢華さんでしたが、私が名前を名乗ったら警戒が解け表情も少し和らぎ、フレンドリーな良い人っぽい雰囲気になりました。
やっぱりお互い名前を名乗るのって大切なんだね・・・名前が分かることで、知らない人じゃなくなるしね。
夢華
「ふむ・・・何故急に警戒を解いたか不思議そうだな・・・」
おうふ、なんか知らないけど、私の思ってる事読まれた・・・顔に出てたかな?
とりあえず、頷いて理由を教えてもらおう。
夢華
「何、簡単な事だ・・・何か善からぬ事を企むような輩は、素直に名を名乗ったりせんからな。」
つまり、私が貴女に成り済まして何か悪さしようとしてるって思ってた訳ですかね?
ちょっと酷すぎね?それ・・・貴女に成り済まして悪さするって・・・私はドッペルゲンガーですか?
夢
「私・・・貴女に成り済ませる程、器用じゃない・・・」
夢華
「ああ、それは話して直ぐに分かった・・・こんなしどろもどろで話す奴が成り済ましは無理だなと。」
ちょ・・・幾らなんでも酷過ぎるよ!
自分で言っといてなんなんだけどさぁ・・・この人遠慮なくバッサリ行くタイプの人っぽいです。
外見はソックリでも、中身は全く正反対の性格みたいです。
夢華
「まぁそう落ち込むな、お陰で疑いが晴れた訳だしな・・・」
夢
「素直に喜べない・・・」
本当に素直に喜べないよ!つまりは私がダメダメだから無害判定って事でしょ?
何か悲しくなってきちゃったよ・・・泣いていい?
てか、もう部屋に帰りたいです・・・思う存分不貞寝して明日への活力を充電したいです・・・
夢華
「まぁ、そういじけるな。そこの蕎麦で良ければ奢ってやるから・・・」
思いっきり凹んでネガティブ思考に突入しながらイジケてる私の頭を撫でながら、夢華さんが何か言ってます・・・てか、同い年同じ背格好の相手に撫でられるのってかなり屈辱?!
で、私がそんなもので釣られる訳・・・・・・・・ごめんなさい・・・・見事に釣られました。
・・・だってお腹すいてたし美味しそうな匂いしてたんだもん!!
こらそこ!ちょろいとか言うんじゃありません!!
んで、お蕎麦を食べながら色々話して情報収集してみました。
夢華さんは、この国で信仰されている神皇という神様的な存在、"現人神"を天使達から守護するため組織された神皇警護隊の兵隊さんなんだそうです。
ちなみに、私が双子の邪神を守護する黒剣士だって教えたら、"そこまでソックリなのか"って言って笑ってました。
確かに、見事なまでに職業被りしてるね、性格違うけど・・・
まぁ、それは置いといて何でそんな人がこんな所に徘徊してるかと言うと、どうも最近天使達の活動が活発化して何かの前触れでは無いのかと夢華さんは考えたそうです。
だから、非番の日にこうして何かの手掛かりが無いかを探してるんだとか・・・
うわぁ・・・完全に仕事人間だよこの人!ワーカーホリックまっしぐらだよ!
私には絶対無理だし、やる気も無い!!
何故なら私は"サボれるチャンスは逃さない!"そして"働きたくないでござる!"がモットーですからね♪
って言ったら胸を張って言ったら・・・"それは胸を張って言う事じゃないぞ、ダメ人間"ってバッサリ言われました・・・。
まぁ、真面目な人なんだなって言うのは良くわかった。
でもね、不思議なんだよね。
私ってさ、こういう不真面目な性格だから、夢華さんみたいな超真面目人間って苦手な筈なんよ。
だけど、何故か夢華さんは苦手な感じがしないというか、他人と思えないというか・・・
それを伝えたら、"私も本来、夢の様なヘタレを見たらブチ切れてる筈なのだが・・・何故か怒りが湧ん"って言われました。
本気で凹むぞ!本気で泣くぞ!!
ちなみに最後には私が夢華さんを呼ぶ時は"脳筋"で夢華さんが私を呼ぶ時は"ヘタレ"で落ち着きました。
なんだろう、距離が縮まるほどお互いの為になって無い気がするこの関係は・・・
てか"ヘタレ"とか本気で喧嘩売ってるでしょ!私の"脳筋"も大概だと思うけどさ・・・
まぁそれは置いといて、楽しく?お話しつつ情報交換してたら列車の出発時間になったので、脳筋と若い兵隊さんにサヨナラして列車に乗り込みました。
お互いの職業からしておそらくまた会う事になるでしょう。
だってね、双子がここに来たって事はその神皇って神様へのご挨拶だと思うしね。
お互い仲良くなれて良かったと思うよ・・・ちょっとヘタレ言うなって思う所もあるけど、脳筋って言い返してるからまぁ良いか・・・
扉が閉まると列車は帝都"神京"に向かって走り出しました。
今度こそ戦前世界のムードが味わえると良いなって思いました・・・